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iDENTITY RAISOND’ETRE 第二部 ~聖櫃の行方~   作者: 来阿頼亜
第2章 合縁奇縁は鋼鉄(はがね)のキズナ?
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第1話 BOY・GIRL・neutral?(Ⅰ)

 聖櫃(アーク)を目の前で強奪され、あまつさえ神器(アスト)さえも略奪されてしまった。このレイア・ルシールともあろう者が不覚をとったわ……って、何かこれ、悪役のセリフっぽいわね。


「それにしてもベルカ・テウタ……あの女狐(めぎつね)め。まんまとやられたわ」


 おそらくベルカはアタシ達を殺そうなんてつもりは毛頭無かったのだろう。確かに至聖所は甚大な被害を(こうむ)ったが、人的な被害は皆無だった。通常ならば宇宙海賊に襲われるような事態に直面しようものなら五体満足で済むはずが無い。


「確かに……彼女達は宇宙海賊っぽくは無かったね。むしろ旅のお笑い芸人、と言ったところかな?」

「旅のお笑い芸人が至聖所を荒らしたと言うのですか!? 許せません……断じて許せませんっ!」


 シンの言葉を真に受けてしまったレビは、目を見開き拳を震わせ怒りをあらわにしている。うん、それ、勘違い……だよ。


「レイアさん、皆さん、お願いがあります!」


 うん、そういう流れになるよね。展開が読めてるよぉ。


聖櫃(アーク)を……あの旅のお笑い芸人から取り戻してください! お願いします!」


 あの女狐(めぎつね)達、すっかりお笑い芸人扱いされちゃってるなぁ。ま、アタシの知ったこっちゃないけど。それに、聖櫃(アーク)を奪われる事はアタシ達にも無関係な話ではないと言ったレビの言葉も気になるし。

 重大な秘密……ねぇ……一体何が隠されているのやら……


「レイア……どうするの?」

「どうするのったって、やるしかないでしょ」

「おそらくアスト君は無事だろうけど、あの海賊達がどこへ向かったのか分かるのかい?」




 ……あ。




「……S・P・Sで追える……かなぁ?」


 アタシ達ジャーナリストは、往々にして危険な取材に赴く事もままある。今回の一件はその顕著な例であり、パートナーとはぐれるなんて事も日常茶飯事。そんな時に頼りになるアイテムと言えばモバイルだ。通信、通話はもちろん、今回のようにはぐれた場合にも、お互いの居場所を確認出来るように『(スペース・)P(ポジショニング・)(システム)』が搭載されている。

 という訳で、ハンドバッグからモバイルを取り出……あ。


「しまったぁぁぁっ! アタシのハンドバッグ、アストが持ってたんだったぁぁぁ!」


 アシスタント兼荷物持ちのアストに預けていた事をすっかり忘れていたわ……


「アンタさぁ……いい加減、私物くらい自分で持ちなさいよね」

「……うん、そーする……」

「そういうのを世間ではパワハラって言うんだけどね……」

「それはっ……そう……なの……かな……」


 え、これパワハラに該当するの……


「ってゆーかさぁ、アンタ達のモバイルで追えないの?」


 アタシのモバイルはアストが持っているけど、シンとクリスも所持している。同じように会社から支給されているのだから、アストの情報も登録されているだろう。


「もちろん登録されているし、既に捜索しているよ。それじゃ、行こうか」

「相手は海賊船に乗っているから、さすがに移動が速いわね……ねえ、シン。追いつけるの、コレ?」


 アタシの事は……? ねぇ?


「追いつけるかどうかは分からないけど、行かなきゃね」

「ま、そうよね……そーゆーわけだから、レイア。急ぎましょ」


 んんー、何か話の流れがおかしくない、これ? いや、確かにアタシも悪いけどさぁ……でも、本当に悪いのは、あの『お笑い芸人達』だからね。

 これはもうアタシの名誉を挽回しなきゃならないわね。注がれた汚名はキッチリと返上する……これ、アタシのポリシーね。


「クリス、シン、やるわよ! レビさん、そーゆーワケだからその依頼、アタシ達『ロイス・ジャーナル』が引き受けたわ」

「もうジャーナリストの仕事の範疇(はんちゅう)を超えているけどね」

「まぁまぁ、取材だと思えばいいじゃないの」


 アタシはアタシの名誉のためだけにやるわよ。そのついでに――あくまでもその『ついで』よ――

聖櫃(アーク)奪還の依頼を受けるだけ。そして……アタシの大事な荷物持(アスト)ちを返して貰うだけ。




 それだけよ。




「綺麗な星ね」


 高層ビルの隙間から覗き見上げる星達の瞬きは、人工的に作り出された光を哀れむかのように、その輝きを誇らしげに放っている。

 確かにその星はそこに存在しているのだ。

 いや、もしかしたらもう存在していないのかも知れない。

 ベルカ達も『宇宙海賊』として、自らの存在を世間に知らしめている。

 なのに、アタシ達はどうだ。我が『ロイス・ジャーナル』はいつまでも二流以下の弱小出版社のままでいいのだろうか。

 ……いや、いいわけが無い。

 アタシ達がジャーナリストであるために、ジャーナリストとしての存在意義を示さなくちゃならない。

 あの星達にも、宇宙海賊にも負けたままではいられない。


「そう言えばこの『惑星プシュケ』には、ボクの知り合いの『裏の情報屋』が住んでいるんだが……会ってみるかい?」

「何よ、その『裏の情報屋』って? ミスターみたいな感じ?」


 ミスターとはアタシ達がお世話になっている情報屋なのだが、その素性の一切が謎に包まれており、アタシ達は誰もミスターの正体を知らない。編集長(タヌキオヤジ)は何かを知っているようだけど……


「うーん……ミスターとはちょっと違うタイプだけど……まぁ、その情報の正確さは保証するよ。ただ……」


 シンの表情はそのまま生気を失ったかのように曇っていった。




 何よ、この嫌な予感は……

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