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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第7章 注文使用(カスタムメイド)のマイライフ?
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第1話 Orbital・LAGRANGE・POINT(Ⅲ)

 アタシの決意表明も虚しくどこぞかへと流れる風に乗せて吹き飛ばすかのように、フェイの背後に暗い渦が巻き起こる。

 瞬間、背筋が凍りつく。


「ゲート……だと?」


 絞り出すようにブライアンが呟く。DOOM亡き今、シンは別としてフェイ以外の誰がゲートを発現させる事が出来るというのか。


「僕がなんの用意もなく君たちの前に立つわけがないじゃないか。切り札って言うのは最後まで取っておくものでしょ?」


 確かにその通りだ。激しく同意する。

 切り札を切るという事はつまり、アタシ達をここで始末するという事だろう。それだけのカード────DOOM以上の何かが来る。


「おねーさん、ここは逃げた方がいいと思うよ……」


 少年・少女バージョンのパイちゃんとレビがアタシ達の前に立ち、両手で印を結ぶ。


「いやいや、パイちゃん達こそ危険よ! 逃げるなら一緒に逃げないと。何が出てくるか分かったもんじゃないわよ!?」

「大丈夫です。いえ、大丈夫ではないのですが、誰が来るのかは分かっていますから」


 レビもパイちゃんと同じように両手で複雑な動作を繰り返している。ドラゴン族に伝わる秘術か何かだろう。


「「九龍障壁(ファンロン・ピンイン)」」


 二人が声を揃えた瞬間、アタシ達の目の前に淡く黄色い光を放つ透明な膜のようなものが現れた。言うなれば光の壁だろう。


「パイちゃん、これは……?」

「一時凌ぎにはなると思うけど、そんなに長くはもたないから」

「来ます!」

「レビ、誰が来るってワケ?」

「───最悪の敵です」


 そして悪夢を引き連れたゲートが開かれ、大丈夫ではない最悪の敵がやってくる。足音も立てず、ただ───静寂だけを引き連れて。




 永劫なる無音。

 深淵なる静寂。

 そこにあるのはただの無なのか、はたまた虚無の果てか。

 開かれたゲートから現れた『彼』の瞳に宿る色にアタシはそんな思いを抱いた。詩人の才能を思わぬ形で開花させてしまったが、ゲートの中の色と彼の瞳の色があまりにも深く、どす黒く、綺麗なものだったからそう思わずにはいられなかったのかもしれない。

 レビが言った通り、フェイとはまた違った危険を孕んでいる事は一目で窺える。灰色の髪は何物にも染まらぬとでも言わんばかりの異彩を放つ。年の頃は二十歳前後と言ったところだろうが、レビ達が彼を知っているという事はおそらくはドラゴン族だろう。


「ねぇ、レビ。あいつは一体何者なワケ?」

「───彼こそがドラゴン族の現頭首であり、ハクの兄である……ルキフ・ロフォです」

「あいつが……」


 どこかで予想していたとはいえ、あまりにも最悪過ぎる。フェイだけでも厄介だというのに『噂の彼』までおいでなさるとはね。


「課長、どうします!?」

「これはちょっとヤバくないっすか?」


 お役所チームの方も平静を保てない状況かと思いきや、ただ一人リックだけは冷静にこの場をやり過ごす手立てを考慮していたようだ。


「慌てるな。我々の目的は唯一つ。心を乱していては任務を遂行する事など出来はしない」


 さすがはアンドロメダ銀河役所銀河民安全課の課長、一言で乱れかけた士気を元に戻す統率力の高さである。一課のボスとはこうあるべきよね。モテるオヤジって感じだわ。それに引き換えウチのオヤジときたら……いや、今はそんな事を考えている余裕はない。

