第2話 Purification・of・DESTINY(Ⅳ)
どれくらいの時間が経ったのだろうか。ご丁寧にも程があるとしか思えないのだが、手錠と足枷をはめられ艦橋甲板のマストに縛り付けられた僕は、悠然と空を翔ける『アルテミシア』の船首にて腕組みをしながら真っ直ぐに前を見るベルカの、風になびくパンキッシュピンクのロングヘアーをただ呆然と眺めていた。
僕の選択は果たして本当に正しかったのだろうか。現状の僕の姿を見る限り、正しいとは思えないんだけど……
「あの……これから僕はどうなるんですか……?」
恐る恐る訊ねてみる。が……
「お宝が勝手に喋んじゃねえっ!」
一喝されてしまった……どうやら僕は『捕虜』や『奴隷』等ではなく『お宝』扱いのようだ。『お宝』と呼ばれるのは悪くない気分だったが、よくよく考えてみるとそれはもはや、人として扱って貰えていない事に気が付いた。言葉を発する権利も無いのか……
そして、イライラ全開マックスなベルカのまわりにはアルヴィ、リオ、グレイの3人が背筋をピンッと伸ばしたまま正座させられていた。どうやら、ベルカのイライラ全開マックスの原因は彼女達にあるようだ。
「お頭ぁ~……もう勘弁して下さいよぉ~……」
「お頭じゃねぇっつってんだろーがっ!」
「船長ぉ~……後生やわぁ~……」
「だーかーらーっ! いい加減アタシの言う通りにしろっ!」
「……ボス、もう諦めた方が良いんじゃ?」
「何でアタシがお前らの言う事を聞かなきゃならない? 逆だろーがっ!? お前ら、分かってんのか?」
宇宙海賊ってもっと怖いイメージだったけれど、この人達を見る限りではその印象は皆無だ。
「ったく……お前らみたいな手下を持つと気苦労が絶えないねぇ。おい、アスト。お前んトコもこんな感じなのかい?」
「……」
さっき喋るなと言われたからには、ここで口を開くとまたドヤされるに違いない。
「こーゆー時は喋っていいんだよっ!」
……理不尽だ。
「……で、どうなんだい?」
「海賊とジャーナリストを比べても仕方ないと思うんですけど……でも、僕達は僕達のやるべき事をやっているつもりですよ。まぁ、たまに先走っちゃって編集長が頭を抱えたりしてますけど……楽しいですよ」
「そりゃ下っ端は気楽なモンだろうよ。さしずめアタシゃ、その編集長の立場なのかねぇ……」
そう言うとベルカは、キセルを銜え紫煙を空へ向けて吐き出す。
「お前達……分かってんだろうね? アタシらが何で『お宝』を集めてんのか。今までアタシが無意味な事を一度でもやった事があるかい?」
正座したままの3人を見渡すベルカ。いつまで正座させられるのか……ウチの会社では絶対に見る事のない光景だ。
「え~っとぉ……多分、無いと思いますけどぉ~?」
「リオ、お前……何であさっての方向を向いたまま言ってんだ?」
僕にはどうしてもベルカ達が悪人だとは思えない。雰囲気がレイアさんに似ているから……とか、そう言う事は関係無く、そもそも何故彼女達が宇宙海賊などをやっているのか、それが不思議でならない。
至聖所での一件でも、きっとベルカは僕達を本気で殺そうとしていなかったのではないかと、今ではそう思えてならない。僕は彼女達にバレないように、そっとお尻のポケットに忍ばせておいたマイクロハンディレコーダーのスイッチを入れた。
「ベルカさん……ベルカさんは何故、宇宙海賊になったんですか?」
僅かでも情報を聞き出さなければジャーナリストの名折れだ。
これはチャンスだ。ここで何も得られなければ、それこそレイアさんにフルボッコにされるだろう。
「いきなり何だい? お前……自分の立場を分かってんのかい? ったく……ジャーナリストって奴はどいつもこいつも同じだねぇ。アイツも同じ事を聞いてきたぜ……」
アイツとは誰の事だろうか。しかも同業者なのか。
「ベルカさん、アイツってのは一体……?」
「会いたきゃ会わせてやるよ。ま、どの道お前もソコに行くんだけどな」
「え……? それってどういう……」
「つべこべ言うなっ! お前もこの『アルテミシア』に乗っているからには……しっかりと働いて貰うからな」
は、働く……てゆーか、乗りたくて乗っている訳じゃないんだけどなぁ……って、『お前ら』って事は、その同業者らしき『アイツ』もこのアルテミシアに乗っていると言う事なのかな……
「グレイ、アストの枷を外してやんな。アルヴィ、アイツは調理場に居んのかい?」
グレイに手錠と足枷を外して貰った僕は、ベルカに手を引かれるがままにソコへと連れていかれた。
僕の目の前にあるであろうこの道は、一体どこへ続いているのだろうか。そして、僕の運命の歯車は正常に回っているのだろうか。この運命は……
受け入れなきゃいけないのかなぁ……