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江末ふみは馴染めない⑨

 さて、そんなわけで翌日。

 六時間目の授業が終わり綾辻と部室に向かうと、江末が既にやってきており、部室のドアの前で一人で待っていた。


「わぁー! ふみちゃんごめん! 部室開けるの遅くなっちゃって」


 綾辻は小走りで江末の元に駆け寄った。


「……我も今来たところ。全く問題ない」


 江末は今日も綺麗な金髪をサイドテールにしていた。本人の中でお気に入りの髪型なのだろう。

 ふむ、それにしても綺麗な金髪だ。

 昨日から気になっていたが江末はハーフなのだろうか。肌も日本人離れした白さだし、眠たそうで開ききっていない大きな瞳も少し青みがかっている。

 まあ本人にハーフかどうか聞いてもどうせ「純粋な宇宙人」という答えが返ってくるだろうけど。

 僕はそんなことを考えつつ部室を解錠し、三人で中に入った。


「ハルくん、今日って八千草先輩は来れないんだっけ?」


 綾辻は肩にかけていたスクールバッグを昨日使っていた机に「よいしょ」とおろす。

 江末もその向かい側で昨日と同じ席にちょこんと座った。


「いや、生徒会の仕事をしてから来るって言ってたぞ」


「そっかー。なら八千草先輩を待ってから昨日の続きを始めよっか」


「まあ先に始めててもいいとは思うけど」


「せっかくだし待とうよー。それまでゆっくり三人でおしゃべりでもしてよ? ね?」


 何がせっかくなのかよくわからん。


「まあ僕は別にいいけど」


 そう言いながら江末の方に視線を向けると、


「……我も構わない」


「わーい♪ やったー」


 ただ部室でダベるだけなのに、綾辻は遊園地に連れていってもらう小学生のように嬉しそうだ。


「で、何について話すんだ?」


「それはもちろんふみちゃんについてでしょー!」


「……我について?」


「そ!ふみちゃんのことまだよく知らないし、たくさん質問しよーのコーナーだよ!」


「確かに江末について気になることはいくつかあるな」


 ハーフかどうなのかも気になるし、中学校の時はどんなやつだったのかも気になる。


「でしょ? じゃあまずはわたしからね!」


「……合点承知のすけ」


 おい江末。なんで急に江戸っ子になった。


「ふみちゃんって金髪で肌もきれいな真っ白だけど、もしかしてハーフ?」


「……違う。混血ではない。純度百パーセント。正真正銘の地球外生命体」


 江末の回答は完全に僕の予想通りと思われたが、


「……ただ、ママはスウェーデン人。パパは日本人」


「ふぇー! そうなんだ。だからそんなキレイな髪なんだね」


 今日も宇宙人キャラを貫くのかと思いきや、意外にも本当っぽい内容も織り混ぜてきた。

 なるほど。スウェーデン人とのハーフなのか。きっと江末のお母さんも美人なんだろうな。

 とりあえずこれで江末の日本人離れした顔立ちにも金髪にも納得がいった。


「それにしても虚実織り混ぜてくるとは……」


 宇宙人キャラを保ちつつも会話は成り立たせる。意外とこいつコミュニケーション能力あるんじゃないか?


