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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第1章 至聖所良いとこ一度はおいで?
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第1話 Arc NO MAD(Ⅲ)

 至聖所の管理責任者、レビは小さな体を微かに震わせながらもアタシの顔をキッと睨む。アタシが言った事じゃないのに睨まれるってなんだか理不尽だわ……


「何故貴女が永久心臓の事をご存知なのですか?」

「何故って言われても、アタシ達もある筋から得た情報だとしか言いようが無いわね。以前もそのネタを追っていたのだけど、結局分からずじまいだったし……つーか、永久心臓の事、ご存知なのね?」


 永久心臓の事を知っている、という事はもしかして……?


「ねえ、レビさん? 貴女、もしかして神器の事もご存知なんじゃない?」


 既にジャーナリストモードを解除しているアタシの口調はいつも通りになっていた。そんなアタシを見てアスト達はハラハラしているのだろうが、まぁ、例によって知ったこっちゃない。アタシはアタシの好奇心を満たすのみ。まだ知らない事があるのならば、それを知るまでだ。


「神器の事まで……そうですか。分かりました、私が知りうる範囲でよろしければ、貴女方が知りたい事をお教え致します」


 よっしゃ、言質取った! では早速……


「ボク達は以前の取材で神器の存在を初めて知ったのだが、そもそもその神器と呼ばれる存在は一体どういう物なのか、それをご存知ならば教えて頂きたいのだが……」


 何故アンタが言うかね、瓶底メガネ?


「ここにいるアスト・モリサキは神器の支配者なんですけれど、神器の支配者とは一体何なのか……知っているならぜひ教えて欲しいわ」

「神器の支配者になる事が何を意味するのか……僕はそれが知りたいです」


 アンタ達までっ!? でも、皆の言う事は概ねアタシが聞きたい事だったので一石二鳥といえばそれまでだけれど……何だか悔しい。

 ジャーナリストの言葉の波状攻撃の前に、あれだけの威圧感を放っていたとはいえ、やはり年端もいかない少女だ。幼い管理責任者は目を白黒させ、しどろもどろになりながらも声を絞り出すように話し出す。


「は、は……い。わ、分かりましたから、その、一つずつお答えしますので。と、言うより、皆様のお聞きになりたい事は一つだけのようですね」


 レビの言う事に全員が顔を見合わせ頷く。

 確かにそう。アタシ達が知りたい事は神器とは何なのか、その一点だ。もちろん、永久心臓の事も知りたいのだが、それを解明するためにはまず神器が何たるかを知る必要がある。


「そう、ね。結局アタシ達が知りたい事は一つだけのようね。ごめんなさい、レビさん。改めてまとめて言うと『神器とは何か』と言う事ね」


 レビは何事かを考えた後、アタシ達の顔を見廻し独り言のように語り出す。


「私達は神器の支配者を導く者。確かに貴方は神器の支配者ですね。ルードの指輪……と言う事は彼に選ばれたのですか!? 信じられない……」


 レビの言う彼とはやはりあの子の事に他ならないだろう。遠く離れた惑星に住んでいるのだから接点などあるはずも無いのだが、ルードの指輪というキーワードから思い浮かべる人物――いや、正確には人物では無いが――は、アストとミリュー以外ではあの子しか該当者はいない。


「ねえ、レビさん。その彼とはパイちゃんの事かしら?」


 レビの顔色を窺うが、その表情に変化は見られない。


「パイ……ちゃん?」


 ありゃ? 何かマズったかしら? でもパイちゃんは神器の支配者を育て導くという使命を担っていたハズ。レビもまた神器の支配者を導く存在だと言うならば、パイちゃんの事を知っていてもおかしくはないし、事実『彼』と言っていた。


「先程仰った『彼』も神器の支配者を導く者なのですよね? アタシ達が出会ったその『彼』はホワイト・ドラゴンでしたが……」

「確かにその『リング・オブ・ルード』はホワイト・ドラゴンが先導師の使命を担っていますが……パイと言う名前では無かった筈……いえ、彼がそう名乗ったのならそうなのでしょう。私達は『神器の先導師』という使命を担っています。神器とは本来、人類を導く者を選定するためのシステムでした」


 ホワイト・ドラゴン族が神器の先導師だという事は……


「もしかしてレビさん……貴女もホワイト・ドラゴンなのかしら?」


 はっと目を見開いたレビはアタシ達の顔を再び見廻すと、やがて観念したかのように語り出す。


「貴女の仰る通り、私はドラゴン族です。今は訳あってこの通り人間の姿ですが。私が先導師の使命を担う神器は少々特殊でして、おそらく神器の支配者は現れないかと思われ……」


 その言葉を遮り、勢いよく開け放たれた扉から声が響き渡る。


「神器ってェのはここにあんのかい?」

「大人しく渡せば命までは取らねぇぜ?」


 振り返るとそこには、ドクロのマークをあしらったつばの大きな帽子を被り、真っ黒なミニスカート、迷彩柄のチューブトップ(どこに売ってんだ?)、真っ黒なロングコートを袖も通さず両肩に掛け、キセルを(くわ)えたまま仁王立ちしているパンキッシュピンクのロングヘアをなびかせた女と、その横には赤いバンダナを目元まで隠す様に巻き、スカイブルーのロングタンクトップに黒いロングキュロットパンツという何とも言えないファッションセンスをお持ちでいらっしゃる銀髪ショートヘアの女が付き従っていた。

 キセルを銜えた女の顔には見覚えがある。今、巷を賑わせている女ばかりで構成された宇宙海賊『クイーン・ベルカ海賊団』の頭目、ベルカ・テウタその人だ。

 確か主要メンバーはベルカを含め4人いたハズ。アルヴィ・リード、リオ・テイラー、グレイ・ボニータ……一度だけ手配書を見た事があるが、あのバンダナ女は確かアルヴィ・リード……だったか。


「な、何ですか貴女達は? ここを何処だと心得ますかっ! 神聖なる場でそのような立ち居振舞いはお控えなさいっ!」


 レビが2人の前へと歩みだし一喝するが、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたであろう女海賊は涼しい顔のまま受け流す。威圧されたアタシ達とは踏んできた場数が違うという事か……


「同じ事を何度も言わせるんじゃないよ……さっきアルヴィが言ったろ。大人しくしてりゃ命までは取りゃしないさ。だから……神器ってェ奴をよこしなっ!」


 ベルカの研ぎ澄まされた鋭い眼光のひと睨みは、アタシ達だけでなく至聖所の管理責任者をも凍りつかせた。

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