第1話 DRAGON・KNOWS・The world's(Ⅰ)
「ぶえっくしょいっ!」
チッ……どっかで誰かがアタシの噂話でもしてんのかしら。ま、多分アストだろうけど。アイツ……ちゃんと生きてんでしょうね……? それよりも、だ。
「シン……アンタや編集長が特異点ってのはどういう事? つーか、特異点って何なのよ?」
DOOMやフェイにも言われた事だが、やっぱりいまいちピンと来ない。つーか、そんな安直な言葉でアタシっていう人間を測って欲しくないわね。アタシはアタシだっつーの。
「特異点……という言葉は聞き慣れないかも知れないけど、ノイドという言葉には聞き覚えがあるんじゃないかい?」
「ノイド……」
確かにその言葉には覚えがある。だが……
「それが何だっつーの?」
「特異点とはノイドの事だよ」
自己証明を持たない者というのがノイドだったと記憶している。それが特異点だと言うのならアタシは一体誰なのよ? 途端にクリス達の視線が気になったアタシは思わず視線を泳がせる。
「特異点……ノイドとは、あらゆる事象に関与する存在なんだよ。ボクも編集長も、ね」
あらゆる事象って意味がやっぱり分からないし、それが良い事なのか悪い事なのかも分からない。一つ分かる事と言えば、アタシもシンも編集長も普通じゃないって事くらいかしら。つーか、嫁入り前の身体なのに普通じゃないってどーゆー事よ、などと考えているとパイちゃんが心配そうにアタシの顔を覗き込んできた。
「おねーさん……特異点ってね、本来なら神器の支配者になった者がなるんだよ。だけどおねーさんは神器に選ばれた訳じゃ無いから不思議なんだよねぇ……」
「レイア……アンタ、本当に何にも知らないワケ?」
「それがねぇ……頭ン中だか胸ン中だか分かんないけど、何かが引っ掛かってんのよねぇ」
「ソレをさっさと思い出しなさいよっ。ドコよ、ドコに引っ掛かってんのよ? ココか? ココがええのんかぁ? あぁん?」
「あ、ちょ、クリス、やめ、あ……んぁ……」
悪ノリしたクリスがアタシの身体をまさぐってきて不覚にもこのまま身を任せてしまいたい気分にもなったが、若い子達に悪影響を与えてもいけないのでクリスをスリーパーホールドで締め落とす事にした。
それにしても見事な廃墟が完成したもんだわね、こりゃ。改めて至聖所の周りを見渡してみるが、破壊の仕方がまるで駄々っ子が癇癪を起こしたかのような暴れっぷりね。あるいは、気に入らない作品を叩き壊す芸術家……
「……気に……入らない?」
「何が気に入らないんですかぁ、せんぱ~い? あ、さっきのチチクリ合いの相手がアストさんじゃないからですかぁ~?」
「エミリー……全力でぶん殴るわよ?」
「じょ、冗談ですよぅ! だから指をパキポキやめて下さ~い! 目が据わってますよお~?」
つーか、年下のくせにチチクリ合いって表現が古いし何世紀前のオッサンよ、アンタ。あと何でアストの名前がここで出てくる? コイツ、マジでシバキ倒してやろう。うん、そうしよう。
そんな事よりも、だ。アタシにはあのベルカが意味も無く至聖所を破壊したりするとは到底思えない。アイツの目的はお宝である神器を手に入れる事であり、神器を管理する至聖所を破壊するという行為はその目的を果たすにはあまりにもかけ離れている気がする。
「何かベルカの逆鱗に触れる様な事があったに違いない。確かにアイツは宇宙海賊だけど、一時の感情に流されてしまうような弱い女じゃないと思う」
「彼女の芯の強さはボクも感じたが、それはむしろあれくらいの豪胆さが無ければ宇宙海賊なんてやってられないんじゃないかな」
「あの人は至聖所を破壊しました! あの人は悪い人です!」
「確かにレビたんの言う通りよね」
「レビたんって……まぁ、それはいいとして。あの至聖所を破壊したのは聖櫃を奪うという明確な目的があったからよ。必要以上の破壊活動は無かったし、無用な殺生も無かった。やり方は普通じゃないけれど、それが海賊って人種のやり方よ。それに、アタシ達に対して殺意は無かったハズよ」
「それは結果論に過ぎない。アスト君が身を挺したからあの場は収まったと考える方が妥当じゃないかい?」
そう言われてしまえばそれまでなのだが……
「だけど、キミがそう思うのならそれは間違っていないのかも知れないな」
「どういう事?」
「それはおねーさんが特異点だからだよ」
ミリューの胸元を離れ、訝しがるクリスの肩へとスルリと駆け登って行ったパイちゃんがシンに代わって説明する。
「特異点はあらゆる事象に関与する。そしてそれは物事の本質を見極める事にもなる。おねーさんは自分でも気付かないうちに核心を突いてるんだよ。そしてメガネのおにーさんもね」
アタシもシンも特異点だから全ての事象に関与し、物事の本質を見極める……それってつまり、あっちこっちに首を突っ込んで問題をスルッと解決しちゃうって事よね。ふむ、ジャーナリストであるアタシ達にとってはそれこそチートスキルじゃない。あらあら、なんて有難い事かしら。
「おっけー。大体の事は把握したわ。特異点とかノイドとか、そんな事はアタシにとっちゃ些細な事。アタシはアタシ、やる事はなーんも変わんないって事よね」
今やるべき事は一つ。ベルカの後を追い、聖櫃を奪還して記事をまとめ上げる事。特異点とかノイドとか小難しい事は後回しにして、ジャーナリストとしての本文を全うしなきゃね。二頭を追うものは一頭買いも出来ず、って言うじゃない?
ふと目をやるとミリューがアタシを見ながらクスクスと笑っていた。ん、アタシの顔に何かついてるのかしら。
「レイアさんは相変わらずですね。兄様がレイアさんは強い人だと言っていましたが、私もその通りだと改めて思いました」
「アインが?」
「はい。私の顔を見る度に『 お前もレイアのように強い女になれ』と言ってましたから」
「ミリューはそのままでいいのに」
「いえ、私もレイアさんのように強くなりたいと思っております」
アインめ、余計な事をミリューに吹き込まないでよね。ミリューはこのままでいるのが可愛いんだから良いんじゃない。今度会ったら可愛いは正義って事をキッチリと教えこまなきゃね。