 ルキフ・ロフォは、パイちゃんを一瞥(いちべつ)してからアタシ達を見廻すと、静かに目を閉じ溜息を吐く。


「フェイよ、こんな益体(やくたい)もない座興に我を呼ぶな。時を浪費するだけだ」

「まあ、そう言わないでよ。彼女達はなかなかに優秀なサンプルだと思ったから、ぜひ君に見てもらいたかったんだよ」

「お前は遊びが過ぎる。そう言ってDOOMも壊してしまったではないか」

「そのDOOMを壊す原因を作ったのは彼女達だよ?」

「ほう……?」


 ルキフ・ロフォが再びこちらに視線を向けてくるが、明らかに先程とは違う意思を感じる。しかし、それは悪意や殺意と言ったものではなく、単に興味の対象に過ぎないのだろう。こんな形で殿方の興味を引くのはアタシの本意ではないという事だけは言っておく。

 微かな星明かりの下、至聖所を照らし出すためのサーチライトだけが頼りの中、パイちゃんをじっと睨みつけるルキフ・ロフォは|神々しくもあり、|禍々しくも映った。


「我が弟よ。お前が我の前に立つ日が来る事は分かっていた。だが、お前がその『ニンゲン』と呼ばれる愚物に肩入れする理由とは何だ?」


 類は友を呼ぶ、とはよく言ったものである。いくらドラゴン族の長だとしても、これだけ尊大不遜な態度では誰も彼について行こうとは思わないだろう。パイちゃんやレビが彼に反発するのも頷ける話だ。

 フェイに勝るとも劣らぬ不遜な態度、本来ならば人類を導くべき存在であるにもかかわらず、その人類を蔑ろにする言動には辟易する。やはり、ドラゴン族の長はパイちゃんやレビであるべきだ。なんと言っても可愛いし。可愛いは正義なのだ。


「兄ちゃん……いや、ルキフ。お前はなんでフェイなんかと一緒にいるんだ?」

「ならば何故お前はその愚物と共に有る? 選ぶべき者も解らぬお前では、我の意図なぞ理解しうるべくも無い」

「ルキフ、あなたは間違っています! 貴方こそご自分の立場を理解なさっておられるのですか!? 貴方は我々ドラゴン族を……ひいては人類を導く立場にある者。それなのに何故我らを裏切ったのですか!?」


 二人の問い掛けに応じる気配は無く、ルキフ・ロフォはすっと右の掌を天にかざす。上空から蒼白い閃光がその掌目掛けて走ると、彼の手には一振りの杖が握られていた。

 有無を言わさずルキフ・ロフォが杖を振るうと、辺りから(おびただ)しい数のホムンクルスが現れた。


「なんという事だ……ルミ、今すぐエミリーに連絡を入れろ!」

「了解しました!」

「課長、これじゃあキリがありませんよ!」


 ホムンクルスの大軍に向けてブラスター・ガンを撃ち続けるが、数で圧倒されているこの状況は好ましくない。お役所のエリート様達でもどうこう出来る物でも無く、パイちゃんとレビの光の盾の効力もそろそろ限界だろう。

 そこに追い打ちをかけるかのようにフェイが詠唱を唱える。あれはおそらくロキでカイルとやりあった時に放った精霊の力か、いや、もっとヤバいヤツか。


「僕が操れるのは風だけじゃないよ? 炎も水も大地も闇も……光もね」


 フェイの両手が光り輝き、その光は弓矢の形状を成した。


「君達は優秀サンプルなんだから、これくらいは余裕で避けてくれるよねぇ? アハハハハ!」


 やられる────

 したくもない覚悟を決める時期が来たかと思ったその時だった。

 フェイが放つ蒼い光の矢の群れが一直線にアタシ達目掛けて襲い来る瞬間、目の前に『何か』が立ち塞がった。


「間一髪セーフでしたね~」


 耳に馴染ませたくもない間延びした声。別任務とはこの事だったか。課長さん、いい仕事してくれるわね。

 STに乗り込んだドラスティック・ガールは、その身を盾にしてアタシ達を護ると、すかさず反撃体制に移る。


「エミリー・エンデバー、ヘリオス、いっきまーす!」

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