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江末ふみは馴染めない⑧

「じゃあまずはみんなで想定される会話の内容を考えよー!」


 綾辻は元気よく握った拳を突き上げた。相変わらずみんなで何かをするときの綾辻はテンションが高い。


「少し時間をとって各自紙に書くことにしようか。五分後に発表して実際に話題になりそうなものを抜粋する感じで」


 こういうのは紙に箇条書きで書き出した方がたくさん思いつくからな。

 僕は鞄の中からルーズリーフを取り出し、三人に一枚ずつ配った。


「おっけー!沢山書くよー」


「……了解した。あ、あれ? 筆箱がない。教室に置いてきてしまったかも」


「了解よ鵜久森くん。江末さん、私のボールペンで良ければ使って」


 三人は三者三様の返事をして、各々机に向かって会話の内容を書き出した。



 そんなこんなで五分後。

 僕、会長、綾辻、江末の順番で発表することになった。一人一人が書いたものを口頭で言い、会長がそれをホワイトボードにまとめていく。


 まずは最初の三人から出た内容は以下の通り。


・朝の挨拶とその返し

・住んでいる場所とか出身中学

・趣味

・部活

・好きな科目

・最近見ているテレビ

・今のジャンプで何が好きか


 予想以上に普通の意見が出揃った。一番最後のジャンプは女子の会話では微妙とも思ったが、綾辻の「最近は読んでる子も多いよ」という意見で採用になった。

 

 まあここら辺をしっかり押さえておけば初めて話す相手との会話は問題なさそうだ。


 そんで次に自称地球外生命体の江末さん。彼女が考えた会話の内容一覧がこちら。


・出身惑星

・宇宙船派かUFO派か

・地球に来た目的

・室伏広治は本当に地球人か

・こんな室伏広治は嫌だ

・室伏広治がたまに行う独特な筋トレ


「前半の宇宙人系の話題に突っ込もうと思ってたら後半に怒濤の室伏広治!?」


 まさかの室伏攻めだった。どんだけ室伏好きなんだお前は。武井壮か。


「……宇宙を語る上で室伏は欠かせない」


「嘘をつけ!最も宇宙から遠い存在だろ。嫌だわ鉄球振り回して雄叫び上げる宇宙人なんて」


「……おそらく室伏は銀河最強の軍団を持つ惑星のクローン兵」


「室伏がたくさんいるのかよ!どんな設定だそれ。あの人は純粋な地球人だから!」


「……本当に純粋な地球人であればあんな理解不能な筋トレはしない」


「お前は一体室伏のどんな筋トレを見たんだよ」


「……狭い室内で一心不乱に魚獲りに使う網を投げていた」


「あーそれ見たことある!」


「私も見たことあるわ」


 江末の発言に女子二人も同意した。


「奇跡的に共通の話題だと!?」


 女子高生三人が集まって初めての共通の話題が室伏広治って。


「……やはり室伏は宇宙を語る上でも女子トークでも重要なファクター」


 江末はふふんと得意気に胸を張った。


「絶対に違うと思うんだが……」


「室伏広治はともかくこれで出揃ったわね。後はこの内容で江末さんらしい受け答えを考えるだけだわ」


 ホワイトボードの前に立っていた会長は使っていたマーカーのキャップをカチッとしめた。


「そうだね!でもふみちゃんの受け答えの内容はまた明日考えよっか。時間も遅くなってきちゃったし。それでもいい? ふみちゃん」


 綾辻の言葉に時計を見ると既に六時半を回っていた。七時には完全下校のため教室の電気がすべて消灯されてしまう。


「……もちろん構わない」


「じゃあ今日は帰りますか。また明日の放課後ってことで」


「ええ。そうしましょう。鵜久森くん。ホワイトボードの内容を転記しておいてくれるかしら」


「あ、もうまとめてありますよ。帰りに四人分コピーしていきましょう」


「さっすがハルくん!仕事ができるね」


「うふふ。本当にさすがね。じゃあ帰りましょうか」


 そんなわけで本日の心から部の活動は終了となった。


 初日にしてはかなり充実した内容だったのではないだろうかと思う。江末が初日から依頼に来てくれたことでやることもたくさんあったし、試行錯誤しながらではあるが何とか前に進むことも出来た。

 この調子で明日も続けていけばきっと江末の悩みも解決されるだろう。


 そんなことを考えながら帰り支度をすませ、部室を出ようとすると、


「……あ、みんな。ちょ、ちょっと待って欲しい」


 江末が僕たち三人を呼び止めた。


「どうした? 江末」


「ふみちゃん何かあった?」


「……えっと、今日はその……あ、ありがとう。我は明日も頑張る。だから、その……明日もよろしくお願いしたい」


 つっかえながらも一生懸命にそう言い終えると、江末はぺこりと頭を下げた。


「うん!頑張ろうね、ふみちゃん!」


 綾辻は心の底から嬉しそうな満面の笑みで返した。


「また明日も一緒に頑張りましょう」


 会長は優しい笑顔で江末を見つめている。


「まあそうだな。きっとお前ならすぐに出来るよ、いい友達が。明日もよろしくな」

 

 江末は僕たちの言葉を聞いて下げていた頭を起こし、少しだけ微笑んで「……うん、絶対に頑張る」と誓った。

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