麗しの女装令息の婚約破棄騒動記 SIDEジルベール
「アレクサンドラ・シア・シュバリエジュモー公爵令嬢、貴女との婚約を今日この場で破棄させて頂きます。」
「何故でございましょうか?」
「ジャクリーヌ・マドモアモーレ子爵令嬢への誹謗中傷に嫌がらせ、そして毒を盛って殺害しようとされていますよね。
その様な方は、この国の国母には相応しくないのです。
貴女は殺人未遂の犯罪者なのですよ。」
何故とは白々しい。私の愛しいジャクリーヌに嫉妬にかられて、酷い事を平然としていた癖に。
私のジャクリーヌがお前のせいで、社交界ではさらし者になり、どれだけ傷つけられてきたことか。
何が麗しのご令嬢だ。只の外面がいいだけの毒婦だろうが。
それに私は昔からこいつ、いや、双子の弟を含めて嫌いだ。
この国の第二王子である私に馴れ馴れしい態度をとっては、それを当たり前の様に思っている。
そして、忌々しい異母兄と同じ態度ときたものだ。私の方が尊い存在だというのになんてことだ。
こんな連中が本当に公爵家の令息・令嬢だというのか。この国の貴族の質が落ちてしまっているな。
私が王になった暁には、害にしかならない貴族連中を排除しなければならないな。
何せ、私の愛しいジャクリーヌは先見の聖女だ。彼女が是と言えば、簡単なことだろう。
ふっ、今は初代国王の生誕祭の舞踏会の最中だ。近隣諸国からの客の前で、その外面の仮面を剥がして、恥をかかせてやろうではないか。
だから安心して身を委ねていればいいよ、愛しいジャクリーヌ。今まで貴女を傷つけてきた毒婦に鉄槌を下してあげるからね。
そして、今日をもって貴女を私の婚約者にして立場を確立し、貴女の皆に愛される王妃にしてあげるからね。
なのにどうしてこうなったんだ。
アレクサンドラが私を愛していない?あんなに馴れ馴れしい態度をとっていたのに!?
それに、アレクサンドラは私の婚約者ではなく、あの忌々しい異母兄と合わせての婚約者候補だっただと!?
それと、あの忌々しい異母兄が王太子になっていただと!
立太子の式典も、婚約披露パーティーがあっただと?
「私はそんなものは知らないっ。」
何故あんな女の息子が、たとえ正妃の息子で第一王子だとしても、王太子になれるのだ。私の母上を虐げているというのに。
蛙の子は蛙だ。どうせあいつも性根が腐っているはず。そんな者にこの国を任せれば、どんな恐ろしい事になる事やら。
あぁ、ジャクリーヌが‘私がこの国を豊かに導ける王’とはこの事を指していたのだな。
この腐った連中を排除出来るのは、私しかいないからな。
それだというのに、何故その様な事を言うのだ、ジャクリーヌ。
「ねぇ、ジルベール。貴方この国の王になれないの?
だったら、わたし貴方じゃなくてアルベール殿下の方にアプローチすれば良かったわ。残念だわ。
あっ、今からアプローチすれば良いわね!」
どうして、私を愛していると言っていたではないか。先見の力で私を見出していたのではないのか?
なぜ……。
「な、なに…を。何を言っているんだ、ジャクリーヌ。
私の事を愛していると……私が全てだと…。
それに……それに、ジャクリーヌは先見の聖女だから、この国を豊かに出来る王になれるのは私だと言っていたではないかっ!」
貴女の愛は嘘なのか?
初めて会った時に、花が綻ぶ様に可憐に笑い媚びるでもなく、馴れ馴れしくもなく、私に接してくれていたというのに…。
呆然とジャクリーヌを見つめるだけしか出来ない。
すると、血相を変えて父上がやって来て、彼女が先見の聖女ではないと言い出した。
何を言っているんだ?
国として保護もしないで、今まで放置してきた癖に。きちんと先見の聖女の証も彼女はもっていたぞ。
「……それは…。」
父上が言い淀んで、アレクサンドラの方を見ている。
私も視線をそちらへ動かせば、シュバリエジュモー公爵夫妻とその横には、確か皇国のシルヴェストル皇太子がいた。
何故そこに、シルヴェストル皇太子がいるんだ?
すると、シルヴェストル皇太子の護衛官らしき男が、私を馬鹿にしながら話し出した。
とんだ無礼者だな。こんなのを護衛官にしているシルヴェストル皇太子の器がしれたものだな。
「ふっ、そんな事も分からないのですか?
簡単ですよ。別の人間が既に教会から先見の聖女として認定されているからですよ。」
「っ!!馬鹿な。ジャクリーヌは私に先見の聖女の証を見せている。
その女が偽物に決まっているだろう。
大体貴様は誰だ!?私はこの国の王子だ。貴様は無礼打ちにしてやる。」
「相変わらずのトリ頭ときたもんだ。幼馴染の顔すら分からないとはな。
私は、レオナール・シア・シュバリエジュモー。ああ、更に肩書きに追加するならば、プレート皇国の王位第二継承者になるな。
それと、ジャクリーヌ様は先見の聖女の証をお持ちとの事。
おかしいですね。その証は1年半程前に先見の聖女の元から盗難されているんですよ。その為、新しい物が造られて、その証の形などを知っているのは各国の国王夫妻と宰相・教会の司祭以上の者のみになっているのですが。
どうやら、どなたかがジャクリーヌ様に盗難された古い証をお渡しした様ですね。」
っな!?こいつがあのレオナールだと?
