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有金駆は落ち目の逆を行く⑧

 さて、そんなこんなで十五分後。さすがにそろそろ終わったろうと日本史ハンドブックを閉じ、隣の綾辻に声を掛ける。


「綾辻の結果は?」


「わたしは今から出るところだよ」


 綾辻はウキウキした表情で自分のスマホの液晶を見つめている。このアプリでこんなに楽しめるなんて綾辻はなんて得をする性格なんだろう。


「あ、出た! えっとわたしの趣味はと……ふぇー。ぼるだりんぐ?」


 ボルダリングか。あのスポーツ登山みたいなやつ。最近若者の間で流行っているってよく聞くなあ。


「ねえねえハルくん。ぼるだりんぐってなに?」


「屋内で行う登山型のスポーツだ。壁から突起物が出ていてそれを掴んで上を目指して登っていくやつ」


「壁をよじ登るの!? なんか楽しそう!」


 綾辻は目をキラキラと輝かせた。この食いつき具合を見るとかなり興味を持ったらしい。


「最近は老若男女問わず人気らしい。ここらへんでも確か駅の近くにボルダリングのジムがあったと思うぞ」


「ふぇー! いいないいな♪ ハルくん! 今度行ってみようよ!」


 綾辻は更に目を輝かせ、小型犬のような屈託のない表情で僕にぐいぐい近寄ってくる。

 ぐわああああ近い!お前は実はかなりの美少女なんだからもっと自覚をしろ!だあああ近くてかわいい!ちかわいい!


「ぐぅっ……ま、まあ別にいいけど。とりあえずテストが終わってからな」


「やったぁ! ぜったぁーいだからね♪」


 綾辻は「ふふーん♪」と満面の笑みを浮かべながら手帳を取り出し、今月の端のスペースに「ボルダリング♥」と記入した。

 そして「あ、予約とかできるか調べてみよーっと♪」と再びスマホをいじりだした。


 あっさり決まったけど、これってテスト後に二人で行くってことだよな。

 休みの日に高校生の男女が二人で遊びに……。

 まあいい。それは最早デートなんじゃないかという気もするが、とりあえず気にしないでおこう。


 さて、綾辻はボルダリングジムを調べるのに夢中になっているし僕は残りの二人の状況の確認でもするか。

 有金はと……む、どうやらまだ集中してアプリをやっているようだ。なんといっても最大で百問だもんな。一問十秒で答えても十六分近くかかる。そりゃ普通にやったら時間もかかるわ。こいつは終わるまでそっとしておこう。

 有金がまだとなると会長は……。


「ふぅー。やっと終わったわ」


 僕が会長の方に視線をやると、ちょうど診断が終わったようで、両手を絡めてグッと大きく伸びをしていた。

 伸びをした時に「んんっ……」という吐息混じりの声が漏れ、胸の辺りはぱつんぱつんになり、大きな二つの膨らみがより一層強調される。


「あら、鵜久森くん。どうしたの? じっとこっちを見て」


「見てませんよ」


「本当? 何だか嬉しそうな顔で私の方を見ているようだったけど」


「嬉しそう? 僕が? ああ。今ちょうど世界が平和になった時の子供たちの笑顔を想像していたので」


「そう……。まあいいわ。それよりみんなはもう終わったのかしら」


「僕はかなり前に終わってて、綾辻もさっき診断結果が出たところです。会長はどうでした?」


「私は今診断結果待ちで……あ。ちょうど出たわ。えーっと私の趣味は……。だ、ダイエット? このアプリはどうして私の体重が増えたことを!?」


 驚愕の表情でスマホの画面を見つめる会長。そんなことまでわかるのかよ。やっぱりこのアプリの会社は恐い。


「体重増えたんですか? 全然そんな風に見えないですけど」


「増えてないわ。失礼なこと言わないでちょうだい。セクハラで訴えるわよ?」


 会長は頬をひきつらせながら僕に言った。いや、今自分で増えたって言ってましたやん。


「そんな滅茶苦茶な」


「全く。そもそも女性に体重の話をするなんてデリカシーに欠けているわ」


 会長は腕を組み不満な表情を僕に向けた。


「それは確かに申し訳ないですけど……」


「それに鵜久森くんはどうせ細い女性が好みなんでしょう。そんなに細い子がいいなら綿棒に顔を書いてそれと結婚すればいいのよ!」


 なんだその新しい女性との出会い方は。新手のサイコパスか僕は。


「か、会長。ちょっと落ち着いてくださいって……」


「ふんっ」


 会長はぷいっとそっぽを向いてしまった。あーあ。怒っちゃった。こうなると面倒なんだよなあこの人。


「会長ー。許してくださいって」


 あれ。ていうかこれって僕が悪かったんだっけ。まあいいや。会長は放っておこう。そのうち機嫌も直るだろ。


 それにしてもここまで出てきた趣味は割かしまともな気がするな。ボルダリングにダイエット。しかも比較的その人に適した趣味がちゃんと出てきている。このアプリの会社も宇宙人診断アプリでの失敗を反省していて、趣味診断アプリにはちゃんとした診断機能をつけたのかもしれない。

 そうなると僕にも何か素敵な趣味が提供されるのではなかろうか。だとしたらちょっと嬉しいんだけど。


 今までの人生でこれっていう趣味なんて無かったもんなあ。


 スポーツは苦手だし音楽もセンス無し。本は読むには読むけど趣味と言える程ではないし、ゲームも最近はやっていない。勉強は好きで家でもよくしてるけど勉強が趣味というのはなんだか気持ち悪いし。


 そんな僕もついに素敵な趣味と出会えるのか。


 僕は期待に胸を膨らませながら結果発表前で止めておいたアプリの画面を人差し指で押した。

 ジャンジャカジャカジャカ……とドラムロールが流れ始める。なかなか粋な演出じゃないか。

 そしてパンパカパーン!という大きな音ともに僕の趣味が発表された。


『ハルぴょんにピッタリの趣味は「タワシ集め」だよ☆』


 なんか聞いたことないクソみたいな趣味が出てきた。


 とりあえず少しでも期待していた自分を地中に埋めたい。

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