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固く目を閉じた赤ずきんの耳に、ドサッと何かが倒れる音が聞こえました。
それは決して彼女自身が倒れた音ではなく、恐る恐る目を開くと―――
先ほどまで赤ずきんを食べようとしていた狼を押さえ込んでいる、血に染まった少年がいたのです。
「レオ……?」
「トワ。無事でよかった 怪我はない?」
赤ずきんを気にかける少年の声はいつもと変わりません。
「ご、ごめんなさい、私、約束だったのに」
「あいつらに聞いたよ。おばあさんのお見舞いに来たんだよね?本当はもっと早く、君を迎えに行くはずだったんだけど、結局こうなっちゃったなぁ…
さぁ、トワ。送っていくから、今日は帰った方がいい。」
そう言って差し伸べられた手を、赤ずきんは咄嗟に振り払っていました。
いつも自分を優しく見つめる橙が、赤ずきんには先ほどの狼と同じ紅色に思えたのです。
「あ、違うの、私、」
「トワ?」
赤ずきんが、狼の自分に怯えている―
彼女が口に出さずとも、少年には分かってしまいます。
ふと脳裏にいつかの言葉が浮かびました。
"お前等?おかしなことを言いますね。俺達、の間違いでしょう?"
「俺は、あいつ等とは」
「違わねぇよ。
結局のところニンゲンから見たらオマエ等なんて皆恐ろしいオオカミなんだよ
分かったか?愚弟」
そこに、柑子色の狩人が現れました。
「今更ここに何をしに来た!」
「別に戻る気なんかねェ
狩人が森に入るのは獣を狩るためだ
襲ってきた奴等を殺るだけじゃ安全にはならないだろォ
ま、来た理由の半分はオマエがもう済ませたみてェだがなァ
最終生存者の安全は確保した」
「村が…襲われた?」
「なんの話だ!」
呆然とする赤ずきんと、激昂する少年。
彼等に狩人は残酷な真実を告げた。
「おかしいと思わなかったのか?
オマエの群はこんなに小さくないだろう」
「っ まさか、」
「狼の大群が村に来た。もうあそこには誰も居ねェ 最高の獲物だったぜ?
群が消えるのも―――そう遠くないだろうな」
「いや…どうして……?」
張り詰めた糸が切れたように気を失った赤ずきんを、少年は見つめる事しか出来ませんでした。




