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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第3章 ディオスクロイは世界を救う?
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第2話 Assault・Justice・MYSELF(Ⅱ)

 今頃レイアさん達は何をしているのだろう。やっぱりベルカさん達の足取りを追っているのだろうか。てゆーか、僕の事はどう思われているのだろう……ってゆーか、心配かけちゃっているんだけど。

 今にして思えば随分と無茶な事をしたと思い返し、レイアさんと再会する事が恐ろしくなってしまう。ビンタの一発、二発くらいは覚悟しておくけど、それで済むハズが無いよなぁ……

 その後、アルテミシアは第二の至聖所へと到着し、ベルカさん達はその中へと乗り込んで行った。ケイさんと僕は厨房でカレーの仕込みを開始する……って、本当にこんな事をやっていていいのかと思った僕は所在なく周りを見渡した。視線の先に居たのは当然ケイさんだけだったが、何故か彼は嬉しそうに鼻歌を交えながらジャガイモとニンジンを切っていた。


「ケイさん……僕達、こんな事をしていていいんでしょうか?」


 そこはかとない不安に駆られた僕は思わずケイさんへと話し掛けずにはいられなかった。ケイさんならきっとこの不安をかき消す言葉をくれると期待したのだけれど……


「じゃあ、他に何が出来るってんだ? アイツらと一緒に至聖所を襲うか? 出来ねぇよな……アイツらもアイツらの中の正義を信じて行動してんだ。今はテメェの中の正義を信じろ」

「僕の中の正義……」


 反芻した言葉だったが、上手く消化する事は出来なかった。

 僕の中の正義……それはやはりジャーナリストとしての義務になるのだろう。僕がジャーナリストであるために信じているモノとは一体何だろうか。ケイさんが言った『正義』という言葉の重さがズシンと僕の心にのしかかったかのように、僕は身動きができなかった。『正義』と『真実』は違う……そして、それは似て非なる物なのかも知れない。

 真実を追う事が必ずしも正義だとは限らない。だけど、僕はそれが正しい事であると信じているし、それこそがジャーナリストの本懐であると思っている。

 だとしたら宇宙海賊であるベルカさん達の信じる『正義』とは何なのだろうか。あの記事が本当ならば、弱きを助け強きを挫く英雄行為をしているのだが、果たしてそれは真実なのだろうか。

 苦悶する僕の心情を見透かすかのようにケイさんは僕に向けて『フィディウス』のシャッターを二度切った。


「ケ、ケイさん……?」


 吐き出された二枚の写真を見つめるケイさんは、僕の顔と写真とを見比べると軽く鼻で笑い飛ばした。


「今ンとこはせいぜい悩んで足掻いてもがいて苦しめ。その苦悩はいつか必ず実を結ぶ」


 その言葉と共に一枚の写真を差し出された。そこには僕が写っていた事には違いないが、ソレは『今の僕』の姿では無かった。


「ケイさん、これ……?」

「未来のお前の姿だ。ま、その未来が近いか遠いかは知らねぇがな。いい顔してんじゃねえか」


 自分で言うのもおかしいけれど、その写真には今よりも幾分か精悍(せいかん)な顔つきをした僕が写っていた。手渡されなかったもう一枚の写真はケイさんの懐に入ってしまったのだが、果たして同じものが写っていたのだろうか。


「あの、もう一枚の写真には何が写っていたんですか?」

「ん? あぁ……いや、同じ物だ。なかなか良く撮れたから記念にな。そんな事よりも……いいか、アスト。俺達は生きていく上で何度も選択を迫られる事がある。これまでも……これからも、だ。間違える事は誰にでもあるし、それは別に恥ずかしい事じゃないし、やり直しも効くだろう。だが、その選択の中でいくつかはとても重要な物がある。それだけは絶対に間違えるな。やり直しは効かねぇと思っておけ」


 不自然なその態度に若干の違和感を覚えたが、ケイさんの真っ直ぐな眼差しに威圧された僕はもう一枚の写真の事は忘れる事にした。

 生きていく上で迫られる選択、か。確かにそれはあらゆる場面で直面するのだろうし、事実、半年前に僕はこれ以上ない程に重要な選択を迫られたものだ。その選択は多分……間違っていないと思う。

 僕の存在理由、存在意義、そして僕が信じる正義は『神器』と共にあるのかも知れない。グツグツと音を立てて煮立っている鍋を眺めながら、僕はそんな事をぼんやりと考えていた。


「人それぞれ、信じるものがあるんですね……」

「ま、そういうこったな。ベルカ達にも守るべきものがある。それが何なのかはアイツらにしか分からない事だろうがな。さ、俺達は美味いカレーを作ろうぜ」

「そうですね」


 本当の正義というものが何なのかはまだ分からないけど、信じるという行為が正義なのかも知れないと僕はそう思った。とにかく今は自分が出来る事をやろうと開き直り、タマネギを切る。




 目にしみる……




 ベルカさん達の『お仕事』は上手くいっているのだろうか。


「そういえば……外はやけに静かですね」

「ま、前回はお前達がいたからな。今回は首尾も上々なんじゃないか?」

「確かにあの時は僕達が……って、それじゃまるで僕達が悪者みたいじゃないですか!」

「悪い悪い、別にそんなつもりじゃなかったんだ。これは俺の勘なんだが、ベルカ達とお前達が出会ったのは偶然なんかじゃねぇと思う。何か……そうだな、使い古された言葉だが運命的なモノが作用したのかも知れねぇ」


 およそケイさんらしくもない言葉だと思ったが、ケイさんがその結論に至った要因は『フィディウス』がもたらしたものなのかも知れない。未来を写すカメラがケイさんに見せた世界には、僕達とベルカさん達がどう写っていたのか物凄く気になる。

 気になるけど……

 運命を受け入れるとあの日決めたから、僕はどんな運命が待ち受けていようとそこから逃げるわけにはいかない。ケイさんが言った運命的なものを喜んで受け入れよう、そう固く決意した僕は、野菜が入った鍋の中に滲み出た灰汁を取り除く作業に集中する事にした。

 これが今やるべき事なのだ。




 本当に僕はこれでいいのだろうか……


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