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綾辻穂香は感動する⑤

「まあ俳句はいいとして。今日は有金と将棋はしないのか?」


 これ以上この猟奇的な俳句に巻き込まれたくないので、僕は話を変えた。有金の話は竜崎との件もあって聞いておきたいことでもある。


「……うーん。それは駆が決めること」


「ほーん。江末からはあまり誘わないのか?」


「……我から言わなくても駆が必ず誘ってくる」


「毎日?」


「……毎日」


 どんだけ積極的なんだ。ババ抜き覚えたての小学生があいつは。


 とはいえその勢いでメキメキ上達しているみたいだから馬鹿にもできない。好きこそ物の上手なれとは正しくこのことだ。


「大したもんだなそれは。で、実際のところあいつの実力はどうなんだ?」


 僕の言葉に江末は考え込むように首を傾げ、


「……うーん。総合的な力で言うと、今はまだアマ四段くらい」


「四段!? あいつまだ始めて二か月も経ってないぞ」


「……前にも言った通り駆は将棋の天才。読みの鋭さだけで言えばもっと上のレベル」


「そこまでなのかよあいつは」


 こくりと頷く江末。


「それじゃあ江末もそろそろ負けることも増えてきたのか?」


「……? 我が駆に? それは流石にまだ有り得ない」


 江末はまるで僕がおかしなことを言っているかのように不思議そうに小首を傾げた。


「ふーん。そうなのか」


「……まだ両腕を骨折した状態で四十度の熱があっても負けない」


 いや、そもそもそんな状態になったら将棋すんなよ。


「すごい自信だな……。そんなに違うもんなのか」


 江末は首を縦に振り、


「……レオパルドンとマンモスマンくらい違う」


 年頃の女子高生がキン肉マンの終盤のキャラで例えるな。


「へー。そんなにか」


「……でもどうして?」


「ん? いやだって、お前確かアマチュア五段なんだろ? 有金が四段くらいなんだったら負ける対局も出始めたんじゃないなと思って」


「……? 我がアマ五段?」


「有金と初めて部室で将棋指したとき言ってなかったか?」


 江末は僕の言葉に無表情のまま、


「…………あ。そうだった」


 思い出したようにそう言った。


「そうだった?」


「……い、いや、こっちの話。そう。王子正解。我はアマ五段」


 誤魔化すように言う江末。なんだこいつ急に。何か隠してるのか?


「だから、アマ五段なら有金とあんま変わらないんじゃないか」


「…………そ、れは」


 辻褄が合わないことを指摘され、江末は目を泳がせる。


 なんだ。どうしたんだ一体。

 江末の様子は明らかに何か嘘をついているようだった。


 もし江末が嘘をついているとしたら、有金が本当はアマ四段より弱いか、江末がアマ五段よりも強いかのどちらかだろう。

 でもそんな嘘を僕について何になる? 何の得にもならないだろう。

 一体こいつは何を……。


 僕が訝し気に様子を伺っていると、江末は少しの間考え込む素振りをとった後、何かを閃いたように手を叩いた。


「……思い出した」


「何を」


「……確かに我はアマ五段」


「うん」


「……でもただのアマ五段じゃない」


 自信あり気に胸を張る江末。

 ……まあいい。とりあえず聞くか。


「じゃあなんなんだよ」


「……我は全宇宙将棋連盟のアマ五段」


 へー。宇宙の。


「……だから普通のアマ五段とは全然違う。およそ八倍の強さ」


 ほー。八倍。


 江末は言い終えると、自分で言ったことに「うん」と自分で頷いた。


「無理があるぞ江末」


 僕が冷めた視線で指摘すると、


「……無理がある? 王子が何を言っているかよくわからない」


 外国人のように肩をすくめる江末。表情は無表情のままなのでなんか怖い。


 「何を言っているかよくわからない」はこっちの台詞だ。そもそもこっちは真面目な話をしているのにこいつはまた電波な嘘を……。


 ……。


 でもこれって江末が嘘をついでまで僕に隠したいことがあるってことだよな。どういう理由で何を隠そうとしているのかはよくわからないけど。

 だとしたら無理に聞いたところで誰も得をしないんじゃないか。むしろ江末の頑なな態度は、これ以上聞くなという言葉の裏返しなのかもしれない。


 まあちょっと気になるけどいいか。聞きたいことは聞けたし。


「まあいい。ようは有金はとんでもないスピードで上達しているけど、江末にはまだ勝てないってことだな」


「……そう。正解」


「それに加えて江末から見ても有金は才能があると」


「……そう。しかもただの才能じゃない。かなり強めのやつ」


 かなり強め、か。それは心強い。


「そうか。それは良かった。なら安心だ」


 江末のお墨付きが貰えたことで僕の気持ちは確定した。

 よし。まずは部長と話さないとだな。


 綾辻は今完全に竜崎側に付いている。まずはあいつに有金の現状と僕の思ってることを伝えよう。そうすれば有金が陸上部に戻らず将棋を続けることに賛成してくれるはずだ。


「ん、あれ? そういえば綾辻は一緒じゃないのか?」


「……うん。穂香は今は別のところ」


「部屋?」


 江末は首を横に振り、玄関の方を指差した。 


「……穂香はサッカー部の男子に呼ばれて二人で外に行った」


「へー。サッカー部の男子に」


 ほう。綾辻がサッカー部の男子に。あいつが心から部以外の人間と交流があるなんて、珍しいこともあるも……。


 …………も?


 ちょっと待て。サッカー部の男子だと……?


 アヤツジ、サッカーブ、ダンシ、フタリキリ、ソト?


 オーゥ……。


「なにぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!!?」

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