「? ハルくん何か言った?」 


「いや、何でもない。続けてくれ」


「ふみちゃんて今はどこに住んでいるの?」


「……アンドロメダ星雲」


「ふえー! 聞いたことない! 学校から遠い?」


「……遠いどころの騒ぎではない。たぶん一万キロは離れている」


 近っ!アンドロメダ星雲近っ!一万キロって。アンドロメダ星雲は地球から二百五十万光年離れてるから。桁が違うわ桁が。


「すっごい遠いじゃん! じゃあ電車通学?」


 綾辻も綾辻で一万キロを電車通学って。お前らの距離の感覚はどうなっているんだ。


「……その通り。赤い電車の快特に乗って来ている」


 しかも来てたよこの人。アンドロメダ星雲から電車で。それも京浜急行で。


「私は家が近いから電車通学って憧れるなー」


 お前が電車通学したらスウェーデンまで行っちゃいそうだけどな。


「……でもラッシュの時間は耐えられたものではない。地球人の雄とおしくらまんじゅう。我の最寄り駅の上大岡は特に混んでいる」


 アンドロメダ星雲から来ているのに最寄り駅言っちゃったこの人。


「そっかー。満員電車は確かに嫌だね」


「……特に穂香は可愛いから乗るべきじゃない。危ない目に遭っちゃうかも」


「そんなことないよー! ふみちゃんの方が絶対に可愛いし!」


「……うぇ? わ、我は可愛くなんかない。それにこれは仮の姿で本当は触手とかがもうすごくて」


 いつもは無表情の江末だが、可愛いと言われた瞬間に驚きと戸惑いの入り雑じった表情で狼狽えた。

 その様子は新鮮で、確かに綾辻の言う通り可愛いなと思う。


「しょくしゅ? しょくしゅって何?」


「……地球外生命体によくついてるタコの足みたいなやつ」


「ふぇー! 宇宙人ってそんなのついてるんだ」


「……どの地球外生命体にもついているわけではない。我は特別」


 江末はえへんと胸を張った。触手でドヤるJKがこの世にいるとは。


「ふみちゃんってすごい宇宙人なんだね!」


「……でも先輩はもっとすごい」


「ハルくんが?」


「……そう。先輩は地球外生命体の中でもトップクラスの偉さ。その名も宇宙王子」


 おい待て。なんだ宇宙王子って。さすがにダサすぎるだろ。


「え! 宇宙王子!? ハルくんが?」


 驚いた様子の綾辻の言葉に、江末はこくりと頷いた。


「ねえハルくん。宇宙王子ってなぁに?」


 結局知らねーのかよ。知らないくせに驚いた反応するんじゃない。


「なぜ僕に聞く。江末に聞いてくれ」


「……宇宙王子は全宇宙を統べる宇宙大王の息子。すごい偉い」


 うちの政和(45)は全世界を統べていたのか。しがないサラリーマンだと聞いていたがそれは知らんかった。


「ふぇー。ハルくんのおうちってすごいんだね」


「……宇宙大王は大きな角が生えていて、しっぽで生物の命を吸いとる。どんな生命体も太刀打ちできない」


 バケモンじゃねえかうちの親父。


「ハルくんのパパすごぉーい!」


 すごいのか?そんなセルみたいな親父、人としてどうなんだ。


「…………ていうかお前ら二人仲いいな」


「……我と穂香が?」


「ああ。よっぽど相性が良くないとこんなに会話は弾まないだろ」


「……そう、かな。でもそれはとても嬉しい」


 江末はもじもじと照れを隠しながらチラッと綾辻の方を見た。


「私も嬉しいよー! それにふみちゃんはこの学校の女の子で初めての友達だもん♪」


「……え、友達?」


 江末は「友達」という言葉を聞くと、キョトンとした表情で僕と綾辻を交互に見渡した。

 そしてその表情のままポツリと、


「……我と穂香が友達になれるの?」


「いや、端から見たらもうなってるぞ」


「……穂香、本当?」


 心配そうな顔で綾辻の方を向く江末。綾辻はそんな江末の不安を吹き飛ばすほどの満面の笑みで、


「うんっ! もっちろん! ふみちゃんは私の大切な友達だよ」


「…………」


 江末は無言で綾辻の方へと駆け寄った。そしてそのまま小さな女の子が母親に甘えるときのようにギュッと綾辻の体に抱き付いた。


「うええ!? どど、どうしたの? ふみちゃん」


「……うれしい。穂香、大好き」


 突然の告白だった。


「あああありがとう! わた、わたしもだよ! ふみちゃん」


 綾辻は女子同士のスキンシップにあまり慣れていないらしく、珍しく狼狽えている。

 しかし江末はそんなことお構いなしで、抱きついたまま顔を上げて綾辻の顔をじっと見つめた。


「……我の友達になってくれてありがとう」


 こうして江末と綾辻に高校で初めての友達が出来た。


 そして心から部の部室は男子には耐え難い百合百合しい空気に包まれましたとさ。


 ……うん。会長。早く来て。

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