第1話 BOY・GIRL・neutral?(Ⅳ)
ボナンザ・ピカレスク……彼女は神器持ちだった。
「この本は『ブック・オブ・ファティマ』って言ってね、アチシの家に代々伝わっているのよン♪ こうやって、ページに向かって念を送れば知りたい事を何でも教えてくれるのよン♪」
ウェブ・ディクショナリー要らないじゃない、そんなの。
ページに現れた文字をクリスが読み上げる。
「えーっと……三番街の『喫茶ロミング』の特製カフェ・オ・レがイチオシ……何これ?」
「レイアちゃんの念が浮かび上がっちゃったのね、ウフフ……」
マヂでか……迂闊な事は考えられないわね、こりゃ。
「あそこのカフェ・オ・レは絶品よン♪ でもでもぉ、アチシは紅茶派なんだけどねン♪ ま、こんな感じで、アナタ達が知りたい事はこの『ブック・オブ・ファティマ』に投影されるのよン♪」
ピカちゃんの言葉にいち早く反応を示したのはやはりと言うべきかクリスだった。
「えぇぇ~!? マジでぇっ? じゃあさ、じゃあさ、この惑星で一番のイケメンは誰なの? ね、ね、ね? 教えてぇ~ん♪」
そう言ってクリスは『ブック・オブ・ファティマ』を抱き抱える。って、何しとんじゃい!
「あ、出た出た♪ えっとなになに……十一番街の『オム・ファム』にいるメイン・レスタリアがイケメン……ふむふむ。さ、行くわよ!」
見える……鼻息を荒らげているクリスの瞳の中にハートマークが……見える。何でまだ会った事も無い男に惚れる事が出来るんだ、コイツは……
「あらン? メインがこの惑星で一番のイケメン? ん~……まぁ、確かにそうかもねぇン。でも……」
「でも?」
「そんな細かい事はどうでもいいじゃない。早く行きましょ♪」
細かくは無いし、そもそも会いに行く理由が無い。先を急がなければならないし、アタシ達のやり取りを見て先程からずっとレビは神経質そうに腕組みをしたまま爪先を上下させているし。
「申し訳ありませんが、私達は聖櫃を奪還しなければならないのです。そんな事のためにここに来たのでは無いのですが?」
アタシも同意見なのだけれど……うん……なんかごめんなさい。
「でも、その『ブック・オブ・ファティマ』に現れた文字が示す事は絶対なのよン? つまり、アナタ達が次に目指す場所は『オム・ファム』って訳ねン♪」
どうにも怪しい。そもそも『メイン』という名前は男性名では無いような気がする。邪推なのかもしれないけど。つーか、クリスが絡んでくるとロクな事が起きないんだよなぁ……まぁ、それは今に始まった事でもないんだけど。
「しゃーないわね……」
ガシガシと頭を掻きながらアタシはその『彼』に会う事を決め込んだ。
「ごめんね、レビさん。神器の所持者がこう言うからには、きっとアタシ達にとってマイナスには働かないハズよ。それに移動手段の確保も出来ていないし」
「では、そこに行けば移動手段の確保が出来ると言う保証があるのです?」
そう言われると答えに詰まる。進退窮まれりと思ったが、ここでシンからの助け船がどんぶらことやってきた。
「先程から『レスタリア』と言う名が引っかかっていたんだが……ボナンザ、その『メイン・レスタリア』って言うのはもしかして……?」
「あ、やっぱりシンちゃんには解っちゃう感じぃ~?」
シンには解っちゃう感じでもアタシ達には解っちゃわない感じなのぉ。モヤモヤしたこの思いをジト目に託してシンへと届けてみる。
「もしかしたんでしょ? 誰なのよ?」
「彼等は……『盗賊』だ」
ん、無事届いた。って、盗賊だぁ!? 海賊相手に盗賊の手を借りるっての? なんか色々おかしくない、それ? つーか、海賊と盗賊って同業者みたいなモンじゃないの? つーか……
「シン……今、彼『等』って言った? ねぇ? 言ったよね?」
「うん、確かに言ったわよね?」
「私もはっきりと聞き取りました」
「あ~らら……これはもう言い逃れ出来ないわねン♪」
さ、美女4人(?)に四方を囲まれた瓶底メガネはどう出る? ピカちゃんの言うように言い逃れは出来ないわよね。しかし、この男はその有り得ない程の知能を遺憾なく発揮するのだった。
「何故尋問されているのか解らないけど、ボクはその『ブック・オブ・ファティマ』が示した通り、イケメンである彼の事を言ったまでだ。イケメンである以上、それは男だろう? ボクはそこに示された情報について補足したまでだ。彼の名前は『メイン・レスタリア』なんて女性のような名前じゃ無かったと記憶しているから、てっきり彼の双子の姉の事だと思ったんだよ。だから『彼等』と言ったまでだよ」
ふむ。一応の得心は得た。だが、疑問はまだ残っている。
「その双子の姉弟が盗賊だってのはどういう事よ?」
「それについては直接会った方がいいかも知れないわねン♪」
アタシの疑問にピカちゃんが答える。そうか、ピカちゃんも知っていても不思議ではないか。
「あの子達に会いに行くんでしょ? だったらアチシが話を付けておいてあげるわ。詳しい事はあの子達に直接聞いたら?」
怪しげな含み笑いに若干の違和感を覚えたが、今はそれを気にしている余裕は毛ほども無い。聖櫃もだが、何よりもアタシのパートナーの安否が気遣われる状況なのだ。平静を装っていても、やはり焦りは滲み出てしまう。事実、クリスにはしっかりと見抜かれてしまったようでアタシの手を握ってくれた。
待っててね、アスト。アンタはアタシが必ず助けてあげるから。




