綾辻穂香は部活がしたい⑥
「えぇー!? 何でですか!」
話も聞かずに部活動の申請を突っぱねる会長に対して、綾辻は当然のことながら食い下がった。眉毛も八の字に曲がっており、今にも「むきーっ!」と怒り出しそうな勢いだ。
「いいかしら。部活動と言うのは学校教育の一環で行われるものなの。あなたたちがイチャイチャするためにあるのではないわ」
「なっ!? イチャイチャって違いますっ! ちゃんと健全な部活です!」
綾辻は握った拳を上下にぶんぶん振っている。まあ帰宅することがメインの部活を健全とは言わないがな。
「あら、そうかしら。あなたが鵜久森くんと一緒にいたいから作る部活じゃないの?」
「ぐうっ……!それは確かにそうですけど、それ以外にも目的はあります!」
それは確かにそうなのかよ。本人がいる前でサラッとそう言うことを言うな。
「でも万が一内容面が通ったとしても活動は認められないわ。まず部活動を発足させるには最低でも六人、同好会でも三人以上の部員が必要なの」
なるほど。部活の内容より前にそもそも人数が足りていないのか。それは盲点だった。
「えぇー! そうなの? ハルくん」
綾辻は困った顔で僕の方を見つめる。いや、知らんがな。部活なんて作ったことないし。
「いや待て僕に聞くなよ。会長の方が詳しいに決まってるだろ」
「残念だけど諦めるしかないわね」
天然猪突猛進娘は会長の言葉に更に刺激され、
「わたし、絶対にあきらめません!」
「諦めないって言っても綾辻……」
「三人いればいいんですよね!?」
「同好会でもいいならそう言うことになるわね」
「あと一人くらい絶対に集まるもんっ! ねっ!ハルくん!」
「……さあ。どうだろうな」
「もーうっ! ハルくんがそんな弱気でどうするの!? 集まるかなあじゃなくて集めるのっ!」
まるでブラック企業の営業部長みたいなセリフだ。綾辻部長の下では絶対に働きたくないな。
「とりあえず今日は会長もお忙しいみたいだし、三人目を探してからもう一回来るか」
「ごめんなさいね、鵜久森くん。悪いけどそうしてもらえるかしら」
「すいません会長、お騒がせしまして。今日はこれで失礼します」
僕は「絶対もう一人集めるんだから!」と息巻く綾辻を連れて生徒会室から出ようと外に向かった。すると、
「あ、ちょっと待って!鵜久森くん」
「え? 会長。どうかしましたか?」
振り替えると、会長はキリッとした表情を少し崩して伏し目がちになった。
「その、今日なんだけれど……」
「今日?」
今日って何かあったっけ。七月六日だよな……。会長と会うのも久しぶりだし、連絡先も知らないので何かを約束した覚えもない。
でも会長は僕に何かを言いたそうな様子だ。
「えっと……すいません。今日って何でしたっけ」
僕が会長に聞くと、ドアの前に立っている綾辻が急かすように「ハルくん! 何してるの? 早く行くよ」と呼んだ。
会長は僕の言葉に少し残念そうな顔をし、
「あ……いや、いいの。ごめんなさい。早く行ってあげて?」
と優しく微笑んだ。
「はい。また来ますね。たまにはうちに飯でも食べに来てください。母さんも喜びますんで」
「うふふ、そうね。生徒会の仕事が落ち着いたらお邪魔させてもらうわ。おば様にもよろしくね」
会長の「今日なんだけれど」という言葉と残念そうな表情が気にはなったが、僕と綾辻は生徒会室を出てそのまま帰路についた。




