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綾辻穂香は部活がしたい②

 午前中の授業は平穏に過ぎ去り昼休みになった。


「ハルぅー!一緒に昼飯食べようぜっ!」


 とテンション高めに行ってきたのは大松祐輔。僕の小学校からの幼馴染みだ。授業中は死体のような姿勢で授業を受けていたのに、終わった途端にこのテンションとは現金なやつだ。


「祐輔は今日弁当?」


「おう!母の愛情弁当!」


「そっか。なら僕は購買にパン買いに行くから教室で待ってて」


「りょーかいっ!」


 僕が席を立ち購買に向かおうとした瞬間、隣の席から声が掛かった。


「ま、待って!鵜久森くん」


 呼び止めたのは綾辻だった。昨日はクラスの女子に誘われて食堂に食べに行っていたが、今日は行かずに教室に残っている。


「ん、なに?」


「えっと……鵜久森くんは購買に行ってはいけません」


「……なんで?」


「うーんと、一人では危険ですし、道中に地雷がある可能性もゼロでは無くて、その……」


 なんでうちの学校の校舎内に地雷が仕掛けられてるんだよ。不思議のダンジョンか。


「もしかして綾辻も購買行く?」


「えっと。そうじゃなくてですね……」


 綾辻は下を向いたまま頬を赤く染め、何か言いたげな様子だ。今更一緒に行くのが恥ずかしいのだろうか。登下校も一緒にしているのに。


「綾辻ちゃんも購買行くの? だったら俺も飲み物だけ買いに行こうかなー」


 と、祐輔。


「行くなら早く行こう。飯を食う時間が無くなっちゃうし」


 すると綾辻は僕の言葉に顔を上げ、鞄の中からバッと何かを差し出した。


「ききき昨日のお礼にお弁当作ってきたんですっ!ほ、ほら、鵜久森くん昨日も購買のパンだったし。その……」


 差し出されたのは青い包みの弁当箱だった。


 綾辻は僕に弁当箱を差し出したまま、緊張の面持ちでブルブルと震えていた。どうやらかなり思い切った行動だったらしい。


  ふふっ。二日目にして早速手作り弁当か……。


「だあああああああああ幸せの貯金残高がああああああああ!!」


 僕は教室の床を転がりまわった。沖縄で発見された新種のミミズのように地面をのたうち回る。あ、今なら首だけでブリッジできるかも。

 ああああああ僕のしあわせ銀行の貯金残高がものすごい勢いで減っていっているよおおおお!

 だって女の子からの手作り弁当だぞ!?男子の憧れで童貞の夢のまた夢だぞ?出会って二日目で出てくる代物じゃないだろう!


「お、落ち着けハル!」


 祐輔になだめられ、何とか床から起き上がった。冷静に周りを見回すとクラスメイトの目線が痛い。「あいつ、ついに勉強のし過ぎで頭がおかしくなったのか」という視線だ。

 改めて綾辻の方を見るとギュッと目を瞑ったまま弁当箱を前に出し、判決を待つ被告人のようにじっと固まっていた。


 僕はドキドキしながら弁当箱を受け取り、


「あ、ありがとう綾辻」


「わっ……。エ、エヘヘ……良かった。受け取ってもらって」


 綾辻はホッとしたようで、緊張の面持ちから嬉しそうな笑顔へとパッと切り替わった。


「あ、綾辻ちゃん。ハルのために手作り弁当?」


 やはり祐輔からしても二日目手作り弁当は驚きらしい。ラブコメマスターさんがここまで驚愕ということは、現実ではよほど有り得ないことになる。


「ち、違うんです! 別に鵜久森くんのためだけってわけじゃなくて、これはパパに作った分が偶然余っちゃって……」


 今度は慌てながら顔の前で両手をわちゃわちゃと動かし、必死に否定する綾辻。どこかで聞いたことのある言い訳だ。


「とてもありがたいんたけど、貰っていいの? 綾辻の分は?」


「自分の分もちゃんとあります!」


 鞄の中から僕に差し出したものと色違いのピンク色の弁当箱を取り出した。


「そ、それで、もし嫌じゃなかったら一緒に食べませんか?」


 綾辻のやっていることはぶっ飛んでいたが、断る理由は一つもなく、僕たち三人は机を並べて弁当を食べることにした。



 綾辻の弁当は予想を遥かに超えるクオリティーの高さだった。極度の方向音痴というダメな部分を知っているため、もしかしたら料理もダメなのでは……と一瞬考えた。

 しかし蓋を開ければ唐揚げに卵焼きなどの定番どころは勿論、青物もしっかり入っており彩り鮮やかに仕上がっている。


「……めっちゃ美味しそう」


 お世辞ではなく、本心が口からこぼれた。それほどまでに綾辻が作ったお弁当の見映えは完璧だった。しかも女子が作りがちな可愛さ重視の弁当じゃない。胃袋に直接訴えかける本格派だ。


「ほんと? よかったです。味もお口に合えばいいんですけど……」


 確かに見映えは完璧なのに味は壊滅的と言うのはラブコメではあるパターンの一つだ。油断は出来ない。

 僕はまずは大好物の唐揚げを一つ取り、口に入れた。


「……って、うまっ!! 何これ! こんな美味しい唐揚げ食べたことない!」


 サクサクの衣にしっかりと下味のつけられた鶏肉。冷めているのに嫌な油っこさがなく、それでいてジューシーさはキープされている。ご飯が進む味付けは食べ盛りの高校生には持ってこいだ。


「わぁー♪ よかったです。美味しくないって言われたらどうしようかと……」


 綾辻は胸の前で可愛らしく手を合わせて喜んだ。


「えーなに! そんなに美味しいの? 俺にも一個ちょうだいよ!」


「いいですよっ。大松くんにはわたしのお弁当のやつを一つどうぞ」


「おー♪ 悪いねー。それでは一つううめえええええええええ!」


 唐揚げ以外のオカズも文句なしに美味しかった。特に牛肉と牛蒡(ごぼう)のやつ。綾辻いわく「しぐれ煮」と言うらしいが、あれが最高に美味しかった。あんなものを作れる女子高生がいるなんて、日本社会もまだまだ捨てたもんじゃない。


「綾辻って料理上手いんだな。びっくりした」


「エヘヘ。昔からママに鍛えられているので」


 家の綺麗なキッチンで料理を手伝う綾辻。想像するだけでなんかホッコリする。


「こんなお弁当だったら毎日食べたいよな、ハル!」


 祐輔が元気よく僕に同意を求める。確かに味、見た目、栄養バランス。すべてが完璧な弁当だった。非の打ち所がない。


「あ、ああ。そうだな」


 僕がそう言うと綾辻は目を輝かせ、


「ほ、ほんとうですか!? じゃあわたし、毎日作ってきますよ」


「ま、毎日?」


「はいっ! 鵜久森くんが食べてくれるんでしたら喜んで作りますっ!」


「でもいいのか? そんなに毎日親父さんの分は余らないだろ」


「はぅっ! た、確かにそうでした! 発言に食い違いが生じてしまいます。 やっぱ今の無しです!」


 綾辻は慌てた様子で発言を訂正した。綾辻の弁当が毎日食べれたら嬉しいけど、さすがに毎日は悪いしなあ。


「チッ。このフラグ折り太郎が……」


「? 何か言ったか。祐輔」


「いや、何でもない。とりあえず後でお説教だ」

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