第2話 Purification・of・DESTINY(Ⅱ)
声が聞こえた? 指輪が……応えてくれた?
『マイ・マスター、どうされましたか?』
────いや、何でもないよ。とにかく力を貸してくれないか? 今は一刻を争うんだ。
『申し訳ありません、マイ・マスター。現在はメンテナンス中でして……』
────メンテナンス中? どういう事?
そこはかとなく不安が襲い来る。嫌な予感しかしないよ、これ。
『ただいまサーバーのメンテナンス中でございまして、一部の機能を停止しております』
────あ、そうなんだ……
終わった。これは詰んだ。指輪の……神器の力が使えないのであればもはや手立てはない。降参。
僕の挙動を見ていたレイアさん達に対して、ただ力無く首を振るしか出来なかった。
「どうしたのよ、アストっち。ルードの指輪は応えてくれたんじゃなかったの?」
「クリスさん……それがサーバーのメンテナンス中だそうで……」
「はぁ? 何よそれ! 神器ってもっとこう……なんつーか、エレメント的なってゆーか、精霊的なモノなんじゃないの?」
「それがどうやら違うみたいですね……」
おそらく『神器』という存在は、僕などには想像もつかない程の科学力や技術力の粋を集めた結晶なのだろう。あのDOOMですら欲してやまなかった物だ。シンさんやフェイなら『神器』について少しは分かるのだろうか?
などと話している内に、二体のSTは聖櫃の搬入作業を終わらせてしまっていた。まぁ、指輪の力を使えなかった時点で僕達にはどうする事も出来なかったんだけど。
「おか……じゃなかった、キャプテン! 今日の仕事は終わりやしたぜっ!」
僕達には銃口を向けたまま鋭い眼光を叩きつけてくるベルカに、既に脱出の手はずを整えていたアルヴィが声を掛ける。
「ああ、分かったよ……って、何でいつもいつも部下のお前らがキャプテンのアタシよりも先に艦に戻ってんだよっ!」
「だって、アタイらはお宝を無事に運ばねぇといけやせんからね」
悪びれる様子を微塵も見せる事無く、アルヴィはにっかりと白い歯を見せながら答える。
「そうやで、せんちょ……やなかった、キャプテン。ウチらはキャプテンのために気張っとんのやでぇ? ちっさい事は大目に見てぇな」
「ボス、グズグズしてないで早く」
「リオッ! お前の言葉は嘘くさいんだよっ! んで、グレイッ! お前は『キャプテン』って言わねぇのかいっ!」
切れ味抜群の鋭いツッコミだ……派手な外見と相まってか、その物言いはしっくりきている。見ていて飽きない……のだが、相手は宇宙海賊。そして、目の前で堂々たる略奪行為が行われているのだ。何としても阻止しなければならない。
ならないのだけど……指輪は今やただの装飾品に成り下がっているし、ソード・ガンは至聖所内への持ち込みが禁止されているためホテルに置いてきたから、海賊達への対抗手段は皆無に等しく、おまけに向こうにはSTまでいるとくればチェックメイトだ。反抗する気力すら起こらない。
「シンさん……どうしましょう?」
頼みの蜘蛛の糸であるシンさんにお伺いを立てるも帰ってくる答えは予想通り……いや、予想以下のものだった。
「どうもこうも無いね。いっそ捕虜にでもなった方がまだマシかも知れないね」
「捕虜って……」
そんな僕達の会話に業を煮やしたのはレイアさんでもクリスさんでもなく、ましてや海賊達でもなく、レビさんだった。
「そんなどうでもいい事を話している暇があるのなら聖櫃を取り戻して下さい! さもなければ、今回の取材を記事にする許可は出せません!」
「ちょ、レビさん!? それとこれとは関係ないんじゃ……」
「いいえ、関係なくはありません! あの聖櫃には重大な秘密が隠されているのです!」
「重大な秘密……? それはあの聖櫃が『神器』だと言うことじゃないのかい?」
僕もそれが重大な秘密だと思っていたが、それ以上の何かがまだあるというのか。もう充分驚いたけどなぁ……
そして目的を果たした海賊達は、ぽっかりと開いた至聖所の壁もそのままに、船に乗りどこかへと飛び立とうとしていた。
「お宝は確かにこの『クイーン・ベルカ海賊団』が頂戴したっ! いや……待てよ。お前達、少しだけ待ってな」
艦のデッキでこちらを嘲笑うかのように仁王立ちしていたベルカは、ワイヤー・ガンを至聖所の中へ打ち込むと、そのワイヤーを伝って再び至聖所の中へと入り込んできた。
「お頭? 何してんスか!」
「船長、忘れモンでもしたんでっか?」
「ボス、早くして下さい」
「お前達……後で覚えてろよ……まあ、それよりも。そこの坊や、アンタのその指輪……『ルードの指輪』って言ってたねぇ? ついでにソイツも戴いていこうかねぇ」
そう言うなりベルカ・テウタは僕に銃口を向けたまま近づいてくる。
「アストッ!」
「おっと、動くんじゃないよ。この坊やの脳天に風穴が開くぜ? ま、それでもいいってんならかかってきな」
左手にもブラスターガンを持っていたベルカは、僕とレイアさん達の両方に銃口を向ける。
「くっ……ベルカ……アンタの狙いは何なの?」
「アタシの狙い? そんなモン、お宝に決まってんだろ。その坊やの指輪もお宝だから貰い受ける……そ・れ・だ・け」
キセルをぷかぷかと吹かし、不敵な笑みを浮かべながら、さも当たり前の事を言う様子のベルカ。だが、その目は少しも笑ってはいない。
「そういう訳だ……坊や、ソイツをよこしな!」