普通の人には見えないもの。
ちぃーの頭を撫でながら落ち着いた声色で喋る男の人。
「此処は普通の人には見えない。辿り着けない場所なんだ。」
「え、じゃあなんで__」
「なんで俺達は此処に来れたかってっ?」
男の人は困ったように眉を下げて苦笑いをしながら私を見上げて言うと、
スッと立ち上がった。
「はい、」
「俺は...。
普通の人には見えないものが見える。
たまにいるんだよ、そーいうのが見えるタイプの人が。」
真剣な顔でまっすぐな瞳でそう言った。
普通の人には見えないもの。
「見えないものって、なんですか...?」
「呼び方は様々だよ、妖、妖怪、物の怪、幽霊。
それが見える人、あるいはそーいうものしかここには入ってこれない。」
そう言うとクイクイと指で手招きをして私を家へ招き入れる。
「おじゃまします。」
「ほらっ、此処座って。」
ありがとうございますとだけ言い言われた木の椅子に座ると、
すぐ傍のパソコンがある机の前の普通の椅子に座る男の人。
「あの、でもっ、私今までそんなもの見たことないんです。」
話を戻し、私の膝に飛び乗ったちぃーを撫でる。
「お前ってたしか都会から来たんだよな?
なら本来見える体質なはずのに見たことないだろうな。
都会にはもう奴らはいない。」
「いない?」
私は首を傾げる。
「...時代の流れだよ。
あと、此処にはもう来ない方がいい危険だ。」
「やっぱ危険なんですか此処」
「あぁ、危険さ、いつ奴らが襲ってくるかわからない。
今来ても変じゃない。あと、此処にいると時間が狂う、
ちょっとウトウトしていただけで
いつの間にか数日過ぎているなんてざらにある。」
とにかくここは危険なんだ。そう付け足し立ち上がる男の人。
「おっと、いちようお前の名前聞いとくか、
俺は綾瀬 清だ。呼び方は自由で構わねぇー。」
「私は宮野 凛火です、凜火でいいです。
それと愛猫のシトリー。」
またちぃーを撫でて言うとちぃーをじっと見だす綾瀬さん。
「どうかしましたか?」
「いや、この黒猫、シトリーだっけ?こいつ
化け猫の血が混ざってるぞ。
きっとお前が此処に行きついたのもこいつのせいだろ。」
そうちぃーの頭をワシャッと撫でる。
「でも、ちぃーは里親からもらってきた普通の子のはずなんですけど」
綾瀬さんに撫でられ乱された毛を舐めて直してるちぃーを見て
小首を傾げ頭にはてなを浮かべる。
「だか、お前はこいつの生まれた瞬間も、親も知らないだろっ?」
そう意地悪くニヤリと笑う綾瀬さん。
「うっ、確かにっ。
あと、私。お前じゃなくて凛火です。」
*