お願い。
「ウナァーンナァーンワァーン」
「んー...。」
生きてる天然猫目覚ましが鳴き、の怠い体を起こす。
昨日イナリに送ってもらい家に帰ると、
慌ただしく玄関まで来た久子さん。
『あらっ!浮気っ?』
『浮ァっ!?違いますッイナリとはそんなじゃなくてッ!!』
『うふふっじゃあっ綾瀬さんとはそうなのねっ
年の差っ私はいいと思うわっ』
『綾瀬さんとも違うんだってぇッ!!』
『...綾瀬って誰だ?』
ポケッとしていたイナリに逆に腹が立った。
「さて、今日は何をしようかな。」
*
暇だったので何か手伝えないかと思い、
久子さんと友遊佐さんのいる台所へ向かう。
もちろんちぃーは流石に台所に入れるわけにはいかないので、
台所の前で待ってもらっている。
「久子さん、友遊佐さん、おはようごさいます。
まだお腹減ってないのでなんか手伝えることありますかっ?」
暖簾を片手で捲り入ると、
友遊佐さんとお客さんの朝食の支度をしていた久子さんがこちらを向く。
「おはよう凛火ちゃん」
普段無口気味な友遊佐さんだがこういう時はしっかりと挨拶をしてくれる。
「凛ちゃんおはようっ今日も早いのねぇっ」
いつもどうりの可愛らしい笑顔の久子さんだったが、
ハッとしたかと思えばニヨニヨと顔を緩め何かを企むような顔をした。
「ちょっと凛ちゃんにお願いがあるんだけどっ」
「え、あ、はい...。」
嫌な予感がし、少し後ずさる。
「うふふっ」
*
「なんだ、ただお客さんの部屋に朝食を運んで起こすだけか。」
ニヨニヨしていた割には至ってシンプルな頼みだった。
別に人を起こすくらい容易い事だ、
現に昨日も危うく殴られかけたけどイナリを起こした。
「失礼します。」
返事がないので朝食ののったお盆を床に置き、正座をして襖を開ける。
部屋はいたって普通と思いきや、
書類やら何やらが散乱し酷い有様だ。
「ふぅー....。」
呆れて息を吐き、辺りを見渡すと、
探していた布団の山が見えた。
私は今からあれを起こさなければ。
「起きてくださいっ、朝ですよっ。」
布団の近くまで行きその山に向かって話しかける。
久子さんにこの人の名前を聞きそびれたのか失敗だった。
「美味しいご飯ですよっ起きてくださいっ」
お盆を大きめの卓袱台に乗せた後、ユサユサと山を揺する。
「ん゛...。」
何故だろう。聞き覚えのある低音の呻き声だ。
まさかと思い布団を剥ぎ取る。
「やっぱり...。」
思ったとおり布団の山の中身は綾瀬さんだった。
「久子さんの悪戯には参るなぁー....。」
ボソリと呟ていると綾瀬さんの眉間にしわが寄る。
相変わらず綺麗な顔をしていると思う、
やはり大人の色気というものだろうか。
「ん゛ー...」
「あーッやーッせーッさんッ起きてくださいッ!!」
耳元まで行き大声で言う。
「あ゛ぁ...?」
綾瀬さんが薄く目を開ける。
「おはようございま__スッ!!?」
「おはよ。」
なんということだろう。
スッと伸びて来た綾瀬さんの腕に捕まり
すっぽりと腕の中に収めらホールドされてしまった。
耳元に綾瀬さんの口があるためか、ただでさえ低い声なのに
寝起きてもっと低くなった声がダイレクトに耳を擽る。
「なんなんですかッ離してくださいッ訴えますよっ!」
バタバタと暴れるも大人の男の人には敵わず、
全然意味がない気がしていた。
「良い抱き心地...。けど、訴えられるのもなぁー...。
なぁー、今夜から俺の抱き枕にならねぇー...?」
「なッりッまッせッんッ!!」
綾瀬さんは子供のようにちぇっと言うと拘束を辞めた。
*