江末ふみは馴染めない④
「それじゃあふみちゃんの依頼内容を聞いてもいい?」
と、綾辻は江末に声を掛けた。
「……えっと……その」
しかし江末は言葉に詰まり中々言いたいことが言えないようだった。
先ほどの宇宙人の話は淀みなく話せていたが、実際の学校の話となると具合が違うらしい。
「江末。ゆっくりでいい。自分の口から話せるな?」
清沢先生は穏やかな口調で江末に言った。
その言葉に江末は意を決したようにこくりと頷く。
そして一つ深呼吸をして、
「……我はクラスで話せる相手が一人もいない。だから友達が欲しい」
と、絞り出すような声で言った。
自称地球外生命体の口から出てきたのは、意外にも人間味溢れる相談内容だった。
「なるほど。友達か……」
高校生の誰しもが抱える悩みの一つである友人関係。特に女子のそれはデリケートな印象がある。
「ふみちゃんから話し掛ければすぐ出来そうだけどなぁ」
と首を傾げながら言う綾辻。
確かに江末は宇宙人を自称するぶっ飛んだところはあるものの、性格がキツかったり自分勝手だという印象は受けない。趣味の合う子が見つかればすぐ友達になれそうな気がする。
「……何度かテレパシーによる交流は試みた。しかしすべて返答は無い」
それでは話し掛けていないのと一緒だということはおそらく本人もわかっているだろう。
「相手は人間なのだから言語でコミュニケーションをとってみれば?」
と会長。
「……それが出来れば苦労はしない」
まあ要するに友達が欲しいけど口下手でコミュニケーションがとれないということか。
「そっかぁ。ふみちゃんはお喋りするのが苦手なんだね」
綾辻の言葉に江末は無言で頷く。
「テレパシーが通じる相手を探すか、江末の口下手を克服するかどちらかだな」
江末にとっては前者がいいんだろうけど、それだと一生友達ができないからなあ。
「……テレパシーは地球人には馴染みが薄い手段。我は今後のためにも後者を選択したい」
僕はてっきり前者を選択すると思っていたが、意外にも江末は自ら口下手を克服する方法を選んだ。
江末は少し恥ずかしそうにしながらも一生懸命に自分の意志を主張している。
きっと江末は本気で自分を変えたいんだなと、僕はそう感じた。
そもそもここに来たことだってすごい勇気が必要だっただろう。口下手で友達のいない人間が見ず知らずの人間に自分の悩みを打ち明けているんだ。
この勇気のある一歩を僕たちは無駄にしてはいけない。
「そうか。なら練習だな」
僕の言葉に江末は無言でこくりと頷いた。
「きっとすぐに話せるようになるわ。現に私たちとはこうしてちゃんと喋れるわけだし」
「そうだねっ! 四人で練習してふみちゃんの苦手なお喋りを克服しよーう!」
綾辻が掛け声をかけると、江末は僕たち三人に向かってぺこりと頭を下げた。
そして小さい声で何か言ったようだったが、僕にはそれが聞き取れなかった。
*
さて、早速江末の口下手を直すための特訓が始まった。清沢先生は職員会議があるからと退室したので、現在部室にいるのは心から部の三人と依頼人である江末ふみの計四人である。
「じゃあ先ずはふみちゃんが練習する前に見本からいってみよー!」
「見本?」
「そう! だってふみちゃんは何を話せばいいかがわからない訳でしょ? だったらまずはデモンストレーションをしなきゃ」
確かに一理ある。友達を作るにもまずは模倣からと言うことか。
「……我も見本があった方が助かる。それほどまでに何を話せばいいのかがわからない」
「じゃあ友達役はハルくんね」
「僕? まあいいけど」
「ふみちゃん役は八千草先輩」
「わかったわ。クラスメイトに話し掛ける感じでいいのよね?」
「うん! 二人とも自然な感じでね」
僕と会長は話しやすいように隣の席同士に移動した。
僕たち二人のやり取りが江末の口下手克服に繋がるとなると責任重大だ。ここは上手くコミュニケーションがとれるように細心の注意を払わなくては。
「じゃあ早速よーいスタート!」
綾辻の掛け声と共に、会長は緊張の面持ちで僕に声を掛けた。
「あ、あの……鵜久森くん」
「はい。何ですか会長」
「ちょーっとすとーっぷ! それじゃあ全然クラスメイトっぽくない! 敬語と会長禁止!」
「なっ……。そこまでするのか」
「当たり前でしょ! 実際のクラスメイトと思ってやってよ」
綾辻は頬をふくらませた。部長の演技指導は想像以上に細かい。
「では会長、敬語無しでもいいですか?」
僕が念のため確認すると、会長は何故か視線を泳がせながら、
「し、仕方がないわね。別にいいわよ? 友達言葉で構わないし、それにその……昔みたいにららちゃんって呼んでも……」
「わかりました。それじゃあよろしく。ららちゃん」
僕は遠慮せずに敬語を止めて、以前の呼び方に戻す。
「やあああああん♥それじゃあそれじゃあ! 私も昔みたいにハルくんって呼ぶね?」
会長は何故かテンションを上げて、乙女のように嬉しそうな声を上げて身を捩らせた。
……このモードの会長は以前見たことがある気がするが大丈夫だろうか。
「それはダメ!」
僕たちの様子を見て口を挟んだのは綾辻だった。
「……なんでだよ。お前がクラスメイトみたいにって言い出したんだろ」
「なんか距離が近すぎる! らぶらぶすぎるーっ!」
綾辻は「むーっ!」と先程よりを更に頬をを膨らませた。
「べ、別にラブラブじゃないわよ? あくまでもこれはお芝居だもん!ね、ハルくん♥」
会長は嬉しそうに僕の右腕に飛び付いた。
体が密着し、会長の柔らかくて温かい体の感覚が僕の腕に伝わってくる。
だあああああ当たっている!何かぽよんと弾力がありつつも柔らかくて素敵な感触のサムシングが!
「そそそそそうそう。これは柔らかなお芝居で……」
「ああーっ! ほらハルくんが巨乳ハンターの顔になってるもん!」
ふぁっ!?僕、そんなに変な顔になっていたかしら。
とにかく!会長は先週の路上の時と同じように暴走モードに突入している。ここはまず僕が冷静になって会長を落ち着かせないと……。
「……我はそんなに急にくっついたりはできない。二人ともちゃんとやって欲しい」
僕たちがぐずぐずしている間に、依頼人からごもっともな意見を頂戴した。
うん。ホントごめんなさい。ちゃんとやります。




