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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第3章 ディオスクロイは世界を救う?
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第2話 Assault・Justice・MYSELF(IV)

「何でケイさんがレイアさんの事を知ってるんですか?」


 いくらケイさんがウチの編集長と顔見知りだからといってもレイアさんの事を知っているはずがない。彼が編集長の依頼を受けたのはレイアさんが入社する前の話だし、ウチみたいな三流ゴシップ出版社のジャーナリストなんて無名に等しいのだからレイアさんの名前が全銀河に知れ渡っている、なんて事も有りそうにない。ケイさんとレイアさんとの接点なんて何処にも見当たらないと思うのだが、その答えは意外な所にあった。


「シンのヤツからお前らの事は色々と聞いてるからな」

「シンって……」


 レイアさんだけでなくまさか……?


「シンジロウ・ゴウトクジ、ロイス・ジャーナルのジャーナリスト、そして、俺達『パルティクラール』の仲間だ」

「パルティ……クラー……ル……?」

「何だ、シンからは何も聞いてなかったのか?」


 僕はジャーナリストとしてはまだまだ半人前だ。知らない事なんてそれこそ星の数ほどあるだろう。だけど……知らない事があるという事がこんなにももどかしい物だとは思ってもみなかった。レイアさんの気持ちが僅かながら分かったような気がする。


「ケイさん、貴方は一体何者なんですか? パルティクラールとは何なんですか?」

「知りたがりなところはさすがにレイア・ルシールの相棒をやってるだけの事はあるな。それにしてもシンも随分と意地悪な奴だ。いや、むしろ後輩思いなのかもな」

「ケイさんはレイアさんと会ったことがあるんですか?」

「……シンから話を聞いてる程度だ。それに、彼女は意外と有名人なんだぜ? ま、それよりもコイツを見ろ」


 随分と気になる事を言いながら、左目を覆う黒髪を掻き上げたケイさんは『フィディウス』のシャッターを押し、何事かを呟いた。


「リベラシオン」


 その言葉を合図にフィディウスの望遠レンズの先端が光りだし、魔法陣の様な紋様が空中に描き出された。


「これは……」


 魔法陣の上には、椅子に座りテーブルを囲むシンさんとケイさん、そして編集長と見知らぬ三人の女性……いや、男性にも見える人物が一人いるけどどっちだ? そしてフードを目深に被っている人物の合計七人の姿が映像(ヴィジョン)として浮かび上がっていた。フードの人物は顔が確認出来ず男性なのか女性なのかも分からない。


「ここに居るのが俺達パルティクラールのメンバーだ。俺達はある『組織』に対抗するために結成された。俺達はその組織を壊滅させるためだけに存在する」

「その組織って……」

「お前も知ってる犯罪シンジゲートだ」

「J・D・U……ですか」

「ああ。俺達の最大の目的はアヴィル……いや、フェイ・シルフォイという存在をこの世界から抹消する事だ。ロイスさんやシンはお前達を危険に巻き込むまいとして何も言わなかったのかもな」


 編集長やシンさんがそんな事をやっていたなんて……レイアさんやクリスさんはこの事を知っているのだろうか。

 様々な憶測が僕の頭の中で渦巻いていたのだが、外から聞こえた突然の爆破音によって脳内の渦はなりを潜めた。


「ケイさん、今の音って!」

「やっぱりやりやがったか、ベルカ・テウタ……」


 ケイさんはある程度の予測をしていたのだろうが、それは同時に僕の嫌な予感が的中した事も告げている。やっぱりあの時に無理矢理にでも止めておけば良かったのかも知れない。


「ケイさん、早く行きましょう! 何が起こっているのか分かりませんが、今ならまだ間に合うかも知れません!」

「間に合わねぇよ。STを引っ張り出した時から奴は既に覚悟を決めてた」

「それでも行かなきゃ……やっぱりあの時に……止めるべきだった!」


 僕はなりふり構わず甲板(デッキ)へと続く階段を駆け上がった。そこから見えた景色は……正しく惨状と呼ぶに相応しかった。

 僅かに青みがかった白を基調とした外壁が、いかにも神聖な場所だと知らしめていた至聖所の姿は今やどこにも無く、ただ瓦礫が積み重なっているだけだった。近隣の建造物も被害を受けたのか、半壊、もしくは全壊していた。

