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八千草麗は諦めない②

「……麗はどうしてここにいたの?」


「テストの順位表を見に来ていたのよ」


「……順位表……。麗も載っている?」


「ええ。一応ね」


 江末さんは顔を少し上に向けて順位表を見上げた。少しずつ視線を下げていくと私の名前を見付けたらしく、小さく「あ」と声を漏らした。


「……麗すごい、四番! さすが生徒会長!」


「う、え? す、すごいかしら。有金くんは二番だし、鵜久森くんなんて八九〇点台よ? 私なんて全然……」


「……あの二人は別次元。そもそも王子は宇宙人だし、駆もあの様子だと、もしかしたら宇宙人かもしれない」


 確かに本当にそうかもしれない。ハルくんの異常な高得点はもちろんだし、有金駆もテスト前に将棋ばかりしていてあの点数だ。私からしたら人間業とは思えない。


「そんな宇宙人って……」


「……それに人の順位は関係ない。ただ単純にこの学校で四番はすごい、と我は思う。……でも、麗は満足してない?」


 江末さんは可愛らしく首を傾げて私に聞いた。


「ありがとう江末さん。……そうね。確かに本当はもっと上を狙っていたわ」


「……上って、一番上?」


「そうよ。一番上。そのつもりで頑張って勉強してきんだけど、全然届かなかったの」


「……そうとは知らなかった。我、無神経なことを言ってしまった……」


「いいのよそんなこと。気にしないで」


「……でも」


「本当はね、少し落ち込んでいたんだけど、さっきの江末さんを見ていたら元気になっちゃったわ」


「…………その話はもうしない約束」


 少し不満そうに頬を膨らませる様子が可愛らしくて、私は微笑ましい気持ちになった。


「うふふ。ごめんね。もうしないわ」


「……でも麗はどうして一番になりたいの?」


「難しい質問ね。どうしてかしら……」


 江末さんのその言葉に、私は答えることが出来なかった。


 どうして一番になりたいか、か……。


 本当は自分の中ではわかっている。私が学年トップをとりたかった理由は、ただ単に好きな人にいいところを見せたかったからだ。

 今回のテストで一番上の順位になっていたら、真っ先に彼に報告に行こうと思っていた。そしてこう言いたかった。


 ねえハルくん聞いて。私、今回のテストで学年トップだったの。私、頑張ったでしょ! すごいでしょ! 少しは私のこと見直したかしら。 これからは勉強のことはなんでも私に聞いていいのよ。学年トップの私がなんでも教えてあげるわ。数学だって英語だって実技科目だって、なんでもいけるわ。 なーんでも私に任せていいのよ!


 想像しただけで体の奥からぽかぽかと暖かいものが込み上げてくる。


「こ、これは間違いなく二人っきりで勉強の流れになるわ……!」


「……二人っきりで勉強? 麗、何の話?」


 江末さんがきょとんとした様子で私を見ているが、一度気持ちが高まってしまうと私の妄想は止まらない。

 

 最初は頼りになるお姉さんでいいの。でも二人っきりで勉強をしていたら、そのうちいい雰囲気になってきて、二人の距離が徐々に近づいて、恥ずかしそうに顔を赤くしたハルくんが、至近距離で私の目をじっと見つめるの。


「だ、ダメよ……!あくまでも勉強の時間なんだから……」


「……ねえ麗?」 


 え……!? だったら恋の勉強を教えて欲しい……? そ、そんな。私はあまり経験がないし……。 し、しかも実技科目を!? ダメよ! 私が言った実技科目っていうのはそういう意味じゃないのよ! で、でもハルくんが望むのなら……って私の馬鹿! 破廉恥大臣! とにかく実技っていうのはそういう意味じゃないの! そっちの実技じゃないのよ!


「そっちの実技じゃないのよぉーっ!」


「…………麗! 戻ってきて!」


 私は江末さんに体を揺さぶられ、名前を呼ばれたことで我に返った。


「はっ……! あ、えっと……その……なんの話だったかしら」


 しまった。またやってしまった。ハルくんのことを考えるといつもこうだ。どんどん気持ちが高まって、周りが見えなくなってしまう。


「……まったく。麗は時々一人で自分の世界に入ってしまう」


「ご、ごめんなさい。ちょっと頭が真っ白になっちゃって……」


 私は気が動転した状態のまま、とりあえず頭を下げた。すると江末さんは、やれやれといった様子で腕を組み、


「……とにかく麗が一番になりたいのなら、我に考えがある」


「私が一番になるための考え?」


 私が聞き返すと江末さんはこくりと頷き、


「……そう。一番の取り方は一番の人に教えてもらえばいい」


 一番の人。それが誰を指すかは聞くまでもなかった。

 ハルくんに勉強を教えてもらうということね。うーん……。でもそれだと完全に本末転倒だわ。私が期待していたものと、立場が真逆になってしまう。だから有りか無しかと聞かれればもちろん無……。


 ……いや、待って。一度冷静に考えてみないといけないわ。

 ハルくんに勉強を教わるということは、結局それも二人っきりになれるということよね。二人っきりの部屋で横に並んで肩を寄せあって勉強……。私が難しい問題を解くと、ハルくんが優しく褒めてくれたり、場合によっては頭を撫でてくれたりとか。も、もしかしたら、難しい問題を解く度にほっぺにキスとか……。

 これって最高のシチュエーションになるんじゃないかしら……! 

 私は一同深呼吸をし、目を瞑って想像してみた。ハルくんが嬉しそうに褒めてくれて、頭をなでなで。そして徐々に顔が近付いてきて……。


「きゃぁーっ♥ は、破廉恥よ! で、でもきっとこれは許容範囲! 許される破廉恥なの! いい破廉恥だわ!」


「……う、麗? いい破廉恥?」

 

「江末さん、有りだわ! 大有りよ! 最高の作戦ね」


 教えるのも教わるのもどっちだって一緒よ!どっちも最高だわ!

 私は彼女の綺麗で小さな手を無理矢理握り、固い握手を交わした。

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