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有金駆は落ち目の逆を行く④

 二人目の依頼者である有金の案件は部活終了の時刻になったため明日へと持ち越しになった。


 先生も有金も帰宅し、現在部室には僕と綾辻の二人。


「さて、じゃあ僕たちも帰るか」


「うんっ♪」


 僕と綾辻は昇降口を出ていつものように二人並んで帰路についた。

 ほんの一ヶ月前までは一人で登下校していた僕だが、いつの間にか綾辻と一緒に帰るのが当たり前になり、今では学校のある日は必ず登下校を共にしている。

 もちろん理由は綾辻が極度の方向音痴だから。

 これだけ毎日一緒に登下校をしているのだから少しは慣れてきてもよさそうなものだが、今まで女子との関わりが少なかった僕は未だにドキドキしている。


 毎日一緒なんだからそろそろ慣れろよと自分でも思う。

 でも仕方がない。


 だって綾辻、普通にかわいいんだもの。


 清純可憐な容姿はもちろんそうだが、一挙手一投足がいちいちかわいい。たまに無意識にとってくるスキンシップの破壊力も半端じゃない。

 この間も背後から僕に忍び寄り「はーるくん♪ だーれだ」と言いながら目隠しをしてきた。うん。あれはズルいよ。あんなことされてドキドキしなかったらそれはもう鑑真レベルの悟り具合だから。


 そんなことを考えながら歩いているとふと肘の辺りを少し引っ張られる感覚があった。何かと思い振り返ると、綾辻がニコニコしながら僕のワイシャツをちまっと摘まんでいた。うん。かわいい。


「えへへ。迷子にならないように一応ね♪」


「……そうか」


 そりゃ毎回ドキドキするわ!胸が高鳴るわ!こいつは平気でこういうことをやってくるからなあ!


「今日は新しい依頼人が来てくれて良かったね」


 今日心から部にら久し振りに依頼に人がやってきた。名前は有金駆。全国トップクラスの頭脳で男でもハッとするような顔つきにもかかわらずギャンブル依存症の悲しい男だ。


「ああ。まあかなりとんでもないやつだったけど」


「でも有金くんもやる気みたいだったし」


「あれが口だけじゃなければいいんだけどな」


 これであいつが今日の帰りにパチンコ屋とか寄ってたらどうしよう。普通にありそうでこわい。


「まずは有金くんが放課後何をするか決めないとだね」


「そうだな。明日僕たちと有金の三人と、もし来れば会長も合わせて話し合おう」


「そう言えば今日は八千草先輩は来なかったね」


「生徒会の方が忙しいんだろ。それに今はテスト前でもあるし」


「ハルくんはやっぱり八千草先輩が来ないとさみしい?」


「さみしいって何だよ」


「だって……。ハルくんと先輩はいつもイチャイチャしてて仲良しじゃん」


 綾辻は少し下を向き、口を尖らせた。


「なっ、違っ……あれは会長が少しスキンシップの激しい人だからで」


「その割りにはハルくんいつもニヤニヤにやけてて嬉しそうだけど?」


「ふぁっ!? 僕そんなにニヤニヤしてた? いや、絶対にそれは気のせいだって!嬉しくなんかないし」


「……ふーん」


「いや、ふーんじゃなくてだな……」


 僕が狼狽えながら言い訳を繰り返していると、綾辻は僕のワイシャツから手を離してその場で足を止めた。


「……綾辻?」


 止まった綾辻に合わせて僕も足を止める。綾辻は止まったまま下を向き、何やら考えている様子だ。

 どうしたんだろう。僕の態度に機嫌を損ねたのだろうか。


 そして数秒後、綾辻は意を決した表情で顔を上げ、隣にいる僕の右腕に飛びついてきた。


「……えいっ!」


 体か軽くぶつかり、それと同時に綾辻の細い腕が僕の腕に絡まってくる。


「お、おい綾辻!?」


 そして綾辻はそのまま自分の両腕で抱きかかえた僕の腕にギュッと強く力を込めた。


「ふぬぅ……!」


 綾辻の体の柔らかくて優しい感触とその熱が服を通り越して伝わってくる。


「あや……つじ……?」


 僕は何が起きたのかわからず立ち尽くしていると、熱を帯びた綾辻の腕がするりと離れていった。


「っはぁ……。や、やっぱり、ギュッてひっつくのはまだちょっと恥ずかしいや」


 綾辻は頬を赤く染め、照れを隠すように「えへへ」と微笑んだ。

 そして自分の胸の辺りに手を当てて、


「ちょっと飛びついただけですっごいドキドキしちゃうもん」


 僕は何か喋ろうとしたが、口から出すべき言葉が見つからなかった。


「えへへ。でもよかった♪」


「よ、よかったって何がだよ」


「だってハルくんわたしがギュッてやってもニヤニヤしてたから」


 綾辻はいたずらっぽく笑った。

 不意を突かれた僕は瞬く間に顔が赤くなり、


「なっ……! してない! 絶対にしてない!」


「いやぁーしてたよーハルくん。いつものおっぱいハンターの顔になってた」


「おぱ……おまっ、違うわ! そんなんじゃないから本当に! 僕をおっぱい好きキャラにするなよ!」


「じゃあ嫌いなの?」


「ぐっ、それは……」


「ほらぁーやっぱりおっぱいハンターじゃん!」


「絶対に違う! つーかそもそもおっぱいハンターって何!?」



 その後も僕たちは同じような小競り合いを繰り返しながら帰路についた。

 そのやり取りが楽しくて、有金の相談もテスト勉強のことも完全に頭の中から消え去ってしまった。

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