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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第6章 拡散希望のデストルドー?
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第1話 NORULE・MYRULE・whodunit(Ⅳ)

 アストの背後から突如として姿を現した男……ケイがアストの肩に手を置き前に立つ。


「ん、とぉ……何だ、アイツはいねぇのか。ま、いっか。よぉ、シン。久しぶりだな」


 なんだこの軽いノリのチャラ優男(やさおとこ)は。アタシの苦手なタイプだわ。つーか、前髪うっざ。

 名指しでご指名を受けたシンも負けじと軽口を叩く。


「久しぶりだね、ケイ。君なら生きていると思っていたよ。ウチのアスト君の面倒を見てくれていたみたいだね」

「相変わらず食えねぇヤツだな、お(めぇ)は。俺の事をそこまで信じるようなタマじゃねぇだろうが」


 ケイの登場にケイトとタケルはやはり気が気でないのか言葉を失ったまま立ち尽くしている。それも無理のない話なのかも知れないが、もう少し再開の喜び的なものがあってもいいと思うんだけどなぁ。そして画面の向こう側では何故かアストの動きがぎこちなかった。


「ケ、ケイさん! いつからそこに居たんですか!?」

「ん? お(めぇ)がシンの事を信じられねぇとか何とか言ってたトコくれぇかな?」


 その言葉を信じるならつい先程の話だが、どうにも怪しくあっさりと信用するのは危険な気がする。こういう男は迂闊に信用しないって決めてんのよね、アタシ。


「それはそうと、少し違うっていうのはどういう事ですか?」

「シン……そろそろ本当の事を話したらどうだ? お(めぇ)の事だ、まぁた適当に話をはぐらかしてきてんだろ」

「何よそれ? 本当の事って何よシン! ワタシにまだ隠し事があるってワケ? いい加減怒るわよ?」


 アストだけでなくクリスも我慢の限界か。確かに散々焦らされてきた感がある事は否めないが、シンにもそうしなければならない事情があった事に薄々感づいていたアタシはどちらの援護に回ればいいのか分からずにいた。

 両者の言い分は痛い程分かる。この難局を打開する方法はただ一つしかない。


「お互いが疑心暗鬼になってるこの状況を打破する方法が一つだけあるわ。それは、腹の中をぜーんぶぶちまける事。言いたい事、聞きたい事、腐る程あるんでしょ? なら、全部言っちゃいなさいよ。スッキリするわよぉ?」

「レイアさん、そんな酔っ払い相手に言う感じで言わないで下さいよ」


 すかさずアストに突っ込まれてしまった。さすがアタシの相方、じゃなかった、相棒よね。しかし、何故かアストの隣に立つケイの表情が一変して険しくなった事を見逃すアタシではなく、それは向こうも同じだったようだ。


「アンタがレイア・ルシールか。こんなイイ女が本当にあんなとんでもねぇ事をやったとは信じられねぇが……事実は事実。俺はアンタを絶対に許さねぇ」


 褒めるか(けな)すかどっちかにしてくれないとリアクション取りづらいわね。つーか、いきなり何よ? 出会ってソッコー喧嘩売られるとは思ってもみなかったけど。


「ちょ、ちょっとケイさん! あの話なら止めて下さいよ。僕はあの話は絶対に信じませんからね!」


 更にはこのアタシに隠し事? アタシの知らない事をアストが知っているってのは許せないわね。


「あの話がどの話かは知らないけどさぁ……アンタ達もシンも腹に一物持ち過ぎじゃない? 男が隠し事するなんてみっともないと思わないの?」

「そうそう、今度呑みながらトコトン語り合わなきゃね」


 クリスを筆頭にルミやレビにケイト、そしてミリューに何故かタケルまでもがアタシの声に賛同してくれた。まぁ、もっともクリスはただお酒を呑みたいだけだろうけど。でも、同性の支持を得る事が出来るって想像以上に快感だわ。なんだか新しい自分に目覚めちゃいそう……


「確かにアンタの言う通りだ。俺もシンもアストもはらわたン中までブチまけにゃあなるめぇ。俺達ゃ、フェイやDOOMやブラフマンとは違うって事をアンタ達に証明しなきゃなんねぇからな」

