八千草麗は貫き通す③
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綾辻穂香とハルくんが帰った生徒会室で、私は今部活関連の資料とにらめっこをしている。
「……思っていたより抜け道が多い規則ね」
同好会及び部活の新規創部に関する文面にはこうあった。
同好会として活動するには三名以上の部員が必要である。しかし、新規発足の場合は三名集まるまで三ヶ月間の募集期間を設けることが出来、その募集期間は三名未満でも同好会として活動することが出来る。
「これだと綾辻穂香の作ろうとしている同好会を認めることになってしまうわ……」
今日私が綾辻穂香とハルくんにした説明は正確に言うと間違いだということがわかった。三ヶ月間以内に三人目を集めるという条件付きではあるが、部員が二人であっても同好会は発足することが出来る。
今日の私の説明を聞いた二人は、三人いないと同好会は作れないと思ってしまっているだろう。
「……どうするべきかしら」
生徒会長として、当然のことながら二人に間違いを訂正しなければならない。
でも二人だけの同好会を認めてしまえば綾辻穂香は毎日ハルくんと二人っきりで、部室や校内であんなことやこんなことを…………。
「そ、それだけは絶対にダメよ!ダメダメダメえぇー!」
「……会長?」
机を叩いて立ち上がった私を副会長が怪訝そうな表情で見ている。
私は誤魔化すように一つ咳払いをし、
「な、なんでもありません」
と言い、座り直した。興奮すると周りが見えなくなってしまうのは昔からの悪い癖だ。
改めて資料を見つめる。
このままではハルくんがあの女と破廉恥なことをすることになってしまう。ハルくんはそんなことする子じゃないけど、もう高校生だし、あの女が誘惑したらどうなるかわからない。
そ、それこそ二人で、ちゅーしたり、とか? も、もしかしたらエッチなことしたりとか…………。
「ぜったいぜったいぜぇーったいにダメえええええ!」
それに、え、エッチなことは……その、私がハルくんに教えてあげるんだから…………。
って!ばかばかばかばか!私は何を破廉恥なことを考えているのよ!あ、で、でも。ハルくんも年頃の男の子だし?もしかしたらそう言うことに興味があったりとか……。
ダメ、ダメよハルくん!そんなに急に求められても私はまだ何も知らないし、二人っきりだからって破廉恥なことは……!
「まだ早いわ! まだ早いんだからああああ!! キャーッ!!」
気が付いたら私は机をバンバン叩いて再び立ち上がっていた。
先程までは怪訝そうな表情だった副会長も今度は心配そうな様子で、
「か、会長……? 先程からどうされたんですか? そんなに顔を真っ赤にされて……」
「え、真っ赤!?」
「はい。かなり真っ赤ですよ。熱でもあるのではないかと……あ!それに鼻血も出てますって」
そう言われて口の上の辺りを触ると、手にペタッと赤い血が付いた。慌てて机の上にあるティッシュで鼻血を拭う。
「いや、その……違うのよ? その、生徒会室が暑くって、空調が切れているのかしら?」
「エアコンならガンガンに効いてますけど……」
「そ、そう? だったらいいのだけど」
私は「さてと、お仕事お仕事」とわざとらしく独り言を言いながら座り、副会長の追及を振り切った。
いけないいけない。また暴走しそうになっちゃったわ。気を付けなきゃ。
さて、そんなことより考えるべきはあの二人の部活だわ。どうするのが最善策かしら。学校の規則から考えて二人の活動を認めないことは難しそう。
でも活動を認めてしまってはどんどん二人は親密になっていくだろうし。
何とか私が二人の間に入れればいいのだけれど、何か方法はあるかしら……。
「そうだわっ!」
私は三度机を叩いて立ち上がった。
「か、会長。今度は何ですか?」
げんなりした表情で副会長が私に聞く。
「副会長!私は急用が出来たので今日はこれで上がらせてもらうわ!」
「へ? 急に? 特に急ぎの仕事もないのでいいですが……」
「では失礼するわね。施錠はお願いね!」
私は引っ手繰るように鞄を持ち上げ、生徒会室から駆け出した。
我ながら何て良い案を思いついたんだろう♪
こんな素敵なことを思いついた自分を褒めてあげたい。心なしか走る足取りも軽い。校内を走るなんて生徒会長としては絶対にダメだけど、走らずにはいられなかった。
これならハルくんと綾辻穂香がイチャイチャするのも防げるし、私とハルくんが会う時間もたくさん増える。
早くハルくんに会いに行かなくちゃ。
自分から会いに行くのはルール違反だけど、今日くらいいいよね。だって、今日は私の誕生日だし♪
私は二年の昇降口を出て、今までセルフ出禁をかけていたハルくんの家へと向かった。




