第1話 Arc NO MAD(Ⅰ)
各話のサブタイトルについてですが、英文法等は無視したタイトルになっています。語感の響きと勢いだけで付けたタイトルなので深く考えないで下さい(笑)
惑星プシュケに降り立ったアタシ達を待っていたのは、眩いばかりに光り輝く超高層ビル群に、縦横無尽に空を駆けるエアカーやエアバイク達。そして、それに反比例するかのように割拠する遺跡群だった。
前回の取材地はワケわかんない発展をまざまざと見せつけてくれたけど、今回はそこそこアーバンでメトロポリタンな感じがする。
アタシ達が暮らす惑星ノアは、人類が天の川銀河よりも外銀河へと進出し、最初に開拓した惑星であり、その歴史は800年を数える。
この惑星プシュケには太陽の光は届かない。
だが、それになり代わり発電技術の発達が目覚ましく、その恩恵に与り絶えず光は街のあちらこちらから降り注いでいる。
「さって、とぉ……んで、クリス? アタシ達はどこへ向かえばいいワケ?」
両手を天へと突き出し大きく伸びを一つ。かなり身体が硬いわ……
「そう……ね。ここから至聖所は近いし、早速行ってみる?」
同じく大きく伸びをするクリスの無駄にデカい乳が存在感をアピールしてくる。アストとシンもそこに釘付け……にはならず、荷物持ちに従事していた。
「レ、レイアさん……こ、この荷物……何ですか?」
「ク、クリス……何故、ボクがキミの荷物を持たなくてはならないんだ……?」
アストはともかく、シンは憐れとしか思えないわね。白衣を着た牛乳瓶の底メガネ男がボストンバッグを二つ両肩に掛け、キャリーバッグを二つガラガラと引いている姿はなんとも滑稽だ。笑ってはいけないのだろうが……ウケる。
「レイア……笑うなよ……」
「笑うなっていう方が……無理よ……プックク……」
「ク、クリスさん……僕ら……この荷物を……持ったまま……至聖所へ行くんですか……?」
それも少し憐れに思えたのだが、ふと目が合ったクリスはただニヨニヨと不気味な笑みを浮かべているだけだった。怖いわぁ……
とは言うものの、アタシ達だってそこまで冷酷ではない。ちゃんと事前に予約しておいたホテルへとチェックインすると、部屋に荷物を置き一息入れた後にすぐさま至聖所へと向かう。
「ふう……解放感しかないね」
そう言って白衣のポケットから煙草を一本取り出しおもむろに火をつけるシン。
そうか、これが普通の反応か。
とするとアストは……
「レイアさん! 荷物、これだけですかぁ?」
前後に背負ったリュックに、首からはカメラを提げながらもこんな事を言い放つコイツはただのドMだな。
クリスの案内の元、至聖所へと辿りついたアタシ達を待ち受けていたのは、建物を取り囲むようにして掌を合わせて拝んでいる大勢の礼拝者達だった。
「な、何これ? 至聖所ってこんなに繁盛するもんなの?」
「繁盛って……せめて賑わうとか、他に言い方があるじゃないですか……」
「悪かったわね。んで、この状況はどうにかなんないの、クリス?」
そう言うと彼女は懐からチェーンに繋がれた丸い銀のハンターケース型の懐中時計を取り出し、文字盤をこちらへと向ける。
「もうすぐ正午になるから大丈夫よ。この礼拝は午前中で終わるから」
クリスの言葉通り、正午を告げる鐘が鳴り響くと同時に礼拝者達は蜘蛛の子を散らすように方々へと去っていった。
「あ、そーだレイア。シャトルの中でワタシ言ったわよね? 至聖所に着いたら土下座しなさいって。さっ、やってもらおうかしら?」
ニヤケ面のクリスとシン、そしてバツが悪そうにしているアスト……え、何よこの雰囲気。
「クリス……アレってマジなの?」
「ええ、もちろん。大マジよ」
「仕方ないね、レイア。約束は約束だ」
そんな約束をした覚えは微塵も無いのだが……つーか、なんでシンはいそいそとハンディレコーダーを用意しているのだ。
何よ、この空気……つーか、せめて礼拝者達がいる時に言いなさいよ。誰もいなくなった時に土下座なんてやりたくないわよぉ……
「ねぇ……やっぱり、やらなきゃ……ダメ?」
アタシは精一杯の笑顔でクリス達に愛嬌を振りまいて、自らの危機を回避しようと目論んだのだが結果は見ての通り……
アタシは至聖所に向け、五体投地さながらに跪いていた……にゃぁぁぁっ! 見ないでぇぇぇっ! 撮らないでぇぇぇっ!