満月。
「あれ...?」
一番最後に入ったお風呂から上がり
お風呂場と本館を繋ぐ橋をちぃーと歩いていると、
歩く先に、見慣れた癖のある
少し長めの黒髪の男の人の横顔が見えた。
「綾瀬さん。」
その男の人、綾瀬さんに声をかけそっと近づく。
「...凛火か。」
振り返り、声をかけたのが私だと分かると優しく目を細めた綾瀬さん。
中庭の池に反射した月明りが綾瀬さんの顔をキラキラと照らし、
より一層その顔が嫌なくらい綺麗に見えた。
「何でこんな所に居るんですかー。」
綾瀬さんが寄りかかっていた橋の手すりに私も寄りかかり聞く。
何処からか綺麗な風鈴の音も聞こえた。
「満月だからなぁ、今日...。」
空を見上げる綾瀬さん。
「っ...。」
深緑色の片目が今一瞬自ら光ったように見えた。
「どうした?」
綾瀬さんがまた此方を向く、目はいつもの深緑色。
「いえ、何でもないですよ。」
「何か言いたいことある顔してるぞっ。」
手すりに肘を付け、頬杖をしながら何が可笑しいのか静かにニヤニヤとした顔をする綾瀬さん。
「じゃあ、聞いて良いですか...?」
「ん?」
綾瀬さんが私の話を聞こうと微笑みながら少し首を傾げる。
「綾瀬さんは、人ですか...?」
*
「ん....。」
ジメッとした暑さに目が覚める。
「ナーン。」
私が起きたせいか、一緒に目が覚めてしまったちぃーの頭を撫でる。
『綾瀬さんは、人ですか...?』
昨日そんなことを綾瀬さんに言った私。
もちろん、そんなわけないだろと大声でお腹を抱えて笑われた。
嘘をついているようにも見えなかったし、きっと本当なんだろう。
「あ...。」
少し開いたカーテンの隙間から見える空は灰色に染まり、雨が降っていた。
ジメッとした感じはこのせいだったのかと納得した。
よく耳を澄ませると微かに雨の音が聞こえる。
*
「何かお手伝いしましょうかー?」
暖簾を捲り中を覗き込むといつもよりかは少しのんびりとした雰囲気だ。
「あらっ凛ちゃんおはようっ
今日は特別早いのねーっ。」
「おはようございますっ。今日は雨だったからなんか目が覚めちゃって。」
「ジメジメしてるしなぁ...凛火ちゃん、おはよう。」
友遊佐さんも奥から出てきた。
「おはようございますっ。
あ、友遊佐さんっ、なんかお手伝い出来ることってありますかね?」
私の言葉に、んー。と考えだす友遊佐さん。
「何かあるか?」
「あっ!新聞取ってくるのまだだったわっ
凛ちゃんお願いできるかしらっ?」
そう申し訳なさそうに言ってくる久子さん。
「了解しましたっ!」
*