「ブラフマン?」

「っと、やべぇ、コイツは機密事項だったっけ。どうやらアンタに上手く担がされちまったみてぇだな。ま、とにかくここはお互いの為にもキッチリと白黒つけなきゃあな」


 一本取られたとでも言わんばかりの大袈裟なジェスチャーを見せたケイは、全てを話すためにアタシ達と合流する場所を提示し一方的に通信を切ってしまった。間際のアストの慌て顔を見る限りケイの独断なのだろうが、どうやらシン以上に食えない男なのかも知れない。ブラフマンの事もわざと口を滑らせてみせたに違いない。やはり簡単に信用するのは危険だ。つーか、アストも厄介なヤツに目を付けられっぱなしよね。ざまぁ……とか言うとまた誰かに何かを言われそう。

 もう一人の食えないヤツを横目で見ていると、ミリューがそっと近寄って来る。


「アストさんは立派なジャーナリストでいらっしゃいますよ」


 アタシの心を見透かすかのようにアストを擁護するミリューの隣では、ガングロ金髪シェフが綺麗な真っ白い歯を一際輝かせながら頷いている。うーん、ナイススマイル。


「レイア様にとってアスト様はどのような存在なのでしょう。私見ではありますが、アスト様はレイア様の事を心の底から信頼しているように見受けました」

「そりゃあ、アタシだってアストの事は相棒として信頼しているわよ? まだまだ危なっかしいとは思うけど」

「良い事だと思いますよ」


 そう言って細い目を更に細めるジェフのスマイルに若干の違和感を覚えたが、取り敢えず当面の目的を果たすために思考を巡らそう。

 第五の至聖所でアスト達と合流する手筈だが、そこにはベルカ以外の海賊達に加えてあの得体の知れないケイという男の相手までしなければならないのはちょびしんどいかも。

 更にはシンとアストの問題もある。事情が複雑だけど、男なんだから一発殴り合って解決出来ないものかしらねぇ。

 男って女よりも面倒くさいかも。




「ところで課長サン。ベルカとフェイの捕縛とか何とか言ってたけど、ベルカを捕まえた後ってやっぱフェイを追うのよね? フェイの居場所とか知ってんの?」


 どんなに些細な事でも疑問を持ったら問い質してしまうのは、ジャーナリストとしての本懐なのかアタシの性分なのか……

 そんなアタシの不躾にもリックはキチンと丁寧に答えてくれる。けど、おそらく操縦室に居るポールがここに居たらすっげぇ勢いでアタシの事を口撃してくるのだろう。ヤツがこの場に居なくて良かった……


「実のところ、それはまだ……しかし、フェイに繋がる人物がこの惑星に居るとの情報は得ております」

「その人物とはもしかして……?」

「ええ。先程の会話にも出てきた『ブラフマン』と名乗る人物がフェイと行動を共にしているらしいのです。我々としては是が非にでもブラフマンを捕らえ、一気にJ・D・Uを壊滅へと追い込めれば、と思っております」

「そう上手く事が運ぶとは思えないけど……アタシ達も出来る限りの手は尽くすわ」


 J・D・Uが何を仕掛けてくるのか分からない以上、こちらから先手を打たせて貰う。

 これまでの出来事を纏め上げ、ロイス・ジャーナルの号外として公表すれば奴らだって黙ってはいられない筈だ。アタシ達はジャーナリスト、今こそペンは剣より何倍も強いって事を知らしめてやろう。


「シン、ネット上に『この』記事をアップして! 編集長には後でアタシから話を付けるから!」

「プロパガンダにでも使うつもりかい?」

「アタシにそんな政治的野心は無いわよ。そういうのはどっかのエラい人に任せるわ。んで、アタシ達に飯の種を提供してくれればそんで良し」

「人としてどうかと思うけどね、その考え方は」

「ある意味ジャーナリストは天職でしょ?」

「まあね。じゃあ一枚噛ませて貰おうか。クリス、異論は無いね?」

「異論も何も、ワタシ達は一蓮托生でしょ? 仕事となれば話は別、アンタを信じてあげるわ」


 フェイ、ブラフマン、L・R、果たして誰が今回の黒幕なのか。ま、誰だろうがアタシの知ったこっちゃないし、誰が相手でもアタシはジャーナリストとしての本分を全うするのみだ。

 アタシの進む道はアタシが決めるし、そこに道が無いなら作るまで。それは誰のためでもなく自分のため。

 そう。

 今はただ自分のためにこの道を歩く。

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