それに、先見の聖女の証が盗難されて、新しい物になっているだと?
まさか…まさか、そんなっ!!
「なんで?わたしが持っている方が有効活用できるのに。
あんな男女が持ってたって仕方ないじゃない。
だいたい、先見の聖女なんてただのおとぎ話なんだから、誰でもいいでしょ。
わたしみたいに可愛い子が持って、王妃様になった方が国民も幸せよ。」
「…ジャクリーヌ?
何を…貴女は本物の先見の聖女に仇をなしたのか?」
「ジルベール…?
私は別に仇なんかなしてないわ。ただ証を頂いただけよ。」
「なんていう事を……。」
先見の聖女に仇をなしたり、見放された土地は、その後何十年あるいは何百年も苦境に立たされるというのに。
そんな子供でも知っていることを知らないのか?
それなのに、証を奪いなり替わり、本物を先見の聖女を貶める行為をするなんて…。
「この女を捕らえよっ!地下牢に繋ぎ、教会より沙汰が下るまで面会は謝絶だ!!
そして、この女の一族郎党まで全て捕らえるんだ!」
「なっ、なんで!?
お父様、お義母様助けて!!」
父上が愚かの女を捕らえる様に命令を出している。そこで助けを求めるのを私にしないのか…。
今更助けを求められても、助けるはずもないけどな。
青い顔をして茫然自失としていると、さらにレオナールが追い打ちを掛けてきた。
「幼馴染のよしみで、良いことを教えてあげるよジルベール殿下。
私が本物のアレクサンドラ・シア・シュバリエジュモーだよ。
で、あっちの麗しのご令嬢がレオナール・シア・シュバリエジュモー。
最初の顔合わせから数回は、入れ替わらないでお会いしているが、気が付かないもんなんですね。
もちろん、アルベール殿下はちゃんと気づいてましたよ。」
「なっ、なな…。」
「それと、1ヶ月前から皇国のシルヴェストル皇太子殿下の婚約者になっている。」
な、なな…。
どうやら、周りに居た者たちにも聞こえていた様だ。
そして、ご婦人・ご令嬢からは黄色い悲鳴が。そして、年若い男共からは絶望的な悲鳴が上がっている。
私も困惑している様で、声が出ないし思考が追い付かない。
何故、入れ替わりなど?双子で変態の趣味なのか??
すると、レオナールの恰好をしたアレクサンドラが私の耳元で驚愕の事実を話してきた。
「くくっ。もう一つ教えてあげるよ。
私が本物の先見の聖女だよ。これからこの国はどうなってしまうんだろうね?」
何だと、アレクサンドラが本物の先見の聖女!?
それなのに、父上は何故彼女を、同盟国とはいえ、他国のシルヴェストル皇太子の婚約者になることを了承しているんだ。
この国はどうなってもいいと思っているのか!?
「シルヴェストル皇太子の婚約者…?
父上、何故他国に出してしまうのですか!?」
「お前のせいだろうか……。」
何故私の所為なのだ?
「はぁ、アルベールの婚約者候補から外れても、2ヵ月程前まではジルベールの婚約者候補だったがな。
私へのプレゼントと称してあの女に貢物をしていただろう。
私を虚仮にしておいて、知らんとは言わせない。
それと、近年の帝国からの戦争をふっかけらている状況で、私が力を使って回避していたが、軍の総大将を預かっているお前は何をしてきた?
私がそれらにキレないはずがないだろうに。」
「そ、それは…。」
「そして、父上は陛下の従弟としてこの国を宰相として支え続けて来てたけど、最近は限界を感じていてね。
母上の実家の皇国に行って隠居生活をされたい言われていたんだよ。それを、陛下とアルベールが必至で留めていたんだけど、全て水の泡になってしまったな。」
「な、何故だ?」
「相変わらずのボンクラだな。さっきのお前の不用意な問いかけの所為だろうが。
あれだけで、敏い連中は私が先見の聖女だと勘ぐってくれるだろうよ。
あとは、陛下達とよく話し合って今後を決めるんだな。」
そう言い残して、アレクサンドラ達シュバリエジュモー公爵家の面々は舞踏会会場を後にした。
私は、翌日には父上から王位継承権の破棄及び王族からの除籍、幽閉を言い渡された。
何故こんなことになってしまったのだろうか。
前作よりかはコメディー感はでたでしょうか?
力不足を感じます。
ジルベール王子は母親の溺愛の元で育ったため、価値観がとても歪み、自分がすべて正しいと思っています。
その為に、過去含めて色々な暴挙にでています。
ちなみにこの母親は、貴族から無理やり宛がわれた側妃になり、ジルベール出産後は後宮に軟禁状態です。
お読み頂きありがとうございます。