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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第2章 合縁奇縁は鋼鉄(はがね)のキズナ?
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第1話 BOY・GIRL・neutral?(Ⅲ)

「それで……ココに来たって事は何か事情があるんでしょ、シンちゃん?」


 ピカちゃんからのご指名を受けたシンの表情は相も変わらず険しいままだ。


「ボナンザ・ピカレスク……いや、ミッシェル・ゴリアテ。君の力を借りたい」

「ちょっとぉ! その名前で呼ばないでくれるぅ? アチシのお名前はボナンザ・ピカレスクなのぉ」


 右手で左の二の腕辺りを掴み左の掌をお辞儀させる、アチラの方特有のポーズを取るピカちゃんのその仕草を見る限りでは、まぁ、本物なんだろうな……この人。

 つーか、ホントにこの人が『裏の情報屋』なのか(はなは)だ疑問だわ……


「そこの金髪のアナタ、アチシの事を疑ってるわねン?」


 うげっ、バレた。


「心配しなくても大丈夫よン♪ アチシの情報は正確無比なんだからぁン♪ も・ち・ろ・ん……占いの方もねン」

「は……はぁ……」


 ヤバい……気圧(けお)されてる。つーか、ピカちゃんの持つ独特のオーラに飲まれかかっているわね。この状況はあんまりよろしくない。


「確かにアタシはアナタの事を完全に信用してはいないわ。たとえシンの知り合いだとしてもね。でも、それは占い師としても情報屋としてもアナタの事をまだ何も知らないのだから、疑ってかかるのが当然じゃないかしら?」

「それはそうね。アチシがアナタの立場だったらそう答えるわ。アナタ……なかなかいい女じゃない? 気に入ったわよン♪」


 満面の笑みを浮かべアタシの顔を覗き込んでくるピカちゃんに多少なりとも面食らったが、不思議と嫌な気はしなかった。それは多分、彼……いや、彼女が悪い人間じゃないからだと直感したからだろう。

 フェイやDOOMにも同じような事をやられたが、あの時は背筋に空寒いモノを感じた。思い出したくもない記憶を手繰り寄せてしまったアタシは、あの悪夢を払拭する様に頭を振った。


「取り敢えず、ピカちゃんってお呼びすればいいのかしら?」

「ンもう、他人行儀はノンノン♪ こうやってお知り合いになれたんだから、もうアチシ達はお友達なのよン♪」


 そう言ってアタシの手を握ってくる彼女(と呼ぶ事に、もはや抵抗は無い)に対して嫌悪感などは無い。アタシに続いてクリスに、そしてレビに対しても同じように手を握るピカちゃんのなんと(たくま)しい事か……

 逞しい、というのはピカちゃんのハートの強さの事であり、二の腕の逞しさでは無い事は彼女の名誉のために言っておこう。クリスと良い勝負が出来るくらいに彼女は身も心も『女』なのだから。





 ……悔しいけどアタシ以上に。




「ボクは『ピカちゃん』なんてナンセンスな呼び方はしたくないから、今まで通り『ボナンザ』と呼ばせてもらうよ。と言うか、話が横道に逸れ過ぎだ。ボナンザ……一つ頼まれて欲しいんだが」

「そう言えばそんな事を言ってたわよね? な~に? シンちゃんがアチシに頼み事だなんて……ま、占うまでも無く大体の想像はついてるんだけどねン♪」


 透明な丸テーブルに両手で頬杖をつくピカちゃんは、不敵な笑みを湛えたまま真っ直ぐにシンの目を捉える。にやけた口元とは対照的に鋭く光るその目は一体何を捉えているのだろうか。


「君を出し抜くつもりはさらさら無いよ。君に調べて欲しい事があるんだ」

「あら、調べ物だなんて珍しいわね?」


 声を上ずらせたピカちゃんは、目を輝かせながら隣室の書庫へと足を向かわせる。


「で、何を知りたいのぉ?」


 書棚に眠る膨大な資料を漁り出すピカちゃんにアタシはもちろん、クリスも違和感を隠せなかった。


「ねえ、ピカちゃん? ふつーに調べ物をするんだったら『ウェブ・ディクショナリー』で十分じゃないの?」


 アタシ達も記事を書く時や、ちょっとした調べ物をする際にはよくお世話になるのだが、PCやモバイルでも閲覧可能な『ウェブ・ディクショナリー』で十分な資料を得る事が可能だ。


「ノンノン♪ シンちゃんが……いえ、アナタ達が知りたがってる事は『ウェブ・ディクショナリー』にはまだアップロードされてないわよン」

「まだアップロードされていない事……? アタシ達が知りたがってる事って、つーか、シンがここに連れてきた訳だし……」

「ちょっと、シン! アナタ、一体何を調べるつもりなのよ?」

「何って……クイーン・ベルカ海賊団の足取りに決まってるじゃないか」


 事も無げにサラリと言い放つシンのあっけらかんとした表情にアタシとクリスは一気に脱力し、レビは何故か期待に満ち溢れた表情で目をキラキラと輝かせていた。


「と言う事は聖櫃(アーク)を取り戻す算段がついたのですね!?」

「まあ、そう言う事ですね。それと、移動手段の確保だ。今回はシャトル便で来たからボク達が自由に行動出来るようにしないと話にならないだろう?」


 確かにシンの言う事には一理ある。まだ不安が完全に払拭出来た訳ではないが、ここはシンに任せておこう。

 程なくしてピカちゃんが一冊の分厚い本を手に書庫から戻ってきた。


「さて、と。アナタ達が知りたいのは……これね」


 開かれたページを覗き込むが、そこには何も書かれておらず、まっさらな白紙状態だった。


「え? ちょ、これ、何にも書かれてないじゃないの?」

「待って、クリス! コレ……よく見て!」


 確かに最初は白紙だった。しかし、暫くすると次第に文字が浮かび上がってきた。あぶり出し等では無い。その証拠に、その文字達は自我を持ったかのように紙面のいたる所を縦横無尽に泳ぎ回り、文章を構築していったのだ。


「ピカちゃん……もしかしてこの本って……?」

「そ、神器よン♪」




 シンがアタシ達をここに連れてきた理由がちょび分かった気がする……

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