第1話 NORULE・MYRULE・whodunit(Ⅲ)
第二の至聖所を破壊したベルカ・テウタは今どこを……いや、何を目指しているのだろうか。彼女の目的とは一体何なのだろう。
「僕達は今、第五の至聖所へと向かっています。おそらくベルカさんはそこを破壊するつもりです」
「第五? 何でそんな事まで分かるワケ?」
クリスの疑問はここに居る全員の疑問でもあり、アタシやリックはおろかシンでさえもそれは分からない。それをアストが知っているという事がとてつもなく悔しいのだが、地の利は向こうにあるという事か。
「第二の至聖所はクローンが管理していた、そうですよね、レビさん?」
クローンが管理していた? 至聖所の管理はドラゴン族が行っている筈だけど、アストはどんなネタを掴んだのだろうか。
アストの指名に応える形でレビとパイちゃんがプロジェクターの前に立つ。
「え? なんでパイがそこに居るんだよ?」
「いちゃ悪いのかよ」
「いや、悪くは無いけど……お前がそこに居るなんて思わなかったし、ちょっと驚いたって言うか……」
「へへー、ビックリしただろー!」
モニター越しとは言え、久しぶりに会った二人はまるで数年来の親友のようにも見えた。
なんだか少し妬けるなぁ。
「取り敢えずパイはいいからレビさんを呼んでくれないか。至聖所の管理者に聞いておきたい事があるんだ」
パイちゃんには申し訳ないがここは退席を願い、レビから話を聞き出そうとしているアストの策に乗っかってやろう。なんて空気読める先輩なのかしら、アタシって。
「パイちゃん、ごめんね。ここはアストに花を持たせて貰えないかな? レビが答えにくそうな感じだったら改めてパイちゃんにお願いするわ」
「んにゅー……おねーさんにそう言われちゃったらしょうがないなぁ……貸しイチね」
「りょーかい」
この貸しはアストにつけとこう。
若干緊張した面持ちのレビを促すと、覚悟を決めた彼女がプロジェクターの前に立つ。彼女を気遣うようにパイちゃんも人間の姿になるとレビの僅か後方に立ち並んだ。
ほわほわしたピンク色の髪と艶やかな白い髪をわしゃわしゃと撫でくり回したくなる衝動に駆られたが、ここはぐっと我慢……と言う前にクリスに咎められてしまった。
「アンタはここで大人しくしてなさい」
「へーい……」
画面の向こうでいつになく真剣な表情を見せているアストがレビに話し掛ける。なかなか良い面構えをするようになったわね。
「クローン技術が何故この惑星にあるんですか? 本来ドラゴン族が管理すべき至聖所をクローンが管理するなんておかしな話です。そして……クローン技術と言えばどうしたってJ・D・Uの名は出てきます。この惑星はJ・D・Uに支配されているそうですね?」
アストの話はアタシ達が得た情報の更に上を行くものだった。レビはもちろんの事だが、パイちゃんもアストの問いに返答する事が出来ずにいる事実が全てを物語っている。そして、追い討ちをかけるようにアストの言葉が続く。が、アストの狙いは別にあったようだ。
「答えにくかったらシンさん、代わりに答えて頂けますか。知ってるんですよね?」
何故シンにそんな事を聞くのだろう。アストが『あの事』を知っているはずが無いのだが……
「シンさん……パルティクラールとは一体何なんですか? 何故、惑星ロキで研究されていたクローン技術がこの惑星ヤハウェに存在してるんですか? 何故……何故シンさんがクローンなんですか!」
悲鳴にも似たその声はこの場に居る全員の魂にまで響き渡ったに違いない。
ここに居る誰よりもシンを信頼し、本当の兄弟のように接していたアストだからこそ言える事なのだろう。職場の上司でありながら共通の趣味を分かち合う同士の秘密を知る事にそれ程の精神的ダメージがあるとは思えないが、今回のケースに限ってはそれは当てはまらないのかも知れない。
「アスト君……それをどこで?」
「フリーカメラマンのケイという人から聞きました」
「「ケイ!?」」
真っ先に反応を示したのはやはり双子だった。ケイトに至っては信じられないといった素振りで口元を両手で覆いながら首を横に振る。確かに彼等はケイとかいう人物は生きていると言い張ってはいたものの、実際には彼の生存は確認されていなかった。
居てもたってもいられないケイトが画面の向こうのアストに話しかけた。
「あのっ! ケイは……ケイは生きているんですね? ケイはどこにいるんですか?」
「ケイさんが生きてる? 当たり前じゃないですか。僕と一緒にこの艦に乗ってますよ?」
その一言に全員の目が見開かれた。そしてピカちゃんからのミッションもコンプリートしてしまった。しかし、そんなアストの一言に唯一人異論を唱えたのはシンだった。
「ちょっと待ってくれアスト君。ケイが何故そこに居るんだい? 彼は……」
「すみません、僕はあなたの事を信じる事がどうしても出来ません。本物のシンさんはケイさんを庇って死んだと聞きました。あなたはシンさんのクローンなんですよね? 僕が知っているシンさんがあなただという事は聞いています。だけど僕にはどうしてもそうと割り切る事が出来ないんです」
「ボクはキミが知っているシンジロウ・ゴウトクジだ」
「それは解ってます! だけど……それならどうして言ってくれなかったんですか!? 正直言って、DOOMの一件があって僕はクローンという存在に疑念を抱いています。もちろんそれはDOOMやJ・D・Uが諸悪の根源だという事も理解しています。それでも……僕は……何だか裏切られた気分です」
アストの言い分は至極当然なのかも知れない。とは言え、それだけであのアストがここまでキレるとは到底思えない。他にも何か事情があるに違いない。
「そんだけキレてるって事は他にも何か知ってるわね? 滅多に怒る事のないアンタをそこまで追い詰めたモノは何?」
画面の向こうでは、目を伏せたままのアストが静けさを持って時間を支配していた。
それは永遠とも思える長さ、あるいは時を止めたかのような錯覚。今、この場の全てを支配しているのは間違いなくアストだ。
「……シンさん、あなたがクローンとして存在するためにはDOOMの技術が不可欠だ。惑星ロキに取材に行く前にクローン技術の事も下調べをして知っていた筈です。僕が不可解に思えたのは、あなたがケイさんを庇って命を落としたという事です」
シンは黙したままアストを見つめる。
ロキでシンがクローンになったという事は本人の口から直接聞いていたし、アストもケイという人物からそれを聞いて知ったのだろう。しかし、シンがケイを庇って死んだというのは初耳だ。
「ケイさんは自分が神器の守護者だからシンさんに庇われた、と言っていましたけど、僕にはそれがどうしても納得出来ません。僕自身がそうだから解るんですけど、神器の守護者なんて……命を投げ出してまで護る存在じゃないですよ!」
「それは少し違うな」
アストの後ろから一人の男が言葉を投げかける。コイツが……ケイ……




