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江末ふみは馴染めない⑤

 さすがに会長もやり過ぎたと感じたのか、誤魔化すように咳払いをして、


「冗談よ、冗談。私と鵜久森くんは姉弟みたいなものだもの。イチャイチャラブラブしたりなんかしないわ」


「もう!だったら早く真面目にやってよー」


「それじゃあ鵜久森くん。呼び捨てでいいわよ。話し方も初めて話すクラスメイトという感じで」


「了解です」


 そんなわけでテイク2。


「あ、あの……鵜久森くん」


 僕の方の役は初めて話すクラスメイトだったか。なら少しぶっきらぼうな感じの方がいいかな。あんまり社交的でもいい見本にならないだろうし。 


 よし。少し冷たいヤンキー風の感じでいこう。


「……なんだよ麗」


「ぐふあぁっ!」


 会長は僕に名前を呼ばれただけで呻き声を上げながらその場にへたりこんだ。


「…………会長?」


 一体どうしたんだろうか。体調が悪い様子は無かったけど……。


 心配になり倒れている会長を覗き込む。


 会長の様子を見て僕はぎょっとした。

 頬は紅潮し全身汗だくで、はぁっはぁっと呼吸も荒くなっている。


「会長!? 大丈夫ですか!」


「はあっ、はあっ……だ、大丈夫よ……とりあえずもう一回最初から……」


 会長はよろよろと立ち上がり、再び僕と向き合った。


「あ、あの……鵜久森くん」


「なんだよ麗」


「っ……!ぐっ……。急に下の名前で呼び捨てなんて慣れ慣れしいじゃない」


「は? なんでだよ。麗は麗だろ?」


「ぐふぁぁああっ……!」


 再びその場に倒れ込む会長。会長の身に何が起きたのかわからず、慌てて三人で駆け寄る。


「八千草先輩、ホントに大丈夫?」


 さすがの綾辻も心配そうな顔だ。江末も声こそかけないものの、不安そうな顔で会長を見つめている。


「ちょっとその、急な不意打ちが……。新境地が……」


「不意打ち? 新境地?」


「ご、ごめんなさい。制服が汗でびっしょりになったから生徒会室で着替えてくるわね」


 会長はヨロヨロと立ち上がり、鞄を持つとフラッフラの状態で部室から出ていった。


 どうしたんだ? 大丈夫か会長。


「先輩大丈夫かなぁ」


「……我も少し心配」


 綾辻も江末も会長がフラフラとした足取りで部室から出ていったことで更に心配しているようだ。


「まあ着替えてくるだけみたいだし、すぐ戻ってくるだろ。とりあえずそれまで休憩にしよう」


 綾辻も江末も同意し、会長が戻ってくるまで休憩ということになった。


 僕は今のうちにトイレにでも行っておくかと思い、部室を出て目の前にあるトイレに向かった。が、トイレのドアに清掃中の札がかけられており、仕方がなく一つ上の階に上がる。

 階段を上っている最中にふと思い立った。

 ここの階は生徒会室のある階だったな。大丈夫だとは思うけど、一応会長の様子を見に行った方がいいだろうか。


 先ほどの会長の様子を思い出す。


 紅潮した頬に荒い呼吸。そして何よりあの汗の量。どう考えても体調が悪そうだった。

 やっぱり心配だ。様子を見に行ってみよう。生徒会室をノックして「大丈夫ですか?」と聞くだけだ。何も難しいことはない。


 僕はトイレに向かう足を止めて踵を返し、生徒会室へと向かった。

 コンコンコンと三回ノックをして、中にいるはずの会長に声を掛ける。


「会長いらっしゃいますか? 皆心配してますけど大丈夫ですか?」


 僕の呼び掛けに返事はなかった。

 いないのか? さっきは生徒会室に行くって言っていたけど……。


 僕が立ち去ろうとした時、生徒会室の中から声が聞こえてきた。教室が防音の作りになっているのか言っていることはほとんど聞き取れないが、どうやら会長の声のようだ。


 なんだ。いるじゃん会長。


 僕はホッとした気持ちになり生徒会室のドアを開けた。


 しかしよくよく考えると、僕はこの時絶対にドアを開けるべきではなかった。


 理由は二つ。


 一つ目。会長は着替えに行くから生徒会室に行くと言って出ていった。

 二つ目。会長は生徒会室に一人でいるにもかかわらず、何事か独り言のようなことを口走っている。

 つまり、中に入ってはダメ。


 だが遅かった。気が付いた時にはすでに手遅れで、僕は一瞬の気の緩みから生徒会室のドアを開けていた。


 ドアを開けた瞬間に僕の目に飛び込んできたもの。


 水色の綺麗な布に包まれた二つの丘。


 別の単語に言い換えると、


 おっぱい。


 おっぱい。


 おっぱ……もとい上半身が下着姿の会長の姿がそこにはあった。


 見てはダメだと教室を飛び出そうとしたが、何故か金縛りにあったかのように体が動かない。見てしまったことを謝罪しようと声を出そうともしたが、小さな声で「あ……う……」としか言うことが出来ず、会長に自分の存在を気付かせることが出来なかった。


 会長は下はスカート上は下着姿のまま、何やら写真のようなものを持っていた。


 その写真のようなものを見つめながら、いつもは見せることのないうっとりとした色っぽい表情を浮かべている。


 そして会長はそれを胸の辺りに優しく抱きしめた。 


「ああああああああぁーん♥ 下の名前の呼び捨て! 名前の呼び捨てえええええ! 最高だわ! 新境地よ! 新境地だわあああああああああ…………あ?」


 一人で何事かを叫ぶ会長と、途中で目が合った。


 一瞬にして時が止まる。


「………………」


「ぎやぁあああああああああ!! きゃああああああああああああくぁwせdrftgyふじこぉおおおおおおおおおおおお」


 会長は叫びながら目にも止まらぬスピードでブラウスを着て、鞄を持ち上げ、全力疾走で生徒会室から飛び出した。


 放心状態の僕はそれに声をかけることも、追いかけることもできなかった。


 ……やばい。


 これ、


 どうしよう。

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