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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第2章 合縁奇縁は鋼鉄(はがね)のキズナ?
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第2話 MAGIC・OF・journalist(Ⅰ)

 海賊船『アルテミシア』へと潜入した……と言えば聞こえはいいが、その実情はただの人質、いや、小間使いと言った方が良いかも知れない。僕が宇宙海賊達に連れて来させられた先は……


「ホラホラ、ボサっとしてんじゃないよ! タマネギの皮むきが終ったらくし形切りにするんだよ! その次はジャガイモ、ニンジン、牛肉……仕込みが終わったら調理に取り掛かるんだよっ!」


 僕の隣では見知らぬ男性が寸胴鍋の火加減を見ながら、タマネギをフライパンで炒めている。

 鉄と埃の臭いに囲まれていたデッキとは違い、香辛料や野菜の自然の匂いが辺りを包み込むここは……厨房……だよな。

 そして、今日の夕食はカレー……だろうか。


「ケイ! そろそろ鍋も煮立ってきたんじゃないか? ライスは炊いてんのか?」

「はいはい……ちゃんと準備は出来てますよ。まったく、人使いが荒いんだから」

「何か言ったかい?」

「いーえ、別に。あなた達を取材させて貰っているんですから。これくらいはやらせて頂きますよ」


 ケイと呼ばれた黒髪の男性は、要領よく手と口をせわしなく動かしている。


「オメェ、その鬱陶しい前髪は何とかなんねぇのかよ?」


 アルヴィが言うようにケイさんの前髪はその左目付近を覆い隠していた。そして先程の発言から彼もジャーナリストであろう事が窺い知れた。とゆーか、海賊を取材しているとは一体どういう事だろう。


「あ、あの、あなたもジャーナリストなんです……よね? 何故、彼女達を取材しているんですか?」

「アスト! 喋ってねぇで手を動かせっ!」


 ベルカに一喝されてしまったが、そもそも僕達が何故カレーを作らされているのか解らない。


「まあまあ。仕込みは片付いたし、ちょっとくらいなら良いじゃないですか。俺はケイ、フリーのジャーナリストだよ。君もジャーナリストなのか……何処かの出版社に所属しているのかな?」


 ウェストポーチから取り出し、手渡してきた名刺には『フリー・ジャーナリスト ケイ』と書かれていた。

 フリー・ジャーナリスト……出版社に所属して、入手した情報を取材して記事にまとめ上げる僕達とは違い、彼等は自分達の足で情報を探し出し、書き上げた記事をあちこちの出版社に買い取って貰ったり、名前の売れている人ならば出版社側から依頼される事もあるそうだ。

 僕も社会人のマナー(?)として自分の名刺を彼に渡した。


「これはどうもご丁寧に。ふーん……ロイスさんのトコかぁ」

「えっ、編集長を知ってるんですか?」

「確か五、六年前だったかな……ロイスさんから仕事の依頼を受けた事があってね」


 胸元のネックレスの飾り――金の十字架を模している――を指でピンッと弾きながら答えるケイさんのその風貌から、シンさんと同年代かと思っていたのだが、今の話が本当ならシンさんよりも年上なのだろうか。

 彼の年齢は確かに気になったのだが、それ以上に目を引くのは、腰の辺りに収納されている通常よりも大きめの望遠レンズを付けたカメラだった。

 外見的な特徴といえばそれくらいなのだが、何故だか分からないけど僕はそれ以外の『何か』を感じた。何だろう……この違和感。


「あの……そのカメラは?」

「ん? あぁ、これかい? コイツは俺の相棒だよ。コイツと共に俺はあちこち飛び回っているからな。俺はフリー・ジャーナリスト兼フリー・カメラマンだからね」


 そう言って取り出したカメラを持ったままウインクする姿はまるでファッションモデルのように様になっていた。背も僕より10センチ程高いし、ホントにモデルもやってたりして……


「ほらほら、口より手を動かしなっ! これからまだひと仕事あるんだから、その前に腹ごしらえしとかなきゃなんねぇんだよ!」

「これからまた?」

「そうだよ。アタシらの仕事はいつ何時だってやるモンなんだよ」

「ま、お頭の気分次第だけどな」


 ベルカの口上に横やりを入れたアルヴィが鉄拳制裁を受けたのは言うまでもない。


 しかし解らないのは、彼女達を取材しているというケイさんがこの海賊行為をどう思っているのか、そして何故彼女達を取材しているのか、だ。

 普通に考えればケイさんの行動は犯罪行為を黙認していると捉えられてもおかしくない。そしてそれは、ジャーナリズムの精神に反する事になりかねない。いくらフリーの立場といえども、それは許されるべき行動だとは思えない。

 煮立った鍋の中に固形ルーと野菜と肉を入れ、鼻歌交じりでゆっくりとかき混ぜているケイさんの姿からは悪心(あくしん)のカケラも感じる事は出来ない。てゆーか、ただの主夫にしか見えない。いつの間にかピンクのエプロンを着けていた事にちょっとびっくりしたが。


「とにかく、早く調理に戻んなっ! あと三分だけ待ってやる」

「そんな無茶な!」


 出来上がるまでは少なくともあと三十分は掛かる。てゆーか、カレーが一番美味しくなるのは二日目ってのが定番なんだけどなぁ。彼女達は食べられるならば何でもいい……んだろうな、きっと。

 とは言うものの、やっぱりベルカの注文には無理がアリアリだという事は火を見るより明らかだ。こんな時に時間を止められれば……そう思いルードの指輪を見つめた瞬間だった。


『メンテナンス完了のお知らせです』


「ふえっ!?」


 唐突に頭の中に響いた声に驚いたが、これはもしかしたら……


────メンテナンスが終わったって事は、神器の力が使えるって事?


『はい、お待たせいたしました、マイ・マスター』


────じゃあ、早速だけどよろしく頼むよ。


『ラジャー、マイ・マスター』


 時の流れを止めた今なら三分を三十分にする事も可能だ。ケイさんには悪いけど、今の内に調理を済ませてしまおう。そうだ、どうせ作るなら美味しい方が良いに決まっている。


「隠し味になりそうな物は何かないかなぁ」


 キッチン周りの戸棚を探っていると……


「隠し味ならやっぱりチョコレートだろうね。お、こんな所にアーモンドがあるな。よし、細かく砕いて入れよう。コイツを入れると香ばしくなるしビタミンの補給にもなるだろう」


 背後から聞こえてきた声に恐る恐る振り向くと、そこには僕と同じくキッチン周りを漁っているケイさんの姿があった。


「な……何で……?」

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