家路。
「まぁとりあえず、
今日は帰りに道を誤ったらヤバいから俺が送ってく。」
私を送る支度をし始めた綾瀬さんを見てふと気になった。
「綾瀬さんの家って此処なんですか?」
「馬鹿言うんじゃねぇーよ、此処なわけないだろ。
仕事部屋的なもんだよ。
さっき言ったとおり、此処は時間が可笑しなことになってんだ、
俺の家はある意味お前も今住んでるあの旅館だよ。」
そう言い荷物をまとめたショルダーバックを肩に掛ける綾瀬さん。
「あぁっだからあの時縁側にいたんですねっ」
ポンッと拳を掌に落とし納得する。
「あん時はなぁ...、原稿がなぁ、ギリッギリだったんだよなぁ...。」
いきなり遠い目をしだす綾瀬さん。
「原稿って、綾瀬さんなんか書いてる人なんですか?マンガ家?」
旅館に住み込みって所から普通の仕事に就いてるとは思ってなかったが、
まさかそっち系の仕事だったとはと驚く。
「ちげぇーよ、いちよう小説家だよ。」
「ほうほうっ!私小説好きなので興味ありますっ見せてください先生っ!」
「うわ、先生とかやめろよ。てかホント最初と態度ガラッと違うなお前。」
スッと距離をおき明かに嫌そうな顔をする綾瀬さん。
「最初見た時ぁー恥ずかしがり屋っぽい娘に見えたんがなぁ...いや残念。」
「残念って何ですかもうッ!」
*
「凛火は確か夏休みの間こっちに居るんだったんだよな?」
二人と一匹で野原をのんびりと歩いてるなか聞いてくる綾瀬さん。
何気に凛火と名前を呼んでくれたことに少し嬉しくなる。
「ってあれっ?何で夏休みだけって知ってるんですか!?」
確か私からは言ってなかった筈なのにと動揺する。
「そりぁ、住み込みだからなぁ。」
欠伸をしながら怠そうに答える綾瀬さん。
「私は綾瀬さんのことなんも聞いてませんでしたけどーっ?」
「言うこともねぇーから黙ってもらってたんだよ」
「はぁっ?」
「あ、オイ。
鳥居前までついたぞ。」
綾瀬さんが鳥居の前でピタリと止まる。
どうやら鳥居は分らなかっただけで二つあったようだ。
「此処からが帰り迷いやすいんだよ霧で...、
凛火、絶対離れんじゃねーよ。」
そう言うと普通のことかのように私の腕を掴む綾瀬さん。
よくこんな小っ恥ずかしいできるなとある意味感心する。
「ちぃーはそのままでいいんですか?」
「あぁ、化け猫の血が入ってるなら本能的に迷わないだろ。
まぁ俺的にお前が行きん時迷わなかったのが不思議だがな。」
スッと鳥居を潜り進みだす綾瀬さん。
「ふっ....。」
「おい凛火大丈夫かっ...?」
行きの時同様にクラッと目眩がする。
この感じ気持ち悪くて嫌いだ。
「大丈夫です...。
ちょっと目眩がするだけです...。」
「.....。」
黙り込んだかと思えば
自分の手で私の顔を自分が見やすい角度に上げた綾瀬さん。
「な、なに、ってっうわあぁっ!?」
「よッとッ...。」
いきなり横抱きをしたかと思えば
ちぃーに目で合図して小走りで霧の中を抜ける。
「ッッ!!」
私は驚きすぎて逆に悲鳴を上げることさえ出来なかった。
*