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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第3章 ディオスクロイは世界を救う?
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第1話 Gender・Chivalrous・THIRF(Ⅰ)

 一路『オム・ファム』へと向かうが、アタシの心の中は不安オンリーだ。いくらピカちゃんの『ブック・オブ・ファティマ』が示したとは言え、海賊を相手にするために盗賊の手を借りるってやっぱりおかしい気がする。

 海賊も盗賊も目くそ鼻くそでしょ? あれ、違う? だって、やってる事は大差ないじゃない? あれ、これも違う? あーもー、何が何だか分かんなくなってきたわ……


「ちょっと、シン! アンタは知ってんでしょ? も一回きちんとちゃんとしっかりとがっつりとはっきりと説明してくんない?」

「文句が多いね、レイア。まぁ、君が何を言いたいのかは分かるけど。これから向かう『オム・ファム』で出会う彼等はただの盗賊じゃない。いわゆる『義賊』ってヤツだ。世のため人のため、ってね」


 義賊、ねぇ……胡散くさ。そんなモンに頼らなきゃならない程にこの街は落ちぶれている訳じゃ無いでしょうに。それに、今どき義賊なんて流行らないし、時代錯誤も甚だしい。


「ハッ! 世のため人のためぇ? 困ってる人はほっとけないってぇ? ここに困ってる人がいるんだけどぉ? 無償で誰かを助けるなんて随分と崇高なボランティア精神ね。そんけーするわー」

「アンタ……それ、絶対に尊敬してないでしょ」

「当たり前じゃない。世の中ギブ・アンド・テイクよ? 自己の利に成り得ないモノの為に自己を犠牲になんて出来る訳ないじゃない」


 別にアタシの考えが万人共通だなんてこれっぽっちも思っちゃいない。むしろ少数派意見だとさえ思っている。クリスやシン達の方が多数派意見なんだろうね、きっと。とは言えど、その実、何が正しいのかなんて誰にも分からないのかも知れない。

 そうこうしている内に、アタシ達は目的地である『オム・ファム』へと辿り着いた。ピカちゃんが事前に先方へ連絡を入れてくれていると言う事を信じて扉を開く。

 そこには……


「やぁ、いらっしゃい。紳士淑女が集う憩いの場『オム・ファム』へようこそ。今宵は心ゆくまで、ここでその疲れた羽を休ませていって下さいませ」


 アタシには解る。無駄に派手なオーバーアクションを披露した後、(ひざまず)いて出迎えてくれたイケメンが『男装の麗人』である、と言う事は。

 何だかよく解んないけど、彼女(彼?)に聞いてみよう。


「え~っと……アナタがメイン・レスタリア……なのかしら?」


 男装の麗人は無駄に大きくかぶりを振り、大袈裟なジェスチャー付きで否定する。


「申し遅れました。私はキール・レスタリア。メイン・レスタリアは私の『妹』です」


 妹と来たかぁ……これは面倒臭い事になりそうだわ……アタシ、こういうノリは好きになれないのよね。

 キールと名乗った彼――だか彼女だか分かんないけど――は、確かに見目麗しく、妖艶な雰囲気を醸し出している。中世的な美しさがあり、美少女と言うよりは美少年と言った方が正しいような気さえする。


「キール、久しぶりだね」


 軽く手を挙げたシンがキールに話しかけると、キールは僅かに表情を崩してシンの手を両手で握る。


「シンさん! お久しぶりです。こちらにいらしてたのですか?」


 シンはアタシ達の紹介がてら経緯を説明し、二人に会いに来た事をキールに伝えた。


「メインにも用があるのですか? ただいま呼んで参ります」


 スッと立ち上がり、一礼するなり(きびす)を返したキールは背筋を伸ばし、ランウェイを歩くスーパーモデルの如く颯爽(さっそう)と店の奥へと消えていった。


「はあぁぁん、キール様ぁ……お麗しゅうございますぅ……」

「バカ言ってんじゃないわよ、クリス。アレは女よ、オ・ン・ナ。男じゃないんだから……つーか、イケメンだったら何でもいいっての?」

「当たり前じゃない」

「当たり前なんかいっ!」


 さも当然の様に答えるクリスをド突き廻してやろうかと思ったが、クリスの後ろで(ほう)けているレビの顔が視界に入り込んで来たので止めた。


「まさか……レビさんも……?」

「あ、いえ、私は……ただ、美しい方だなぁと思って……あの方もオカマ様なのですか?」


 否定すべきか悩んだが、やっぱりやんわりと否定しておく事にした。案の定レビは納得いかない表情のまま腕組みする。


「人間って奥が深い生き物ですね……」

「それについては反論の余地が無いわ……」

「確かに……ね」


 ドラゴン族の方が遥かに謎の多い種族だと思うけど、それは言わないでおこう。人間だって十分に謎多き生き物だ。


「確かにアンタ達はそうかもね。ワタシなんて本能の赴くままに生きてるしぃ。こんなに分かりやすい人間なんてそうそういないわよぉ?」

「自分で言うかね……」

「アンタの場合は底が浅いって言うのよ」


 こういう人間(クリス)もいる事だし……


「お待たせいたしました。妹を連れて参りました」


 店の奥からキールともう一人、黒と赤を基調としたゴシック系ファッションに身を包んだ女性……いや、待て待て騙されるな。『彼女』は『彼』だ。しかし……確かに可愛い。おそらく、キールがちゃんと女性らしくしたらこうなるんだろうし、メインが男性らしくしたらキールになるのかも知れない。


「あの……私に用があるって……」

「やぁ、メイン。久しぶりだね」

「シンさん! お久しぶりです。いつこちらにいらしたのですか?」


 このやりとり、さっきも見たわ。違うのはメインがシンに抱きついている事くらいか……

 シンとこの二人の関係性ってなんなのかしら。

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