歌。
「ただいまー。」
買い物を済ませ仕事家に帰ると
いつも直ぐ帰ってくるおかえりと言う返事がなかった。
「おーい。...?」
ドアを閉め辺りを見渡すも凛火どころか子犬達も居ないことに頭を傾げる。
「部屋か...?」
そう思っていると丁度凛火の部屋からドアを掻くようなカリカリっといった音が聞こえ、
また昼寝でもしたんだろうと思いながらドアを開ける。
「んっ?」
予想とは反して子犬とドアを掻いていたシトリーはいるが凛火の姿がない。
そんな時、微かに聞こえた、
なめらかに滑るようなそれでもって
ガラスのように透き通る響き渡るような歌声。
「ッ...!」
聞き覚えのある声、歌。
思わず部屋からシトリーだけ出し歌声の聞こえる鳥居側ではない家の裏側の野原へ向かう。
「っ...。」
歌っていたのは何処に行ったのか分らなかった凛火だった。
髪が風で揺れ、キラキラと光っているようにも見えた。
「...お前、なんでその歌を....、」
思わず口から洩れた言葉が数m離れた凛火にも聞こえたのか
ビクリと肩を跳ねさせ此方を振り返った。
「ッ...!!...えッ!?聴いてたのッ...!?」
俺と分かった瞬間、目を見開き顔を赤くする凛火。
「お前が何でその歌を知ってるんだッ。」
強めな口調で言いながら凛火の近くへ向かうと、
凛火は数歩後ずさった。
「ち、小さい頃、悲しい時とか辛い時とかに頭に流れてきて、」
少し怯えたような顔をし目を逸らす凛火にちょっと強く言い過ぎたと少し反省し戸惑う。
「っ...この歌について知ってることあるか...?」
今度はなるべく落ち着いた声色で言ったせいか凛火は俺と目を合わせた。
「何も知らないです。
誰にも教えてもらってないのに、ある意味元から知ってたんです、
でも、今はもういないお父さんに昔その事話したら
ビックリした後にその歌は忘れないように、
どうしても悲しく辛くなったら誰も居ない所で一人で歌えって。」
まるで子供が親に言い訳をする時のように不安そうな表情で一生懸命に伝えてくる。
「お前がその歌のこと知らないのは分ったから、そんな顔すんなって。」
無意識に凛火の頭を撫でると
顔を少し赤くしながら頷いた。
「久子さんには犬のことは言っといたから、
餌あげて体洗ったら帰るぞ。」
撫でていた頭をポンっとすると何故か手を跳ね除けられた。
「子供扱い、しないでください。」
「は?」
スタスタと家のすぐ側にいるシトリーの元へ行ってしまう凛火。
「女子高生はわかんねぇーなぁ。」
聞こえないくらいの声で呟くことしかできなかった。