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八千草麗は貫き通す⑥

 会長の突然の登場と同好会加入宣言により結成された「心から部」。これから活動を共にする部員同士となった三人は、帰る方向も同じ(綾辻と僕に至っては隣の家だし)なのでそのまま並んで下校している。


 綾辻はもっと会長の加入に反対するかと思ったが、ニコニコしながら「よろしくお願いしますね」と迎え入れた。どうやら同好会が結成されること自体が嬉しいらしい。

 今現在も僕と会長の間でニコニコしながら歩いている。よっぽど高校で部活に入るのを楽しみにしてたんだな。

 まあまだ同好会だし何をやるのかもちゃんと決まっていないけど、とりあえずは良かったのかな。


 彗星のごとく僕らの前に現れて一通り騒いだ会長はと言えば、さっきの様子から一転、鞄を体の前に持ち澄ました顔で行儀良く歩いている。如何にも優等生の下校という感じだ。


 さっきまでと違って二人がお互い睨み合うことも無いしとりあえずは一安心だ。これがこのまま続いてくれればいいんだが。


「ちなみにどんな活動をする同好会なのかしら」


 歩きながら会長が僕と綾辻に聞いた。

 そうか。新しい部活を作りたいと言っただけでどんな活動をするかは全く話していなかった。 


「……それも知らずに入るって言い出したんですね。会長」


 僕が少しあきれた調子で言うと会長は下を向いて、


「それは……弟同然の鵜久森くんが困っていたから助けてあげたくて……」


 と恥ずかしそうに言った。


「……本当にそれだけなのかなぁ」


 綾辻は会長の発言に敏感に反応し、訝しげな様子で会長の顔を見つめている。


「な、何かしら。綾辻さん」


「ハルくんのこと弟とか、自分のことお姉ちゃんとか言ってるけど、なーんかそれ以上のものを感じるんだよなぁ……」


 そう言えば綾辻は先ほども会長は僕のことを狙っているという謎の発言をしていたっけ。これは会長の名誉のためにも僕がしっかりと否定をしておかなくては。


「何を言っているんだよ綾辻。僕と会長が幼馴染みで姉弟同然に育ったことはさっき言っただろ?」


「ふーん……。でもそう思ってるのはハルくんの方だけかも」


「何が言いたいのかしら」


 会長は顔を上げて綾辻の方をに睨みつけた。……さっき二人が仲良くしますようにと祈ったばっかりなんだけど。ホントお願い。


 しかし綾辻も全く動じず、


「八千草先輩はわたしとハルくんが二人でいるのがイヤで、自分がハルくんと一緒にいたいから部活に入りたいんじゃないの?」


「ばっ……!バカなこと言わないでよ!私と鵜久森くんは……」


「私と鵜久森くんは?」


「い、今も昔もずーっと姉と弟よ!ね? 鵜久森くん」


 会長は綾辻を少し遠くから僕の顔を覗き込む。

 会長の言う通りだ。全く綾辻は何を勘違いしているんだか。会長が才色兼備の完璧超人だから嫉妬でもしているのだろうか。


「もちろんそうですよ。確かに会長は美人で性格も良くて、理想の女性のような人だけど……」


 と、僕が言いかけたところで突如会長が叫んだ。


「だああああああああ!なにいいいいいいいいいいい!?」


 急な絶叫に僕と綾辻がぽかんと口を開けていると、会長は目を見開いてさらに続けた。


「うううう鵜久森くん!? いいいい今なんて!?」


 鼻息を荒くして興奮している様子の会長。どうやら僕の発言に引っかかるところがあったらしい。


「『もちろんそうですよ』……?」


「そこなわけないじゃないっ! その後よ! その後!」


「? 『会長は美人で性格も良くて理想の……』」


 やっぱり姉弟のような間柄で美人とかいうのは不味かったか? 会長は真面目な人だし、そういうことを言われるのは好きじゃないのかもしれない。


 と、僕が少し考えていると、


「きゃあああああああああっ! ハルきゅううううううん♥♥」


「ぎゃっ!」


 会長は綾辻を突き飛ばし、突如僕に抱きついてきた。


「ななななっ!会長!?」


 少し僕より背が低い会長は僕の首の辺りに顔を埋め、手を背中に回してギュッと僕に抱きついている。会長の体は火照っているのか想像以上に熱く、その体温が制服を通しても伝わってくる。


 こ、これは一体何が起こったんだ?会長が急に僕の名前を呼びながら抱きついてきて……。


 しかも会長がギュッとしっかり抱きついてくるから、会長の、む、胸の柔らかい感触が……。あ、しかも会長すっごいいい匂い……。


「そんな風に思ってくれていたなんて! あああああぁーん♥ ハルきゅんハルきゅん! エヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」


 ギュッと抱きついたまま幸せそうに微笑みながら僕の鎖骨辺りにスリスリと顔を擦り付けてくる会長。


 って!ダメだああああああ!僕と会長は姉と弟だろ!とにかく会長は今、どういうわけか正気ではなくなっている。まずは僕が会長を離さないと。


「まっ……会長!近すぎますって!」


 僕は両手で会長の体を離そうとするが、思ったより会長の力は強く、中々離れない。


 ぐっ……どうするべきか。力ずくで引き剥がすわけにもいかないし……。


「ちょっ!? なっ……何してんのおっぱい会長!」


 信じられないものを見たかのように叫ぶ綾辻。その言葉に会長も我に返ったようで、


「はっ! やだ……。私ったら……」


「やっぱり全然姉と弟なんかじゃないじゃん!」


「こ、これは姉と弟の間でのスキンシップよ!」


「普通は姉弟の間でそんなにベタベタしないもんっ! ハルくんからはーなーれーてぇーっ!」


 綾辻は僕と会長の間に割って入り、か細い腕で引き剥がしにかかった。会長もそれ以上僕に抱きつくことはなく、あっさりと僕から離れた。


「やっぱりおっぱい会長はハルくんのことを狙ってる!」


「ね、狙うなんて破廉恥ね! 私と鵜久森くんは姉弟だって言っているでしょう」


「じゃあなんでハルくんに抱きついてスリスリしたの? あんなの弟にすることじゃないもん!」


「ぐぅっ……。それは急に頭が真っ白になって……」


「ほらほら!それって嬉しくてそうなったんでしょ? やっぱり同好会に入るのもハルくんを狙ってるから……」


「待て綾辻。会長はそんな私利私欲のために部活に入るような人じゃない。さっきのは多分久しぶりすぎてスキンシップが行き過ぎただけだ」


 まあ僕もビックリしたし、いまだに色々な感触が残っていてまだちょっとドキドキしているけど。


「そんなの信じられないもん!」


 綾辻はプイッと顔を背けた。全く納得していない様子だ。……仕方がない。会長には申し訳ないけどあの話を出すか。


「それに会長が僕のことを狙うだなんてことは絶対にない」


「何でそんなことが言い切れるの? 姉弟だって言ってもベタベタしてるもん! そもそも本当の姉弟じゃないもん!」


「いやだって、会長には婚約者がいらっしゃるから」


 さすがにこれは決定的だろう。

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