匂い。
「やけに大人しいな。」
黙って抱き上げられている私に向かって言うイナリ。
「降ろしてよ。」
明らかにムカついている声色を出すと、
ハイハイと言い私を地面に降ろしたイナリ。
「真紀斗さんさ、」
真剣な顔をしたイナリ。
何を言うのだろうかとこちらもその目を見つめ返す。
「真紀斗さん、お前が近づいた時とかお前が上に乗っかった時、
鵺の匂いがより一層強くなった気がしたんだ。
お前なんか心当たりないか...?」
ジッと私を見つめるイナリ。
「分かんない。
でも、見えることが関係してるのかな。」
イナリが頭に手を当て伏し目がちに考え始める。
その時、足に何かが当たった気がした。
「ん?...ん”ん⁉︎⁉︎」
足元にいたのはさっきの陰猫。
しかも今は数が増え3匹にもなっていた。
「いッイナリ‼︎かッ、陰猫がっ‼︎」
「はッ?」
下を見て目に見えて嫌そうな顔をするイナリ。
「行くぞッ...。」
*
私を旅館まで送って帰ろうとしたイナリに遠くから手を振ると
手を振り返すわけでもなく手を軽く挙げただけで帰って行ってしまった。
「ブシュッ!!」
そんな大きなくしゃみが聞こえ後ろ斜め上を見上げると
予想していたとおり綾瀬さんが目と鼻を擦りながら立っていた。
子犬がいるのが分っていて近寄ってくるから本当に馬鹿な人だと思う。
「アレルギー、大丈夫なんですか。
動物アレルギーって接触すると余計酷くなるらしいですよ、死にたいんですか。」
冷たくジト目で言い放つとムスッとした顔になる綾瀬さん。
「ズズッ、大丈夫だよッ。
それより...、今の誰だ。」
急に冷たい目をし帰っていくイナリを見つめる綾瀬さん。
「え?誰って友達ですけどっ?」
「ふーん。」
綾瀬さんは何かを考え出したかと思えば横目で私を見る。
「どんな奴?」
「どんな...、基本私のこといじってきたりツンツンしてたり...ん?
あれ?私なんであんなのといるんだろ。」
深く考えてみれば何故あんな意地の悪い奴といるのだろうかと頭が冷静になってきた。
なんか深く考えちゃダメな気がしてきた。
「まぁ、なんだかんだ助けてくれたりもするので、悪い人じゃないですよ...?」
「ふーん。」
伸びかけの髭を弄りだす綾瀬さんに沸々と苛立ちが沸いてくる、
さっきからふーん。か質問しか言っていない気がする、
何が気になっているのかがサッパリ読めない。
「何ですかその曖昧な返事は。」
「まぁ、そのうち話すさ。
あ、それより、俺今から仕事部屋行くんだが来るか?」
「いきなり話し換えますね。」
不満そうな顔をするとハハッと苦笑いをし、
子供をあやすかのように私の頭を掻き回すかのように撫でてきた綾瀬さん。
「で、行くかっ?」
「行きます。」
*