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江末ふみは馴染めない⑦

 僕と会長の小競り合いは一時休戦となり、再び部室で江末の友達を作るための練習をすることになった心から部。

 先程の練習では会長の思わぬポンコツっぷりが露呈されてほぼ何もできなかったので、一旦練習はやめて作戦会議をすることになった。


「うーん、どうしよっかぁー。練習も上手くいかなかったし」


 綾辻は机の上にぐでーんと体を投げ出した。


「そもそも江末がどんな相手と友達になりたいかで作戦も変わってくるんじゃないか?」


「どういうこと?」


 綾辻は僕の方にむくっと顔だけ起こした。


「友達いない者同士で友達になるのか、もう既にできている友達グループに入れてもらうのか」


 一年とはいえ、もう夏休みに入る手前だ。仲の良い悪いも大方決まってくる頃だろう。

 特に女子は仲の良い者同士で徒党を組み、その一味でトイレに行こうとする謎の人種だ。友達を作りたいのであればそのグループに入れてもらうのが手っ取り早い気もする。


「なるほどね。確かにそう考えるとやれることは変わってくるわ」


 会長は感心した様子でこちらを見ている。どうやら先程の一件からは気持ちを切り替えているらしい。


「どうなんだ? 江末」


 三人で当事者に視線を向ける。


「……友達になりたい相手はもう決まっている」


 江末は無表情のままではあるが、はっきりとした口調で言った。


「へぇー!どんな子どんな子?」


「……隣の席でいつも我に挨拶をしてきてくれる地球人の雌」


 おい待て。友達になりたい相手のことを「地球人の雌」呼ばわりするな。


「そんな相手がいるのかよ。ならもうすぐに出来そうじゃないか」


 江末が自分からクラスの女子に話しかけるのは引っ込み思案な本人にとって少し難しいかなと思っていた。

 だが向こうから話しかけてくれるのなら話は別だ。江末は相手の会話に上手く合わせるだけでいい。


「そうだよふみちゃん!大チャンスだよー」


 綾辻は体を起こし、机に両手をついて身を乗り出した。


 しかしこちらの安心とは裏腹に江末本人はうつむき加減になり、


「……でも我はまだ一度も挨拶を返せていない」


 どうやら江末の口下手は筋金入りのようだ。


 ていうかマジかよ。今まで朝の挨拶全無視しているってこと?それは相手側もかなり辛くないか?


「うーん……不思議ね。ここでは普通に話せているのに」

 

 会長は首を傾げた。


「そうだねぇー。ふみちゃんに心当たりはある?」


「……教室で地球人に話し掛けられると身構えてしまって上手く話せない」


「宇宙人相手なら平気なの?」


 天然女子高生はおかしなことを聞き始めた。


「……その場合は問題ない。現にここには地球外生命体の先輩がいるから身構えることなくリラックス出来ている」


 なるほど。この部室には地球外生命体の僕がいるからちゃんと喋れていたんだね☆……ってなるかこの野郎。誰が地球外生命体の先輩だ。僕とお前はニコチャン星人の二人組か。


「僕は地球外生命体じゃない。ていうか先輩って言うな」


「……隠しても無駄」


 どうやら江末の中で僕が宇宙人だというのは決定事項のようだ。


「だとすると江末さんのクラスに鵜久森くんを連れていくしかないかしら」


「……それは不可能。我はクラスでは地球外生命体だということを隠している。そこに先輩のような純度の高い地球外生命体を連れていくと仲間だということがバレてしまう。そうなると……」  


「どうなるの?」


 綾辻は更に江末の方に身を乗り出した。


「……う、えっと……最悪の場合、悪の組織に連行される」


 なんだその雑な設定は。お前絶対今考えただろ。


「ふぇー! そうなの!? じゃあ連れていかれるとハルくんとふみちゃんはもう帰ってこれないの?」


「……だからその……アジトで体の隅々まで調べられて注射で記憶を消される、かも。悪の組織のアジトはとても怖いところ」


 「かも」って何だ「かも」って。


「えーっ!? ハルくん大変だよ! どうしよう!」


 ……いや、どうもしないけど。


 ていうか綾辻は一体どこまで本気なんだ。江末の言うことを全部信じているのならそれはそれで心配だし、全部江末に合わせてやっているだけだったら時間が無駄だからやめて欲しい。


「……じゃあ僕が江末の教室に行かずにその女の子と話せるようになる方法を模索しないといけないな」


 悪の組織のアジトは怖いところらしいから行きたくないし。


「でもそうなるとさっきみたいに練習するしかなくなっちゃうよ」


「確かにそれだと振り出しに戻っちゃうな」


 ただ闇雲に練習するのではなくて口下手な江末でも取り組みやすい方法か。んー。難しいな。自分が口下手じゃないからどういう方法が効果的なのかが全くわからん。


「想定される質問や会話の内容を考えて原稿にしておくのはどうかしら」


 と、会長。


「どういうこと?」


「本当は自然に思ったことを話すのが一番だと思うけど、江末さんは緊張して頭が真っ白になってしまうのよね? だったら最初は相手と話す内容をあらかじめ考えて文字に起こして原稿にしておくの。それを元に練習をしてから本番に臨むといいんじゃないかしら」


 なるほど。想定される会話の内容を事前に予習しておけば狼狽えることはないだろうし、一度文字に起こしたもので練習をすれば口下手な江末でも取り組みやすい。


 すごいな会長。これを一瞬で思い付くなんて。


「……それなら我にも出来るかもしれない」


 江末からも前向きな言葉が出てきた。先輩の作戦が気に入ったらしい。


「すごいすごーいっ!名案だよ八千草先輩っ!」


「会長さすがです。これで行きましょう」


 後輩三人から大絶賛を受けた会長は気恥ずかしそうな微笑みを浮かべながらも「これくらい当たり前よ!私は生徒会長だもの!」と胸を張った。

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