司書。
イナリに子犬を押し付けたことによる文句を言われながら
出入り口から図書館内に入り、
辺りを見渡し司書の真紀斗さんを探す。
「オイ。あれじゃね?」
イナリが見る先には高い所の本を取るためか、台に乗った男の人。
きっとあの色気のある後ろ姿は真紀斗さんだろう。
「すみませんっ
今日は子犬もいるんですけど大丈夫ですかっ?」
私の声に振り返った真紀斗さん。
「うんっ大丈夫だよ。」
微笑む顔は何処か知った妖艶さがある。
その綺麗さは女の私が嫉妬する程だ。
「ありがとうございますっ」
イナリと二人会釈をし一番奥のいつもの定位置の席に着く。
「真紀斗さんってさ...綺麗だよな。」
イナリが遠くに居る真紀斗さんを見てポツリと言う。
「え?イナリそっち系?別に私は偏見とかないけど...
真紀斗さんは高嶺の花だよっ、手出したら駄目だよっ。」
なるべく小声にしたつもりだがイナリは明らかに不機嫌な顔になった。
「別にそうゆう意味じゃねぇーよ、勘違いすんな。」
フッとそっぽを向いてしまった。
「ごめんてっ。
まぁ確かに真紀斗さんって人離れした雰囲気持ってるよね。」
私の言葉にピクリと反応し、真剣な表情をするイナリ。
「...真紀斗さんってさ、少し鵺の匂いすんだよな。」
「えっ...。」
イナリのその言葉に動揺を隠せなくなる。
「きっと本人も気づいてねぇーし、
殆ど人間で、ある意味残り香程度だしほっといてるけどな。」
「鵺って、昔お父さんの持ってた古い本にも載ってた...。
昔話とかにも出てくる色んな動物混ぜたみたいな妖怪でしょ?
本当にほっといて大丈夫なの?」
私の言葉に一瞬横目でこっちを向いた後、立ち上がるイナリ。
「良いんだよ、まぁ。
変わり鵺ってのが厄介だけどな...。」
*
「ッ!ッ!!こっ、来ないでぇぇぇ...!」
今私はまたあの影猫に追いかけられている状況にある。
図書館内なので大声も出せず助けも誰も来ないだろう。
私が何故この状況に置かれたか一言で言うと、
いつもだったら私が立ち上がると
何処へでもついてくるイナリが爆睡してしまい
一人で本を棚に戻しに来たらこの様だ。
綾瀬さんを恋しく思ったからきっと相当の危機だろう。
「ッヒィィィッ...!」
そんなことを思っている間に影猫に床に滑るように距離を縮められ、
慌てて角を曲がる。
「ッ!凛火ちゃんッ!?」
「っえ」
ドンッと言う音を立ててぶつかったのは真紀斗さん。
そのまま二人、私が真紀斗さんに覆いかぶさる形で倒れ込む。
「ッタタ...、」
真紀斗さんはその綺麗な顔を歪ませ心底痛そうに自分の後頭部を押さえる。
「あッ、ごめんなさいっ!」
そんなことをしている間に騒音を聞きつけたイナリが走ってきた。
その肩と横には子犬入りのキャリーバックとちぃー。
「オイッ今の音ッ_って馬鹿ッ凛火ッ!」
イナリが顔を赤くさせ怒る。
「馬鹿って何なのさッしょうがないでしょッ」
反発して怒るとイナリさらに焦ったような表情をしてドスドスと歩いてくる。
「ホント馬鹿ッお前パンツ見えてんだよッ!!」
「えぇッ!!?」
イナリがバッと私のスカートを戻す。
一瞬そのままスカートがずり落ちそうにもなった。
「もうッいちいち乱暴なんですけどッ!変態ッ!」
「るせぇーよッ!」
閃光が出そうなくらいに睨みあっていると
モゾリと真紀斗さんが私の下で動いた。
「凛火ちゃんっ、そろそろ退けるかなっ...?
この状況、男としてちょっとしんどいんだけど...っ、」
「すぅッ、すすすッすみませッ__んんッ!?」
顔から火が出そうになっているところを
スッと体が浮き上がりイナリに抱き上げられる。
「ッ!!?降ろしてよッねぇッ!」
「すみません真紀斗さん、コイツ持って帰りますね。」
抱き上げられたままバタバタと暴れる私を無視して冷静に言うイナリ。
「うんっ、よろしくねっ、」
*