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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第4章 孤立無援のデトネイター?
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第1話 Refrain・Limit・MEMORY(Ⅰ)

 ゆらゆらと揺られながら優雅に空の旅を楽しん……ではいない。

 この非常時に何が悲しゅうて空飛ぶゴンドラでのんびりしなきゃなんないのよ。あー、もう、()れったいわね。


「他に移動手段は無かったワケ?」


 クリスもアタシと同様にもどかしいのか、シンの首根っこを引っ掴んで抗議する。アンタだけはアタシの気持ちを汲んでくれるのね。

 ぐわんぐわんと前後に首を振られながらもシンは弁解を試みる。でもね、シン。そーゆーのを無駄な足掻きって言うのよ。


「仕方ないだろう。ボクの宇宙船が使えない以上、彼等が用意してくれた物を使うしか他に手段が無い。ここは焦らずに……」

「焦るわよっ! J・D・Uが相手なんでしょ? それともアンタはアストっちが心配じゃないってワケ?」

「そりゃあもちろん、ボクだってアスト君の身を案じているよ。だけど、多分大丈夫だと思うよ」


 噛み付きそうな勢いでシンに詰め寄るクリスだったが、言葉使いだけは紳士的で冷静に対処するシンに額を鷲掴みにされながら元の席に戻された。しかし、興奮冷めやらぬ様子のクリスは尚も食い下がる。


「その根拠は何よ?」

「さっきアスト君からメールが届いたんだよ」

「メール? 本人から?」

「確認したけどアスト君に間違いないと思うよ」


 メールが届いたという事は、取り敢えずは生きてる証拠ね。ちょび安心。


「んで、そのメールってのは?」


 メールの内容を聞かせるように促すと、シンはモバイルのプロジェクターを起動させ、ゴンドラのはめ殺しの窓ガラスにメールの文面を投影させた。読むのを面倒ぐさがるなよな。


「えーっと……『海賊船の中でカレー作ってます。ベルカさん達は二つ目の至聖所を襲撃中。取り敢えず僕は無事です』……なんじゃこりゃ?」


 その文面から読み取れる情報は、アストは無事でカレーを作ってるという事と、ベルカ達が二つ目の至聖所を襲撃しているという事……至聖所を襲撃?


「レビさん、この先にある至聖所ってどんな所? っつーか、そこには何があるの?」


 アタシの横では、レビが額に人差し指をあてがいながらしかめっ面をしている。何かを必死に思い出そうとしているのだろうか。そんな姿も可愛いぢゃないの。ふわっふわのピンクの髪を思う存分もふもふしたいわぁ。あ、ヤバ、よだれが……


「これから向かう至聖所は機械人形(オートマター)が管理しており、そこには『リディア金貨』が納められています。本来なら『彼』も至聖所を管理する立場にあるのですが、私達ドラゴン族が管理する至聖所は今や三つだけになってしまいました」

「じゃあ、レビたん以外にドラゴン族が二人いるって事?」


 シンのアイアンクローを振り払ったクリスが目を輝かせる。つーか、レビたんって……

 しかし次の瞬間、クリスのその目の輝きが色を変える。


「ちょい待ち、レビたん。今、リディア金貨って言った? ね、言ったわよね? 確かに言ったわよね? それってマジなの?」


 ドラゴン族の事はどこへ行ったのか、彼女の興味の矛先はリディア金貨へと向けられていた。


「は、はい、言い、ました、けど」


 クリスに両肩を揺さぶられたレビは目を白黒させながら答えていた。


「ねぇ、クリス。リディア金貨……って?」

「……アンタ、ほんっとによくそれでジャーナリストが勤まるわね。いーい? リディア金貨ってゆーのはね、遥か神話の時代にまで遡るけど、この世界で最初に作られた金貨の事なの。ちなみに正式名称は『エレクトロン貨』よ」

「へー」

「その気の抜けた返事は何よ? これがどんなに貴重な物なのか解ってないでしょ?」

「うん、解ってない」


 正直、興味無いし。それよりも先程のレビの言葉で一つ引っ掛かる事があり、アタシの興味はソコにしか無かった。アタシがそれに興味無しと気取(けど)ったクリスはリディア金貨の貴重さを知らしめるべく、シンはおろかケイトとタケルを巻き添えにして力説していた。

 アタシの興味は唯一つ……『彼』だ。

 アタシの考えが間違って無ければ、恐らくその『彼』とは……


「ねぇ、レビさん。さっき言ってた『彼』ってのは、ホワイト・ドラゴンの『彼』の事よね?」

「はい。貴女方が『パイ』と呼んだ者です。彼は我々ドラゴン族を導く立場にある者でした。しかし……」


 言い淀み俯いたレビの表情は暗く沈んでいった。何か事情があるのだろうけど、まさかパイちゃんがドラゴン族のリーダーだったとはね。

 レビの表情から察するに、パイちゃんがここから遥か遠く離れた惑星ロキで暮らさざるを得ない何かが150年前にあったのだろう。

 いや、待てよ。アタシの記憶が確かならば、パイちゃんは150年前に惑星ロキで……『生まれた』と言っていたハズ……?

 このパラドックスは何?


「一つ質問があるんだけど……レビさん達ドラゴン族は、この惑星ヤハウェで生まれ育った、って事で良いのかしら?」


 アタシの質問に場の全員の視線がレビに注がれる。レビはゴンドラの大きな窓から足元の街並みをじっと眺めたまま微動だにしない。街のイルミネーションは夜空の星を模写したかのように眩く煌めく。

 街の輝き途切れ出すと、やがて彼女はその重く閉ざされた口をゆっくりと開いた。


「この惑星ヤハウェは、私達ドラゴン族の故郷とも呼べる惑星(ほし)です。至聖所とは元来はドラゴン族の礼拝堂でした。しかし、ドラゴン族の衰退と入れ替わるように人類が繁栄するにつれ、至聖所は在りもしない『神』という偶像を(まつ)る場へと成り下がってしまいました」

「ちょっと待った。礼拝堂と言うからには『神』は存在するんじゃなくて?」


 すかさずクリスが突っ込むが、アタシには何のことやら。


「レイア……君もクリスと同じ聖神学のコマを取っていたのだろう?」

「アタシは明るい未来だけを見つめる主義なの」


 呆れ顔のシンをさらに呆れさせてやった。その隣ではクリス、ケイト、タケルの三人が一様に頭を抱えていた。


「在りもしない『神』と言うのは人間達が勝手に創り上げた存在(モノ)の事です。我々ドラゴン族は七人のドラゴンを指導者とする事で栄えてきました。彼等を神として崇め奉る場が至聖所の本来の姿なのです。現在の至聖所で崇められている神は本当の神ではありません」


 いまいちピンと来ない話なのは、スケールが壮大過ぎるからであって、アタシの知識不足が原因では無いと思いたい。切実にっ!

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