第1話 DRAGON・KNOWS・The world's(Ⅲ)
ケイトの言葉に同調したタケルもケイが生きている事を説く。この姉弟にとってケイという存在は大きなものだと言う事は計り知る事が出来る。だけど、そんな事はアタシにとっちゃどうでもいい話である。真実を知る、その一点だけはこちらも譲る訳にはいかないのだ。
「ま、ピカちゃんがケイを探せって言うんならそうしましょ。つーか……アンタは何か事情を知ってんじゃないの?」
シンの顔を見やると、案の定顔を背けていた。そろそろコイツには洗いざらい白状して貰いたいものだ。それはパートナーであるクリスが一番思っている事であろうし、シン自身もそう感じているのだろう。
シンはようやくとその重い口を開き、その腹の中に溜め込みまくった膿を吐き出したのだった。
「……ケイが編集長からの仕事を請け負っていた事は言ったね? あの取材にはボクも同行していたんだよ。その取材先は……惑星ロキだ」
「ロキ!?」
アタシとクリスはもちろん、ミリューとジェフも驚きの声を上げる。そして何故かケイトとタケルも目を見開いていた。
「え? 何でアンタ達まで驚いてんのよ?」
思わず普段の口調で言ってしまったが、言ってしまった物はしょうがない。
「私達は何も聞いていませんでしたし、シンさんとケイがまさかあの『死の惑星』へ行ったなんて……」
「死の惑星?」
死の惑星とは穏やかな話では無い。それに惑星ロキは辺境と言う言葉がこれ以上無いくらいに似合う、どこからどう見ても田舎丸出しの穏やかな惑星だった。まぁ、事実上DOOMに支配されていたのだから『死の惑星』と比喩、いや、揶揄されても仕方ないのかも知れない。
生まれ育った惑星を死の惑星呼ばわりされたミリューとジェフの心情は如何なものかと様子を窺うが、気分を害した様子は微塵も感じ取れず、むしろその言葉を受け入れているようでもあった。
「死の惑星、ですか。確かに以前のロキにはその呼び名が相応しいですな。勿論、現在は違いますが」
「相応しい、ってどういう事?」
「陽の光がほとんど届かない惑星ロキは過酷な環境下でした。作物も育たず、他の惑星からの輸入に頼らざるを得なかった我々が見返りに提供出来るモノは神器を持った人材……言わば傭兵しかありません。神器に選ばれた者はロキに住まう者に食料を供給するだけでなく、国家を維持させるための資金を得るために必要不可欠な人材でありました。あらゆる意味でロキは『 死の惑星』と呼べるものだったのかも知れません」
そんな状況を一変させた人工太陽を建造したDOOMは、あるいは救世主だったのかも知れない……奴がJ・D・Uでなければ、の話だが。
現実はと言うと、残念ながらDOOMはただの侵略者であった訳で、真にロキの居住者達の事を思っての行動では無かった。もしも奴が侵略者でなかったら、奴が善良なる臣民であったならば……いや、この際『たられば』の話はすまい。
「シンとケイがロキに行ったのっていつの話なワケ?」
その質問に意味があるとは思えないが、今はクリスの意思を尊重して大人しく拝聴しよう。その方が……アタシの中の『何か』を掴めそうな気がする。
「ボクが最初にロキへ行ったのは君と同じ時だよ。だけど、『ボク達』が最初にロキに行ったのは、もっとずっと前になる」
「はぁ? 何よそれ? 意味分かんない」
「すまない、クリス。これ以上は話す訳にはいかないんだ」
「勿体つけるんじゃないわよ! 何度だって言ってやるけどワタシとアンタはパートナーなのよ? パートナー間に隠し事があるなんて、業務に差し支えありまくりで有り得ないでしょ!」
ありあり言い過ぎて何があって何が無いのやら。
「それは解るが……すまない、やはり今はまだ言う訳にはいかない。だけど、その時が来たら必ず言おう。クリス、レイア、その時まで待っていてはくれないか?」
そう言ってシンは深々と頭を下げる。アタシとしてもクリスと同意見だが、複雑な表情を見せるシンにも何か事情があるのだろう。
尚も食い下がろうとしたクリスだったが、そこに割って入り牙を剥いたのはケイトだった。
「そんなの待てないわ! レイアさん達が待てたって私は絶対に待てない! 私はケイに逢いたい……逢いたいよ……」
頬を伝う涙が堰を切ったかように溢れ出すと、ケイトはその場にしゃがみ込み嗚咽を漏らした。堪らずタケルがケイトの肩を掴み介抱する。あと、アタシ達も待てるわけが無い。
「そうだったね……君はケイの婚約者だから、誰よりも君が彼の無事を信じているのだからね」
ただならぬ関係だとは思ったが、婚約者とはね。アタシの隣でクリスが下唇を噛んで悔しがるが見なかった事にしておこう。
蜜月の関係ならば行方不明である想い人の安否を気遣うのは至極当然だろう。アタシだってアストの無事を……って、何を考えてるんだろうか、アタシは。
「まぁ、姉さんが勝手に言ってるだけだけどね。『 自称』婚約者だよ」
「え? そうだったのかい?」
「今はまだそうかも知れないけど、いつかはそうなるのよ! 私のケイへの愛は無限大で無尽蔵なんだからねっ!」
んー……あの男装の麗人が実はツンデレ乙女とはね。つーか、さっきのアタシの思考を消して欲しいわ。
「んじゃ、ま。こちらのお嬢様もこう言ってる事だし、どうやら『その時』が来たようね」
一瞬面食らったシンは、ここが年貢の納め時と観念したか、静かに語り始めた。
「随分と早くその時が来てしまったけどね……ロキでボク達はある事件に巻き込まれ、離れ離れになってしまった。その事件と言うのは……ミリューさん、いや、ジェフとパイ君の方が良く知ってるかもしれないね。例のあの事件だよ」
シンが言う『あの事件』とは、かつて惑星ロキで起こったDOOMによるクーデターの事で相違無いだろう。あの事件にシン達が絡んでいただなんて初耳も初耳だ。
「別にあの事件を取材していた訳じゃないさ。ボク達の取材対象はオールトの雲……つまりDOOMだよ」
「アンタとDOOMとはなーんか因縁めいたモノがある感じがしてたけど。ん、でもそれならそれで記事になったんじゃないの?」
取材が成功していたなら公表されてる筈だし、ウチの独占記事なのだから今頃我が社も大手出版社になってるだろうからなぁ。
「あの事件の中でボク達はオールトの雲に、いや、J・D・Uの暗部に触れたんだよ」
「暗部?」
「ボクはレイアやクリス、そしてアスト君が知っているボクに間違いは無い。だけど、ケイトとタケルが知る『僕』は『ボク』じゃない」
唐突に意味不明な事を言ったシンに対し、いち早く反応を示したのはミリューの胸元で事の顛末を眺めていたパイちゃんともう一人、部屋の片隅で聞き耳を立てていたリックだった。




