傘。
傘を持ち、ちぃーを連れ
玄関を出ていつもお客さんの分も含まれている大きめの新聞ポストの前に行く。
「あれ?凛火...?」
その聞き覚えのある声に振り返ると、
そこにいたのは私がいるのは予想外だったのか少しビックリした表情のイナリだった。
数日振りだが大分久しぶりに感じる。
いつもの格好に薄いフード付きパーカーを着ていて傘も差さずフードを深く被っていた。
「イナリっ?って、わぁあッ、なんで傘さしてないのさ~ッ、」
イナリの傍まで行って傘をいつもより上に持ち上げてイナリも傘の中に入れる。
「何でって、めんどいからだよ。
てか俺に半分差したらお前まで濡れるだろ俺は良いってっ、」
傘から出ようとするイナリ手を掴み止める。
「じゃあイナリが傘持って!」
「はぁっ?」
「持ってッ!!」
「ッ...。」
渋々といった感じに傘を持つイナリ。
「所でイナリはこんな時間に何してたのっ?」
「あぁ、面白いもんがあってなー。お前も来る?」
少し楽しそうに聞いてくるイナリ。
あのイナリがこんなにもワクワクしているのだ、
きっとかなり面白いものだろうと思う。
「行くっ...!」
答えは即答だった。
*
久子さんにイナリが面白いもの見せてくれるって言うからと言い、
新聞だけ置いてまたイナリの元へ戻った。
今はあの鳥居がある所とは逆方向の竹林をイナリと所謂、相合傘をして進んでいる。
久子さんに余りの傘が無いか聞いたら笑顔で無いと言われた。
「あとどのくらいで着くのー?」
傘を持ってくれているイナリに聞く。
「あー、10分くらいじゃねっ?多分。」
自分で案内しといてなんともアバウトなことを言う、
と、呆れていると何処からか声が聞こえだした。
「おっ、やってるやってるッ
オイッ、こっち来いっ」
イナリが私の手を引き私はちぃーを抱き一緒に岩の陰に隠れる。
「これだよこれ~ッ」
やけに楽しそうにイナリが見つめる先には着物を着た女の人と傘。
傘は傘でも唐傘だ、
おまけにその唐傘は一つの大きい目と口が付いていて喋ってっている。
「な、何っ、これ、...」
「自分の力を操れない不幸雨女と唐傘小僧とか
唐傘お化け、唐傘って呼ばれてるやつだよっ...」
小声で聞いた私に、更にワクワクした表情で小声で返すイナリが
まぁ見てろってと指を指した。
「少しくらい傘ん中入れてくれたって良いじゃないかいッ!」
「嫌だよッお前に関わると余計なことしか起きないんだッ!」
「私だって好きでこんなことッ__」
「じゃーッ訓練しろやッ!」
「五月蝿いわねぇーッ!!」
次第に取っ組み合いの喧嘩をし始めた二人。
「馬鹿だよなぁ~ッククッ」
「だ、だね~...。」
それを楽しそうに見ているイナリの姿はもはやこれが本業かと思うくらい似会っていた。
*