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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第3章 ディオスクロイは世界を救う?
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第1話 Gender・Chivalrous・THIRF(Ⅱ)

 ピカちゃんが持つ神器『ブック・オブ・ファティマ』の導きにより出会った二人は一癖も二癖もある人物だった。まぁ、癖があるって言うならアタシ達も負けてないけど。

 ん、待てよ。取り次いでくれたピカちゃんもこの二人と何か密な関係があるのではないだろうか、と勘繰ってみる。シンはピカちゃんのみならず、この姉弟とも面識があるのだから、十中八九はコイツが全ての鍵を握っているとみて間違いなさそうだ。


「で、これからどうなるのかしら、シン。聖櫃(アーク)奪還のための目算を聞かせて貰える?」


 天井にぶら下がる小さめのシャンデリアの灯りに薄明るく照らし出される店内の赤い壁が、どことなく妖しげな雰囲気を醸し出している。その僅かな照明を集め、怪しく光る瓶底メガネがアタシ達を見渡し、一呼吸置いてから話しだした。


「……まず、君達のこの惑星に対する認識を改めさせて貰おうか。この惑星プシュケは至聖所、いや、至聖宮によって支配されている。レビさん、至聖宮について何か知っている事は?」


 シンの問いにレビは目を伏せ、淡いピンクの髪をふわふわと揺らし首を横に振る。


「いいえ……何も」

「だろうね。貴女はただ至聖所の管理を任されているだけなのですから。聖櫃(アーク)の管理までは任されていない」

「そんな! あれは正真正銘、本物の聖櫃(アーク)です!」

「じゃあ、あの聖櫃(アーク)の中を実際に見た事はあんの?」


 先程の執事然とした態度とは打って変わり壁に寄り掛かって腕を組んでいるキールが、ちょいツリ目を大きく見開いたレビの反論を強い口調で制した。


「中は……確かに確認した事はありません。でも、あの人は……」

「その『あの人』とは、至聖宮の神官『ルキフ・ロフォ』――通称『L・R』の事ですね?」


 アタシが知らない情報を何故シンは知っている……? シンは一体どこまでの情報(ネタ)を掴んでいるのだろうか。今すぐにでもシンの首根っこを引っ掴んで小一時間問い質してやりたかったが、事の成り行きを眺めていた方が面白そ……いや、得策だ。


「やっぱりL・Rか……んで、シンさん。今回の仕事はその聖櫃(アーク)を取り返してくればいいんでしょ?」


 メイン? 先程の美少女っぷりはどこへ行ったのか、声色は若干低くなり、ゴスロリコスプレしている男の娘にしか見えなくなったんだけど。

 つまりこの姉弟はお店のためにこんな格好をしているのか。そして裏の顔……盗賊としての顔が本来の姿なのだろう。この姉弟の事も気になるが、それよりもまずはこの惑星の実情を知るべきだろう。


「おっけ。取り敢えずピカちゃんの言う通りに事が運んでるのよね? 何だか釈然としないけど。ところでシン。さっき言ってた『至聖宮に支配されている』って話だけどさぁ……それってつまり、良い状況じゃないって事よね。取材対象の聖櫃(アーク)が海賊に略奪されて、会社的には一時撤収も辞さないと思うけど、ウチの社員であるアストまで海賊に拉致られてるこの状況じゃ、おめおめと引き下がる訳にもいかない。じゃあ、どうするか……やるしかないんでしょ?」

「話が早くて助かるよ、レイア。そう言う訳だ、ケイト、タケル。ボナンザから聞いてると思うけど、君達の力を借りたい。宜しく頼むよ」


 ここに来てまたもや聞き慣れない名前が出てきたぞ。まぁ、シンの視線を辿れば分かるけど、それを読めないのがクリスって女なんだよね。


「あのさぁ、シン。ワタシはいいけどレイアやレビちゃんにも解るように、きちんとしっかりとはっきりとがっつりと説明してくれないワケ?」


 こうやって他人に責任をなすりつけるのもクリスの得意技だ。アカデミーの頃からなんら成長の跡を見せてくれない彼女が色んな意味で頼もしい。


「ふむ、そうだね。分かりやすく説明しようか。さっきも言ったけど、彼等の裏の顔は義賊だ。まぁ、こっちが本職なのかも知れないけどね。こちらの姉がケイト・レスタリアで、こちらの弟がタケル・レスタリア、双子の姉弟だ。そしてボナンザ・ピカレスク、本名はミッシェル・ゴリアテと言うんだけど、彼がこの二人に情報をリークしている、言わば元締めだね。そして僕は……彼等の協力者さ」


 姉弟を両隣に呼び寄せ、お決まりの眼鏡を人差し指で押し上げるポーズを取りながら冗長と語るシン。何だか裏のあるヤツだとは思っていたけど、そういう事ね。まだ他にも隠してそうだけど、今はまぁいいわ。


「クリスさん、納得頂けて?」

「ぜーんぜんですわ、レイアさん。でも、納得するしかないんでしょ? 今やるべき事は、彼等と協力して聖櫃(アーク)とアストっちを海賊達から奪還するミッションをコンプリートする、でしょ」

「ま、そゆことね。レビさん、状況把握おっけ?」


 ぽかーんと口を開けたまま直立不動の型を崩さないレビのスリープ状態を解き、改めてシンを問い質す事にした。


「さて……と。これからどうするつもり? まさか、この二人を連れてベルカ達と真っ向勝負を仕掛けるつもり? ま、そうなんでしょうけど。てゆーか、ホントに大丈夫なの? ケイトにタケルって言ったっけ。アンタ達……本当にあの海賊達を相手にできんの?」


 アタシ達がこれから相対するのは非道を極めた宇宙海賊だ。あのベルカというヤツは己の目的を果たすためならナノミクロンの躊躇を見せる事なく蹂躙するようなヤツだ。アイツの本当の目的が何なのか……今はまだ分からないけど、下手を打てば命の砂時計を砕かれてしまうかもしれない。しかし、そんな思いは杞憂に終わる。


「レイアさん。私達の事を気遣って頂けるのは嬉しいのですが、それには及びません」

「ケイトの言う通り。何故なら僕らは……」


 腕組み状態のまま背中合わせに並び立つと、突然照明が落ち、次の瞬間何故か姉弟がスポットライトに包まれる。よく見ると、二人の目元は白と黒のマスクで隠されている。


「この世に埋れたお宝ならば、拾ってやるのが世の情け!」

「東西南北銀河の果てまで、言ってみようかGoing・My・Way!」

「それが大事なお宝ならば、あるべき場所に戻すが常理!」

「「ボクらに盗めぬ物は無い! 二人は怪盗『マスケレジーナ』ソイツはボクらがriguadagnare(リグアダニャーレ)!」」


 さすがは双子、掛け合いの息もぴったり合っていて見事なまでのコラボレーションだ。きっと何回もリハーサルしたんだろーなー……てゆーか、何よコレ。なんで紙吹雪が落ちてくんのよ。

 呆気に取られたアタシは、モバイルに着信が入った事にしばらく気付けずにいた。

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