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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第7章 注文使用(カスタムメイド)のマイライフ?
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第2話 Stray・VANGUARD・ASTRAY(Ⅰ)

 第五の至聖所を後にした僕達は、ボナンザさんの見送りを受けてベルカさんの後を追うべく至聖宮へと向かっていた。

 早くベルカさんを止めないと────

 おそらくベルカさんは至聖宮、いや、この惑星を破壊しようとしている。その理由はまだぼんやりとしか分からないが、それをベルカさんにさせるわけにはいかない事だけはハッキリとしている。しかし、それは徒労に終わる。

 至聖宮へとたどり着いた僕達は辺りの惨状に愕然とした。


「チッ……遅かったか」


 ケイさんは苦々しく吐き捨てるように呟く。僕とリオさんはその光景に言葉を失い、アルヴィさんは膝を折り甲板(デッキ)に拳を何度も叩きつけた。しかし、グレイさんだけは焦土と化した大地を眺めながらも次に何をすべきかを思案しているようだった。


「アルヴィ、リオ。STはいつでも出せる」

「あ? てめぇ何言ってやが……」

「ボスを止められるのはアタシら以外にいない」


 アンドロイドだからだろうか、グレイさんは至って冷静だ。と言うか冷静すぎるくらいだ。ジェフさんも冷静な方ではあるけれど、それは重ねてきた年齢から得た経験だと思うし、もう少し感情豊かな気がする。黒い肌に良く生えた白い歯がその証拠だし、思い出しただけで暑苦しい。

 グレイさんが発したその一言は二人を発奮させるには充分だったのだろう。互いの顔を見合わせ軽く頷いた二人は格納庫へと駆け出して行った。


「お前は行かねぇのか?」

「アタシ達はボスからこの艦を預かっている。二人が出るならアタシが残る、何か問題があるか?」

「ん……いや。確かにそれは道理だな。しかし、それだけが理由じゃねぇンだろ?」


 操舵室へ向かおうとしていたグレイさんだったが、ケイさんのその一言に足を止めて一瞥(いちべつ)を向ける。グレイさんのその鋭い眼差しはまるでベルカさんのそれを想起させる。


「貴様、何を知った?」

「知った、と言うよりは、これまで得た情報を組み合わせて答えを導き出したって言う方が正しいかもな」


 微動だにしないグレイさんと向き合ったケイさんは、左右に首を傾けて身体の緊張をほぐし話を続けた。


「この(アルテミシア)は神器だ。そして、神器の活動を維持させるためには神器に選ばれた守護者がいて初めて可能となる。アルテミシアの艦長、つまり神器の守護者はベルカだ。だが、ここにベルカはいねぇ。にもかかわらずコイツが飛び続けているのはおかしくねぇか?」


 僕もそこは気になっていたけれど、そういう特性を持った神器なんだと勝手に解釈していた。その答えをケイさんは導き出したと言ったが……


「結論から言うと、お前はただのアンドロイドなんかじゃ()ぇ。お前は……ベルカ・テウタの遺伝子を持ったクローン・アンドロイドだ。違うか?」


 グレイさんは表情を変えず、ただじっとケイさんを見据えていた。そして、微かに口元を歪ませ、視線を艦の外へとやる。丁度、真紅のSTと緑青色(ろくしょういろ)のSTの二機が航跡の煙を上げて至聖宮へと飛び立って行ったところだった。


「あの、ケイさん……クローンで、しかもアンドロイドってどういう事ですか?」

「通常のクローンってヤツはホムンクルスである事がほとんどだ。対してアンドロイドってヤツは基本的に人間を模した機械だ。だが、そこに人間の遺伝子を組み込む事によって、その遺伝子の持ち主のコピーを生み出す事が可能となる。それがクローン・アンドロイドだ」

「なるほど……って、ちょっと待って下さい。アンドロイドって元は人間じゃないんですか?」


 ジェフさんは確かにその身体のほとんどが機械だとは言え、元は人間だった。いや、その心は人間のままなのだ。しかし、ケイさんの言い分だと、まるでアンドロイドとロボットが同じものだと定義付けている。

 この世界ではアンドロイドとロボットは全く別の存在なのだが、もしかしたら並行世界では同一の存在だと定義付けられているのかもしれない。

 だとしたらジェフさんは一体……


「はぁ? お前、何言ってやがる。人間が機械の身体を手に入れたら、それは『サイボーグ』だろうが」

「サイ……ボー……グ……?」

「おいおい、ジャーナリストのクセにサイボーグも知らねぇのかよ」


 それは初めて耳にする言葉だった。

 やはりこの世界と並行世界とは同じようで違う。科学力、技術力、政治力、ありとあらゆるものがこの世界とは微妙に異なるのだ。




 知りたい。




 ふと僕はそう思ってしまった。それは誰かに感化されたからではなく、僕自身の心からの本意だった。

 それだけの力を手にした人類が何を成すのか、それを知りたくなった。


「まぁ、んなこたァ今はいい。至聖宮はとんでもねェ事になってるみてぇだしよ」


 瓦礫の山を積み上げている至聖宮に目をやると、黄金のSTが二体の巨大なドラゴンと睨み合っていた。相手が相手だけに一対一でも厳しい状況だと言うに、二対一のこの状況では不利どころか絶体絶命である事は明白だった。だが間一髪、そこへ真紅と緑青色のSTが颯爽と救援に駆けつけたのだった。


「お頭ァ! やっと追いつきましたぜぇ!」

「せんちょぉ、ホンマ後生やで。こないな事になる前に、なんでウチらに言うてくれへんのやの!」


 はたしてその声はベルカさんへと届いたのだろうか。巨大な砲身のランチャー・バズーカを携えた黄金のSTは、二体のドラゴンをその照準に捉えたまま宙に佇んでいた。

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