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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第3章 ディオスクロイは世界を救う?
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第1話 Gender・Chivalrous・THIRF(Ⅲ)

 着信は編集長からだった。中間報告がまだだった事を思い出し、渋々ながら壁面へとプロジェクターを投影させる。壁面には鬱陶しい程にむさ苦しい無精髭を生やした怪しいサングラスのおっさんが、どアップで映し出された。


「ちょ、編集長! モニターに近すぎっ! もっと引いてよ!」

「あ~、めんごめんごぉ~。レイアちゃ~ん、首尾はどう? んっん~、クリスちゃんとシンちゃんはいるけれどぉ~……アスト君の姿が見えないねぇ~? 君達はパートナーなのに一緒に行動しないねぇ。大丈夫なの?」


 モニターの向こうのおっさんに心配されるとは。ま、普通に考えればそうよね。ツーマンセルでの行動が基本のジャーナリストが、一人欠けた状態で別のコンビと行動を共にしているのだから異常事態と言われても反論の余地が無い。


「ん~……話せば長くなるから手短に話すけど、取材現場でクイーン・ベルカ海賊団の襲撃を受けて、アストと取材対象が拉致られちゃったのよ。んで、今からソレを奪還しに行くトコ。アンダスタン?」


 ふ~む、と唸りながら無精髭を生やした顎を擦り、グラサンオヤジは何事かを思案している。このオッサンが考える事って大抵ロクな事じゃないのよね……


「クイーン・ベルカねぇ……な~るほどぉ、そりゃ大変だ。助っ人がいるとは言え少々厳しいかもねぇ……よし、こちらからも助っ人を手配しよう」


 助っ人? 編集長のツテなんて当てにして大丈夫かしら。ま、戦力が増強されるって言うんなら、この際贅沢は言えないけど。


「まぁ、そっちは任せるわ。それよりも……編集長もベルカの事、何か知ってるのね? 教えて頂戴。ついでに……コイツの事もね」


 親指でシンを指し、モニターの向こうの胡散臭いグラサンを睨みつける。いくら恩人とは言え、隠し事をされているのは気分の良いものではない。ロイス編集長はシンの裏の顔を知っているに違いない。アタシの勘がそう言っている。


「ベルカの事については銀河を股にかける宇宙海賊だとしか認識していないけど……シンちゃんの事ならパートナーのクリスちゃんやレイアちゃん達の方が知っているんじゃないのかい?」

「とぼけんじゃないわよ。知ってんでしょ……この二人の事も、シンが裏で何やってんのかも。それが証拠にこの二人の事を『助っ人』って言ったわよねぇ? それってつまり……この二人の事を知ってるって事よね?」


 声のトーンを少しばかり落として揺さぶりをかけると昼行灯(へんしゅうちょう)の眉が微かに動いた。アタシはソレを見逃さない。当然クリスも見逃すハズが無い。


「やっぱりね……レイアのやっすい脅しに掛かってんじゃないわよ」

「やっすい脅しって何よっ!」

「おっとぉ、娘から電話だ、迎えに行かなくっちゃあ~……ん~、そういう事でシンちゃん。後はシクヨロ」

「あ、ちょっと!」


 アタシ達の言い争う姿を横目に白々しい一人芝居を演じた編集長は、シンに全てを丸投げすると一方的に通信を切ってしまった。あのクソボケ昼行灯め、帰ったら覚えてらっしゃい。でも、シンを問い質す大義名分は得た。んっふっふ……尋問ターイム到来、よね。


「あのおっさんの許可も貰ったし、そろそろゲロって貰おうかしら、シン。何でアンタはアタシ達の知らない情報(ネタ)を掴んでいるのか……ま、それはピカちゃんからの情報提供よね。問題は……アンタと編集長がアタシ達に何を隠しているのか、って事。隠し事をするような奴とは一緒に行動なんて出来ないわ」

「そうよね。それにワタシはアンタのパートナーなんだから尚更ね。さっさと吐いて楽になっちゃいなさいな」


 観念した、と言うには晴れやかな表情を見せるシンは、穏やかな口調で静かに語り出した。もしかすると、シンはずっと罪悪感に苛まれていたのかも知れない。アタシ達の知らないシンの顔……アストもきっと知らないであろう彼のもう一つの顔とは何なのだろうか。


「ボクは特別派遣ジャーナリスト『パルティクラール』のメンバーなんだよ」


 パルティクラール────どこかで聞いた名前だ。確か、全銀河のジャーナリストの中でも限られた者だけがその参加資格を得るという組合の名前がソレだったと記憶している。

 シンがパルティクラールのメンバーだという事は確かに驚愕の事実なのだろうが……何だろう、素直に驚けないっつーか、コイツならそれもアリじゃね、みたいな。

 シンは確かに天才だし、アタシ達には到底思いつかない事も飄々とした態度で言い放つ。まぁ、それがシンというヤツなんだと認識していたから新鮮な驚きは無い。


「隠していた事は謝る。だけど、それは編集長の指示でもあるんだ。と言っても、その編集長がああ言ったからには今更隠す必要も無いって事だろうね。ここまで言えば分かると思うけど、編集長もパルティクラールのメンバーだよ」


 ぬわんですってぇ!? 初耳も初耳なんだけどぉ、ソレ! あのおっさんがパルティクラールのメンバーだなんて天が認めてもアタシが認めないわよ! ん、待てよ。


「ねぇ、シン。もしかして……この二人やピカちゃんもそのメンバーって事は無い……わよね?」


 予想はしていた。


「彼等もメンバーだよ。ここまで話したからにはコレも伝えていいのかな……? パルティクラールの創設者はミスターだよ」

「「ミスターが!?」」


 アタシとクリスは揃って声を上げた。なんか恥ずかしい。


「お二人も息ピッタリですね!」

「ちょっとレビさん! 何よ、その当てつけ?」


 ジロッとレビを横目で睨むと、彼女はそそくさとシンの後ろへと身を隠してしまった。やん、可愛い。


「しっかし、編集長がねぇ。そしてまさかのミスターとは……レイア、どう見る?」


 クリスの問い掛けに、レビの機嫌を取ろうと頭をなでなでしていたアタシは何を答えればいいのか一瞬分からなかった。


「どう……って、何が?」

「何が、じゃないわよ! ワタシ達はシンにも編集長にもミスターにも仲間外れにされてたのよ? ムカつかない?」


 え、論点そこ?

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