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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第8章 神代継承のフィロソフィー?
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第2話 PLACE・has・NO NAME(Ⅰ)

 フォールド・アウトしてきたもの、それはアンドロメダ銀河役所の宇宙船に他ならなかった。それが証拠に船体には、我らがアイドルであるワンディちゃんの可憐なイラストがペイントされている。


「ほら、アインさん! あれがワンディちゃんですよ!」

「ふむ、なるほどな。だが、我が妹の美しさには及ばんな」


 二次元と三次元を比べられても困るが、それはともかく、アンドロメダ銀河役所が来たという事は光明を得たという事だ。これで助かる。


「アインさん、あの艦にはレイアさん達が乗っているはずです。ミリューさんもきっといますよ!」

「そうか! ならば俺も気を張らねばならんな」


 相変わらずズレたままのベクトルを修正する事無く、我が道を突き進むアインさんの事はこの際放っておこう。

 ミリューさん達がいるのならレイアさんもいるのだろう、そう思うと何故か胸が高鳴る。

 もう何日も会っていない感じだが、実際には二日と経っていない。そう思うほどに、この惑星に来てから密度の濃い時間を過ごした。そしてそれは、ほんの少しだけ僕を成長させてくれた時間だったかもしれない。

 そんな感傷に浸りながら空を見上げたが、二頭のドラゴンが放つ火球をくぐり抜けながらビーム砲を撃ち放つ四機のSTの姿を見つけた途端に現実へと引き戻される。

 そう────感傷などに浸っている場合では無かった。


「いかにお前達人間が死力を尽くそうが、我らドラゴン族を凌駕する力を得る事は無い。あ奴らの足止めすら出来なかったフェイには心底失望したが、人間の限界などその程度と言う事が解っただけでも良しとしよう」


 あれだけの力を持つフェイが倒れたとはにわかには考えにくい事だが、アンドロメダ銀河役所の艦がここに来たという事はそういう事なのだろう。フェイという脅威を退けた事には安堵するが、まだそれ以上の脅威がここにいるのだから気を緩める事は出来ない。この脅威を打ち払うためには何としても彼らの協力を得る事が必要なのだが、事はそう簡単に運ぶものではないと思いつつ、僕はグレイさんに耳打ちをする。


「どうにかしてあの宇宙船へと接舷せつげんして貰えませんか?」

「海賊船を役所の船に接舷けろってのか? バカを言うな。撃ち落としても構わないって言うなら話は別だが」


 追う者と追われる者の立場である両者が接触するなどあり得ない事だろう。しかし、それを可能とする秘策カードを僕は持っている。一か八かの切りジョーカーでもあるが。


「僕とアインさんをあの船に移してくれればいいんです。人質を引き渡す、という事で」

「……その交換条件としてアタシらを見逃す、という事か」

「はい」

「上手くいくのか?」

「やってみせます」


 やるしかない。だが、その前に……

 グレイさんが伸ばした視線の先、船首に陣取る人物は不敵な笑みを浮かべるでもなく、ただただこちらをじっと見据えていた。それは侮蔑とも憐みともとれる、なんとも形容のし難い眼差しだった。


「人類がドラゴン族に敵わないなんて事は百も承知です。だけど、それでも、僕らはそこに僅かでも可能性があるなら賭けてみたいんです!」

「それがお前達の可能性を潰えているのだがな。己の首を己自身で絞めている事に気付かぬうちは先へは進めぬ」

「それでも僕達は前に進んで行かなくちゃならないんです! 神器よ!」


 時の流れを止めたところでどうなるものでもないかもしれない。時間を稼げるならそれはそれで儲けものだったが、この空間で僕の神器の影響を受けない物が何なのか、それを知る事が僕の狙いだった。

 神器を持つ者が神器の力に左右される事は無い。これは僕の想像でしかないのだけど、おそらくドラゴン族は神器の守護者になる事が出来ないのではないだろうか。パイやレビさんは神器を護る立場にあるという事は、つまり、ドラゴン族は神器を『守護』する立場であり、神器を『支配』する事は何らかの理由により出来ないのではないだろうか。

ええい、考えるのは後だ! 僕はルードの指輪へと意識を飛ばす。


────お呼びですか、マスター


「慣れたつもりでも慣れないものだね、これは。それはそうと、少しの間でいいから時間を止めてくれないかな?」


────それは構いませんが、その程度の事はわざわざ私めを呼ばずともマスターのご意思で自由に出来ますよ


「あ、そうなんだ。これからはそうするよ」


────かしこまりました


 ルードの指輪が眩いばかりの光を放つと、辺りは静寂の世界へと変貌を遂げた。僕の予想通り、ブラフマンと思しき男は微動だにする事も無く、上空のドラゴンやST達も静止画の如く動きを止めていた。辺りを見回してみても、僕以外に行動が可能である人物は、神器の所有者であるベルカさんのクローンであるグレイさんだけであった。


「時を止めている間にお前たちを向こうの艦に移送するか……なるほどな。しかし、それならアタシ達が逃げ切る間ずっと時を止めていればいいじゃないか」


 それもそうだと思ったが、事はそう上手くいくものではなく、アンドロメダ銀河役所の艦もこの空間で行動可能な存在である事が確認され、グレイさんは深い溜息を吐いた。

 程無くして通信が入る。声の主はリック課長だった。


「この状況を見てもしやと思ったが、やはりそこにいるのはアスト君か」

「……はい、ご無沙汰してます。この中で動けるという事はリックさんも神器を……?」

「そういう事になるな。それについてはいずれ話すとして、そこにいるのは君だけではあるまい」


 全銀河に指名手配されている宇宙海賊を捉える絶好のチャンスを得た彼らからすれば、この機会を逃す手は無いだろう。僕からすれば大きなチャンスをふいにした形なのだが、それでも当初の予定に変更は無い。


「ベルカ・テウタをこちらに引き渡して貰おうか」

「残念ながらここにベルカさんはいません。とは言え、僕がベルカさん達の人質である事に変わりはありません。僕が彼女達を説得して人質交換という形に持って行きますので、その交換条件として彼女達をこの場から見逃すという事は出来ませんか?」

「君は自分が何を言っているか分かっているのか?」


 そう言われる事は想定していた。


「もちろん理解しているつもりです。しかし、今この場に限って言うならば、彼女達の力を借りるという方法も考慮する余地はあるのではないでしょうか?」


 通信の向こうでリック課長が唸る。


「しかし我々にも任務と言うものが……」

「それは分かります。ですが、今優先すべき事はその任務とは別にあるのではないでしょうか?」


 もうひと押しかもしれない。交渉術に長けているわけではないが、決定的な切り札はやはり最後まで取っておくに越したことは無い。


「ここにベルカさんは居ませんが、代わりに……というのも変な話ですけど、ブラフマンがいます。時を止めたこの状態なら彼を引き渡す事は容易だと思うのですが……」

「ブラフマンだと!? その名を名乗る者がまだ居たのか!」


 様相は一変する。どうやら彼らにとってブラフマンを名乗る者は最重要人物の一人に数えられる者であるようだ。

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