声。
「はぁッ...はぁ、...」
声を頼りに走るといつの間にかあの鳥居の前まで来ていた。
綾瀬さんにもう絶対に入るなと言われていたあの鳥居。
汗が肌を伝い、生唾をゴクリと飲み込む。
「ちぃー、行くよっ。」
「ナーンっ」
鳥居を潜り、途中途中目眩を感じながらも霧の中をちぃーを頼りに進む。
きっとあの声は綾瀬さんの声だ、
空耳かもしれないのに何故か確信が沸く。
「っ...出れたっ」
二つ目の鳥居を通り霧が晴れた。
「よしっ!」
野原を通り木のレンガの道を走る。
「ッはぁっ、なんでこんなに無駄に距離があるのッ」
文句を垂らしながらも平屋に何とか着き、
扉をバンッと開く。
「綾瀬さんッ!!」
「ハブシュッ!!」
「え?」
開いた扉の目の前に居たのは、
数匹の子犬を抱えてヘタリ座りクシャミをする綾瀬さんだった。
*
「はぁ~...。心配して損したなぁ~...。」
結局助けを呼んでいたのは綾瀬さんだったが
理由は犬を拾ったが飼い方も知らず
犬アレルギーなので苦しんでいたというくだらないものだった。
今は私が平屋で子犬の面倒をちぃーと見て。
『とりあえず犬用粉ミルクか人用粉ミルク買って来いッ!!』
『はいぃッ!』
綾瀬さんは子犬のミルクと犬用哺乳瓶を強制的に買わせに行っている。
しかし、犬アレルギーなのに見捨てず拾ってしまう綾瀬さんは
馬鹿なんだか良い人なんだか。
「私が子犬の育て方とか知らなかったらどうする気だったんだか...。」
そう愚痴を吐いているとふと思い出した。
何故綾瀬さんの気持ちが、言葉が私にだけ伝わってきたのだろうか。
*
ピーッと音が鳴り、粉ミルクを溶かすためのお湯が沸く。
「あっ、ちぃーちょっと見ててっ」
ちぃーに子犬たちを預け火を止めると同時に
バンッと玄関のドアが開いた。
「ただいまッ犬用のあったぞッ!」
荒い息の綾瀬さん、どうやら店まで走ってくれたようだ。
「ありがとうございますっ
すごいですねっこんな田舎なのに犬用のあるなんてっ」
「店のおばちゃんに奥にあるの出してもらったっ。」
綾瀬さんから袋に入った犬用の哺乳瓶と
粉ミルクを受け取りミルクの準備をしだす。
「はぁ~、凛火来てくれて助かったわぁ~、
こんな目も開いてないチビ達誰かに預けるなんて無理だしなぁ。___ブシッ!」
「あぁっもうッ綾瀬さん子犬触ったらダメでしょッ!
ほらっ顔洗ってきてくださいっ!」
クシャミをしながら懲りずに子犬を触っていた綾瀬さんの背中を洗面所まで押していく。
「ズズッ、...犬、好きなのになぁ。」
ティッシュペーパーを手に取り鼻をかんでボソリと呟く綾瀬さん。
「好きでもアレルギーなんですよ、しっかりしてくださいよ。」
ミルクの入った哺乳瓶を人肌まで冷ますためクルクルと回し、
肌に当て言う。
「ハイハイ、にしてもどうするかこいつ等。」
丸めたティッシュペーパーをゴミ箱に投げ捨てて考え始める綾瀬さん。
「このサイズだと数時間おきにミルクあげないとだから、
此処に置きっぱなしはできませんし...。
一様久子さんに連れて行って良いか聞きますけど、
犬は猫と違って活発だし、何しろ鳴きますからねぇ...。」
「あぁ...。」
ミルクの温度を確認してから子犬に飲ませ始める。
「お前、ミルク飲ませるの上手いな?」
綾瀬さんがこちらをじっと見ながら言う。
「まぁ、子猫とそう変わりませんからねっ
なんせ、猫運強すぎて捨て猫拾いまくって嫁婿に出した猫は数知れず。
鍛え上げられましたからね....。」
遠い目をした私にお、おぅ。と綾瀬さんが引きつった顔をした。
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