綾辻穂香は確かめたい①
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八月にある学期末テストの三日前のお昼休み。わたしは同じクラスの竜崎一颯ちゃんと一緒に教室でお昼ご飯を食べていました。
一颯ちゃんはクラスで初めて仲良くなった女の子で、最近よく一緒にごはんを食べます。
髪はショートヘアー、手足が長くてモデルさんのような外見です。容姿だけみると芸能人のような一颯ちゃんですが、男勝りな性格もあってクラスの人からは怖がられていたりもします。
でも話してみるととっても面白くて、ぶっきらぼうな言葉の中にも優しさのある素敵な女の子です。
そんな一颯ちゃんは今わたしの隣のハルくんの席に座って自作のお弁当を不機嫌そうに食べています。サラリーマンのおじさんが持っていそうな紺色の地味なお弁当箱の中に、鮭やほうれん草のひじきなどの渋い中身。いかにも一颯ちゃんらしいです。わたしは今日はママが朝早くからお仕事だったので行きのコンビニで買った大好きな焼きそばパンとクリームパンを食べています。
わたしが一つ目の焼きそばパンを食べ終わり、二つ目のクリームパンをくわえた時、突然一颯ちゃんが言いました。
「ねえ穂香。あんたと鵜久森ってどこまでいってんの? さすがにもうキスくらいした?」
「…………ふぁい?」
「いや、ふぁいじゃなくて。鵜久森とどこまでいってんのかって。あんたたちっていつもイチャイチャしているから」
「ふぁ……!ふぁだふぉういうふぁんふぇいじゃふぁい!」
「とりあえずパンを飲み込みなさい」
一颯ちゃんに言われたので、わたしは口の中に入っていたクリームパンをもぐもぐごっくんと飲み込みました。そしてお茶をぐいっと一口飲んで、
「ぷはぁっ。もう、一颯ちゃん! わたしとハルくんはまだそういう関係じゃないよ!」
「へー。なんだそうなの。もうとっくに付き合っているものだと思っていたけど。ていうか逆になんで付き合わないの?」
一颯ちゃんは大して興味もなさそうな様子なのに、ぐいぐいわたしに聞いてきます。
「……わたしとハルくんが?」
「そう。穂香と鵜久森が」
「むぅー……。そんなこといわれてもなぁ……」
当事者であるハルくんにも意見を聞きたいところですが、ハルくんは昼休みが始まると同時に「図書館で勉強してくる」と言い残して教室から出ていってしまいました。まったく。肝心な時にいないんだから。
でも一颯ちゃんの言っていることは、わたしとハルくんは付き合っていてもおかしくないということと同じです。つまり私とハルくんは端から見れば恋人同士。周りからそう見えるのはちょっと嬉しいです。
「もしかしてあの男は穂香のことが好きじゃないのかな」
「えぇー!? それは困るよ! 絶対にそんなはずないもん!」
ハルくんがわたしのこと好きじゃないなんて、そんなことは絶対に有り得ません。わたしとハルくんの心は通じ合っていて、お互い同じ気持ちのはずです。今はまだそれを口に出していないだけなんです。
「そんなはずないってあんたねえ」
一颯ちゃんは呆れたように言いました。でもわたしには確信があります。
「だってハルくんはいつもわたしにすっごく優しいし……」
「鵜久森は無愛想だけどけっこう誰にでも優しい気がするわよ。私が学校休んだ時も授業のノート貸してくれたし。他の女子にも優しくしてんじゃないの」
「なっ……! そんな……ち、違うもん! わたしにだけ特別優しいもん!」
「まあ穂香がそう言うんならそうなのかも知れないけど、油断はしない方がいいわね」
「そ、それにわたしとハルくんはいつも一緒だし!」
「それは清沢先生に頼まれたからじゃなかったっけ」
「うぅ……。それは確かにそうなんだけど……」
なんだかわたしは自信が無くなってきました。一颯ちゃんに指摘されればされるほど、わたしはハルくんにとってただのクラスメイトな気がしてきました。
ハルくんはもしかして本当にわたしのこと好きじゃないのかな……。愛ちゃんに頼まれているから一緒にいるだけなのかな……。
「一颯ちゃん、どうしよう……。わたし、悲しい気持ちになってきちゃった」
「ちょ、穂香? 私はあんたにそんな泣きそうな顔して欲しいんじゃなくてね……」
「ううっ……ハルくんがわたしのこと好きじゃないなんてやだよぅ」
悲しくなったわたしは目頭が熱くなり、目にじわっと涙が溜まってくるのがわかりました。
「わああああ! 泣くなって穂香! 冗談だよ冗談! ちょっとからかっただけだから!」
「ふぇ……? 冗談?」
「うん。鵜久森は穂香のことが好きに決まってるって!」
一颯ちゃんはさっきの態度から一転、わたしを元気付けるように言いました。
「……本当?」
「うん。多分ね」
「多分なの!? そこは力強い言葉が欲しかったよぉ」
無責任に絶対とは言わないところが一颯ちゃんらしいです。でも初めて見る一颯ちゃんの狼狽えた様子がおかしくて、わたしは少し元気が出てきました。
「私が言いたいのはね、鵜久森は誰にでも優しくていいやつだから悠長にかまえてのほほんとしてると誰かに取られちゃうよってこと」
「そうなのかなぁ……。ハルくんってやっぱり他の子からも人気だったりするのかなぁ」
「さあね。私はあんなクソ真面目なガリ勉はごめんだけど」
「一颯ちゃんそれは言い過ぎだよぉ」
「でも成績優秀で将来安泰、それに加えて性格もよくて見た目も悪くないやつなんてなかなかいないとは思うけどね」
「ハルくんて実はモテる要素満載だったの!? わ、わたしどうしよう!」
「まあ鵜久森は超がつくほど奥手だし、色恋沙汰にも疎いやつだから大丈夫とは思うけど」
「なんだぁ。よかったぁー」
「ただ積極的な女子にグイグイ言い寄られたらどうなるかわからないわね」
「もう一颯ちゃん! どっちなの!?」
「要は油断はするなってこと。部活にだって女子が二人来ているんでしょ?」
「八千草先輩とふみちゃん? 二人は大丈夫だよ。二人にとってハルくんは弟と宇宙王子だから」
「……? ちょっと言っている意味がよくわからないんだけど」
「あ、そうだ! いいこと思い付いた! わたし今日帰りにハルくんに聞いてみるよ」
「なんて?」
「『ハルくん、わたしのこと好き?』って」
「……本人に直接聞くの? あんた正気?」
「うんっ! そしたらハルくんならきっと恥ずかしそうに好きって言ってくれるよ!」
ハルくんの口から好きと聞ければわたしも安心です。我ながらいいアイディアを思い付きました。
「あの鈍くてビビりな鵜久森がそんなことを面と向かって言えるかしら……」
一颯ちゃんは不安そうな顔で言いましたがきっと大丈夫です。
ハルくんがわたしに好きと言ってくれたときのことを想像すると、予想以上に恥ずかしくて思わず顔が赤くなりました。
でも楽しみだなぁ。えへへ。直接好きって言われたらどんな気持ちになるんだろう。
そう考えるだけで素敵な気持ちが込み上げてきて、放課後が待ち遠しくなりました。