 よく見ると瓦礫の下敷きになっている人達も大勢おり、惨状を目の当たりにした僕は全身を無力感という名の冷たい雨に晒され崩れ落ちた。


「う……ぐぅ……うあああああっ!」


 怒り、悲しみ、自責、後悔……様々な感情が一気に押し寄せてきたのか、僕は叫んだ。


「お前はこの惑星がJ・D・Uの支配下にある事を知っていたか?」

「……?」


 背後から聞こえてきたその声を理解するまで脳の処理が追いつかない感じだったが、少しづつ落ち着きを取り戻し、その言葉を反芻(はんすう)する。


「J・D・Uの支配下……それ……本当ですか?」

「……俺達がこの惑星に来た理由がそれだ。ベルカが言っていたようにこの惑星はある意味では腐ってんのかも知れねぇ。てゆーか、そもそも惑星として、国家として全く機能しちゃいねぇ。J・(やつら)・Uがこの惑星を支配下に置いた頃からな」


 俄には信じがたい事だけど、ケイさんが嘘を()く理由も無い。


「もしかしてベルカさんも……?」

「いや、アイツはアイツ自身の信念に(のっと)って行動を起こしたんだろう。ま、ちょいとばかりやり過ぎかも知れねぇがな」


 ちょいとばかりというレベルではない。てゆーか、それなら尚更僕の責任じゃないか。僕が神器の力を使っていればこの惨劇を阻止できたかも知れない。瓦礫の下で息絶えた人達だってきっと救えただろう。


「お前が気に病む事はない。あの時、神器の力を使った所で結果は変わらなかった。変えるとするならば、あの時にお前が死ぬかベルカが死ぬか……どちらかの運命が変わるしか道は無かった」


 廃墟と化した街の中、暗闇の中で鈍く光る金色のSTは夜空を見上げ立ち尽くしていた。その姿は、込み上げてくる涙を隠しているかのようにも見えた。

 ケイさんの言葉に少しは心が救われた気がするけど、僕とベルカさんのどちらかが死ぬ運命なんて選べるわけも無いし、その結果が一つの街を壊滅に追い込む事になるなんて思いもよらない事だから、やはり責任を感じずにはいられなかった。




「お頭ぁ、これからどうするんで?」


 廃墟に響き渡るアルヴィさんの声に応えるべく開かれたSTのハッチからは、返答代わりなのか足下にいるアルヴィさん目掛けてスリッパが飛んできた。


「どうするもこうするもねぇ。アタシはこの惑星(ほし)をぶっ壊す。お宝なんざぁ、もうどうでもいい。こんなクソ機械に魂まで売りやがって……」


 STの手は人の頭部を鷲掴みにしていた。いや、正確にはそれは人ではなく、人の姿を摸した機械……機械人形(オートマター)だった。

 あの至聖所でベルカさんに一体何があったというのか。お宝を奪う事はあっても命まで奪うような人ではないと思っていたのに、何がベルカさんを変えてしまったというのか。

 あの口振りを見るに、ベルカさんは機械……いや、それ以上の『何か』に対して激しい憎悪の念を抱いているようだ。その『何か』が分かればベルカさんを止める事が出来るかも知れない。


「アイツ……惑星(ほし)殺しになるつもりか……?」


 ケイさんがスクープを記録に収めるべくフィディウスのシャッターを切りながら何事かを呟いた。


「ホシ……ゴロシ……?」

「特S級犯罪だな。俺が知る限りじゃ一人しかいねぇけどな。まぁ、こっちの世界じゃ誰もやっちゃいねぇが……」

「え……?」

「いや、何でもねぇ」


 その言葉を理解出来なかったが、それよりもベルカさんを止めるための方法を思案する事が最優先事案だと判断した僕は、ケイさんの言葉を一旦保留しようと思ったのだが、どうやってもその言葉が脳裏から離れる事は無かった。


「……こっちの……世界……?」

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