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八千草麗は諦めない③


 色々あって夏休みに入った。いや、正確に言うと今日は祝日の海の日だからまだ夏休みではないんだが、いずれにせよ夏の長期休みに入った。

 ただ、せっかく世間はこれから夏休みに入っていくというのに、僕はといえば部室に来てカリカリと勉強をしている。悲しいことにテスト前とやっていることが全く変わっていない。

 二ヶ月前の僕だったら部室で一人で勉強なんて絶対してなかっだろうなあ。きっと今頃は自分の部屋で勉強か、家の近くの図書館で勉強、もしくはどこかの塾か予備校の夏期講習にでも行こうかなと考えていただろう。うん。結局全部勉強だったわ。これはもうただのクソガリ勉男だわ。青春を朝廷に返上した方がいいわ。

 クラスのやつらは色んな計画を立てていたなあ。海に行く連中もいればディズニーシーに行く計画を立てている連中もいた。肝試しするとか言っていたやつもいた。祐輔が「高校生にもなって肝試しなんてやりたくねえよ」なんて言っていたっけ。まあ僕は一つも誘われなかったけどな。

 そんな絶賛仲間外れ中の僕だが、先程も言ったように夏休み中も家に引きこもることなく朝から登校し、部室に来ている。

 何故か。理由は簡単。綾辻が夏の補習に引っ掛かったからだ。

 数学Ⅰと数学Aの合計点が十五点という壊滅的な点数をとった綾辻は、我が校名物、地獄の夏期特訓に参加することになった。英語の点数はよかったので、一番きついコースは免れたが、朝の九時から昼の二時までガッツリと補習が組まれている。

 本人は当然その補習に出たいはずもなく、今朝からずっとどんよりしていた。


「……ハルくぅーん。おはよぉ……」


「お、おう……。お前大丈夫か? 目の下のくまがすごいぞ」


「昨日の夜ね、補習がいやすぎて一睡もできなかったの……」


「……そこまでなのか。来年は補習にならないようにしないとな」


「うぅ。まだ今年の補習も始まってないのに来年の補習のことなんて考えたくないよぅ……」


「え……あ、ごめん。確かにそうか。まあでも、二週間の辛抱だし」


「うぅ……。二週間長いよぅ。うぇーん! ハルくんのいじわる!」


「なっ……! 僕のせい!? と、とにかく行くぞ。このままのペースで行くと補習初日から遅刻になる!」


 僕はその後、ふらっふらの綾辻をなんとか教室まで連れていき、教室に着いてからも行きたくないとすがりつく綾辻を退けて部室にやってきた。

 朝っぱらからどっと疲れてげんなりしていたが、その後は意外と勉強に集中でき、あっという間に三時間が経過して現在に至る。


「そろそろ昼飯の時間か……」


 僕は椅子に座ったまま、ぐっと伸びをした。さすがに三時間ぶっ続けで勉強すると疲れるな。

 部室には僕以外に江末も来ていた。特にすることがないので遊びに来たということで、いつもの自分の席に座り、今もスマホをいじり続けている。こいつ本当にスマホが大好きだよなあ。自称宇宙人のくせに、時々今時の女子高生らしいところがある。


「なあ江末。さっきから携帯で何やってるんだ?」


「……この間新しく出たスマホゲー」


 江末はスマホを動かす手を止め、僕の方に顔を向けた。


「へー。江末って将棋以外にもスマホのゲームとかもやるのか」


 確かに宇宙人診断アプリとか趣味診断アプリとか色々やっていたもんなあ。

 僕の言葉に江末はこくりと頷き、


「……我はゲームと名の付くものはなんでも好き。特に最近のスマホゲーは本当にレベルが高い」


「こないだ清沢先生もそんなこと言ってたなー。なんかキラッキラの男のキャラクターが出てくるリズムゲームを無理矢理やらされた」


「……もしかしてイケ☆メンライブステージ?」


「あーそう! それそれ! イケメンアイドルが歌って踊るやつ。なんか全キャラレベルMAXでかなりやりこんでいるみたいだった」


「……そう。愛ちゃん先生があのゲームを。しかもレベルMAX……」


「なんだ? あのゲームに何かあるのか?」


「……あれは地球人の雌の人生を狂わすゲーム」


「じ、人生を狂わすゲーム?」


「……そう。寂しい独身女性が軽い気持ちで無料登録をしたら最後。気が付いたらのめり込んで後戻りできなくなる」


「あれってそんなに怖いゲームなのか!?」


「最初は無料でレベルアップするイケメンたちが、そのうち課金をしないとレベルアップしなくなり、課金をしないと寂しそうな顔で『僕のこと愛していないんだ……』と言ってくる」


「めっちゃ弱味に漬け込んできてる!?」


「……人肌恋しい独身女性がそんな言葉に勝てるわけもなく、もて余した貯金口座を使って徐々に、徐々に課金を……」


「やめろ江末ぇ! 僕はもうこれ以上聞きたくない!」


 清沢先生ぇ……。そんな寂しい思いをしていらしたんですね……。畜生! あの素敵なアラサーに結婚相手は見つからないのか!?


「……王子。気持ちはわかる。でもこれが課金ゲームの悲しい現実」


 江末は慰めるように僕の肩をポンと叩いた。

 ぐっ……! 清沢先生。 先生にはきっと素敵な結婚相手が見つかりますから……!

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