違和感。
このど田舎に来て二週間近く経った。
「...。」
わりと図書館に来ることも日課となり、
また、イナリが隣で寝ていることも当たり前のこととなっていた。
今日は涼しい方なのでエアコンは止められ、窓から涼しい風が入り
イナリのカジュアルな七分丈の黒いパンツに
何処からか舞ってきた花弁が落ち、
イナリの銀髪と私の色素の薄い栗色の髪が揺れる。
「ふぅー...。」
読んでいた本をパタリと閉じ本棚に置きに行くため席を立つと、
唸り声をあげてイナリが起き上がった。
「...もう、行くのかー...。」
欠伸混りに伸びをしたイナリ。
その揺れる銀髪にどうしても目が入った。
「ねぇ、イナリのその髪って地毛?」
「はぁ?なんだよいきなり。」
イナリはめんどくさそうにその太くて短めの眉を顰めると、
黒いパンツと白の半袖Tシャツから花弁がひらりと落ちた。
「いや、前から気になってたんだけどさ
イナリってちょっと変わってるじゃん。
目の色だって、その髪だって、外人みたいだし。」
不快にならないよう言葉を選ぶ。
「....。」
無言で少し不安になり顔をのぞく。
何かを考え込んでいるようにも見えた。
「...地毛だよ、...地毛。」
そっけなく呟くイナリ。
「ふーん。やっぱアルビノ?ってやつ?」
「アルビノ?」
イナリがこっちを向いて首を傾げた。
「えっとね。」
スマホの検索欄にアルビノ正式名と打ち込む。
「あ、あったあった、先天性白皮症。
アルビノは動物学においては、
メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により
先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体である。
発症率は2万人に1人だってさ、すごいね。」
ネットに書いてあった情報を読むとイナリは黙って聞いていた。
「まぁ、俺はアルビノってやつなんかな、多分。」
「多分て...。」
イナリの発言にガクリと肩を落とす。
いくらなんでも多分とはなんなのだか。
「で、もう行くの?」
イナリがスルリと話を変える。
「ちょっと本棚に返し行くだけだよっ、すぐ戻る」
「俺も行く。」
ガタっと椅子から立ち上がるイナリ。
「えっ、ちぃーも寝てるし、すぐ戻るしっ」
「いいから。」
「う、うん...。」
謎の違和感を感じた。
*
少し歩き、私が読んでいた本があった場所へ二人と一匹で行くと、
さっきまであった台の椅子が無くなっていた。
「これじゃ届かないや。」
特別背が低いわけでもない私だが、
いくら手を伸ばしても元本があった場所に届かない。
「んーッ!!_」
苦戦していると、
スッと後ろから手が伸び私が持っていた本を本棚にしまった。
「とろいなぁーお前は。」
笑い混りのため息が上から聞こえた。
「イナリ...。」
黙っていればかっこいいイナリだがホント一言余計だ。
「うっさいっ。」
*