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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第4章 孤立無援のデトネイター?
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第2話 Stray・Captain・GOMAD(Ⅳ)

 朝食はケイさん特製のカレードリアだった。三人はスプーンを口に運ぶ手を止めず、一心不乱にカレードリアにがっつく。かく言う僕も彼女達に負けず劣らず一心不乱にスプーンを口に運ぶ。

 程よい辛さに加えて上に乗った半熟玉子が絶妙なまろやかさを与えてくれ、こんがり焦げ目の付いたチーズの香ばしさを引き立たせる。朝食には少し、いや、かなり重たかったけど……


「余ったカレーでサクッと作ったにしては美味いだろ?」

「ホンマにめっちゃ美味いわ! なぁ、ウチの海賊団専属のシェフにならんかぁ?」

「慎んでお断りします。ま、確かにここに居るのも悪くないし、アンタ達とも上手くやっていけそうだけどさ、やっぱり俺はフリーのジャーナリストでいる方が性に合ってるんでね」


 色目を使っての勧誘に失敗して心底残念そうな顔のリオさんの横では、既に食べ終えていたグレイさんが神妙な面持ちでテーブルの上を見詰めていた。


「……やっぱりボスは一人で全部を背負い込むつもりだ」

「おい、グレイ……何か知ってんのか?」


 両肘をテーブルについて口元で両手を組み、虚空を見つめる。何か思い当たる節でもあるのだろうか。暫く時間が止まっていたが、グレイさんはおもむろに懐から一枚の紙切れを取り出しテーブルの上に置いた。


「何だこりゃ?」

「ボスの書き置きだ」


 その紙には無造作にたった一言『行ってくる』とだけ書かれていた。

 ベルカさんはあの時に何かを感じたのだ。そして、その何かを自分一人の問題として処理しようとしているのではないだろうか。全ては憶測に過ぎないのだけれど、何故かそんな気がしてならなかった。

 その一言だけで表された素っ気なさはベルカさんらしいのかも知れないが、その言葉の裏に隠された熱の様な物が感じられ、その熱が僕にはあの人に似た物だと感じられた。


「グレイ、お頭はどこに行ったと思う?」

「分からん。次の至聖所へ向かったのかも知れないし、あるいは至聖宮かも知れない」

「ほな決まったな。船長の事やからまどろっこしい事なんかせんと一気に至聖宮に行くに決まってるやんか」

「でも妙な所で細かいお頭のこった。一つずつ虱潰(しらみつぶ)しにぶっ壊して回るかも知んねぇぞ?」


 細かいのか大雑把なのかよく分からないけど、あの人だったら多分一気に至聖宮へと向かうよりは一つずつ回って行き、充分な情報を得た時点で一気に核心を突きに行くだろう。ベルカさんとあの人が似ているのなら……それを確かめるべく僕はケイさんに疑問を投げかけてみた。


「ケイさん、並行世界とこの世界は何が違うんですか?」


 突然の質問に面食らったのか、ケイさんは口の中に含んでいたカレードリアを吐き出すまいとむせていた。タイミングが悪かったかな。慌てて水を飲んで口の中の物を一気に流し込み、落ち着きを取り戻したケイさんはスプーンを置いて一呼吸つく。


「うぇっへ……あっぶね。危うく吐き出すとこだったぜ……並行世界ってのは全ての物質を同じくしながらも全く異なる歴史を歩んでいる世界の事だ」

「という事は、同じ人格を持った人間がそれぞれの世界に居る、と言う事になりますか?」

「……何が言いたい?」


 そう言いながらこちらを睨んでくるも、その目は僕の意図を汲んでいるかのようにも見える。僕の仮説ではあるが、ベルカさんは並行世界におけるレイアさんなのではないだろうか。つまり二人は世界を違えた同一人物である、という事だ。


「……なるほどな。そう考えるなら、俺の故郷を消し飛ばしたのはレイアではなくベルカだと言う事になる、か。お前のレイアへの想いの強さは分かったし、てゆーか、むしろキモいわ」

「き、キモいって何ですかっ!」

「はは、悪ぃ悪ぃ、そう怒んなよ。俺だって可愛い弟分みてぇなお前の想い人を殺したいなんて思っちゃいねぇよ 」


 どこまでが本心なのかは分からないが、そう思ってくれるなら嬉しい。嬉しいけれど……何だか腑に落ちないのは気のせいだろうか。


「さて、どうする? 第三の至聖所へ向かうか、それとも一気に至聖宮へ向かうか……てゆーか、ベルカのSTをトラッキングするシステムとか無いのか?」


 確かに味方機がどこに居るのかを把握するための追尾システムなどはあってもおかしくないと思う。しかし……


「綺麗にバラされたアルテミスのトラッキングシステムが格納庫にぶちまけられていた。ボスがやったんだろう」


 万事休す。これでは追いかける事も出来ない。やはりベルカさんは一人で全てを背負うつもりなのだ。しかし、ベルカさんを一番良く知るのであろうアルヴィさん達の意見は一致しているし、今はそれに賭けるしか無いのかも知れない。


「トラッキングシステムが無くても行き先が分かるならそこへ向かいましょう。ベルカさんを止めなきゃ大変な事が起こるかも知れません!」


 大変な事────ケイさんが言っていた『惑星(ほし)殺し』が起こってしまうかも知れない。何故かそんな予感がした。


「何だかよく分かんねぇが、お頭の先回りをして至聖宮へと針路を取るぜ。リオ、グレイ、配置に着いてくれ。お頭が居なくてもアタイらで何とかするっきゃねぇ!」


 アルヴィさんの舵取りの下、リオさんとグレイさんはそれぞれの持ち場へと駆け出して行き、アルヴィさんも操舵室へと向かっていった。残された下働き扱いの僕とケイさんはと言うと……食後の後片付けをするより他は無かった。




 キュッキュッと音がするまで洗ったお皿を満足げに眺めていると突然声を掛けられた。


「お前は神器の声を聞く事が出来るんだよな?」

「へ?」

「何だよ、その間抜けな返事は? まぁいい。昨日、お前がルードの指輪と会話をしていたのを見たもんでな。神器の声を聞けるって事は……お前も『ノイド』なんだな……」


そう言えばルードの指輪もそんな事を言っていた気がするけど、そもそもノイドとは一体何なのだろうか。


「ノイドってのは神器の守護者の中でも特殊な存在だ。神器に選ばれた奴がそう呼ばれる」

「神器に選ばれる……パイもそんな事を言ってたけど……ケイさん、それって具体的にどういう事なんですか?」

「ノイドとは『NO・ID』……自己証明を持たない者だという事は知っているな? こっちの世界で言うなら『特異点』って事になる」


 特異点……そうだ、確かに僕はあの時に特異点となった。そして、レイアさんも特異点であるとフェイが言っていた。という事はレイアさんも神器に選ばれた守護者なのか?


「特異点になると……どうなるんですか?」

「ノイド……特異点となった時点でお前は、もう一人の自分を殺す事になる」


 もう一人の自分……その言葉が意味するのはおそらく……


「並行世界の……自分を殺す……?」


 もしもレイアさんとベルカさんが並行世界の同一人物だとしたら……どちらかが……死ぬ?

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