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閃光  作者: 紘暢
9/13

「僕をなんだと思ってたのさ……」

 おかしい。ロースレントを出て十日は経ったのに、一度も幻光石を見つけ出せないとは。ロースレントから盗まれた幻光石。月でないと分からない光る石。盗んだとしても、その者にとってはどう見てもただの石だ。もちろん他人が見ても石だから金にはならない。たから持っていても無駄なはず。なのに、どこを見回らしても光どころか気配すら感じないのはおかしい。


 ……まさか、この大陸から離れたのか……?


 もし、そうなら他の大陸に行かなくてはならなくなる。名目上は幻光石を集める目的で港町まで向かっているが、実際は盗まれた幻光石を取り戻すためだった為、この大陸にあると勝手に考えていた。それが間違っていたというのだろうか。月は二人にそのことを相談してみた。すると二人はかなり衝撃を受けたように目を見開いたが、可能性がないわけではないので否定はしない。むしろ月の考えを肯定したほうが、十日間も探しているのに見つからない理由が分かる。やはり、このまま港町に向かったほうが良いようだ。もしかしたら港町で万樹の目撃情報が得られるかもしれない。ほんの少しでも彼女に近づけるのなら、行動したほうがいいに決まっている。それに港町まであともう少しだ。諦めるな、大丈夫、必ず見つけられる。仲間もいる、心配はない。


 数時間かけて夕方に港町に着く。今日はすでに船が出てしまっている為、宿をとることにする。時間が余ったので月は友達と撮った写真を手に外へ出た。一人では心配だとリヴァイアもついていく。シンキは留守番だ。方向音痴の彼を一人で外に出すほうが怖いし心配だからだ。


「これ……なに?月と万樹……あと何人かいるけど」


 月の写真を覗いてリヴァイアは首を傾げる。写真を知らないようだ。リヴァイアは不思議そうに、少し興味のある目で見ている。それを見て、月は少しおかしそうに笑って説明した。


「これは写真って言ってね、カメラという機械で人や景色を紙に撮すんだ」

「……そんなことできるわけがないでしょう?」

「専門じゃないから、仕組みとかよく分からないけど実際にここに写ってる」

「……この紙の月は偽物でいいの?」

「……」


 リヴァイアの言葉に月は自分の説明の拙さを恥じた。偽物じゃなくて本物なのだが、それを理解してもらえるように説明する術を月は持ち合わせていない。 それに今は写真がどうのと言っている場合じゃない。万樹の目撃情報を得るのが先だ。リヴァイアも分かっていたようで、それ以上は口にはしなかった。町で聞くよりも港で聞いたほうがより多く得られると考えた二人は、まっすぐに港のほうへと足を運ぶ。船は出なくても、まだ従業員や乗組員が働いていた。とりあえず近くを通った男に声をかけて写真を見せる。男は写真を見て二人を不審がっていたが、写真に写る万樹を見るや否や顔色を変えた。


「おお、この娘っ子。三日前に見たぞ」

「本当ですか!?」


 いきなり情報ゲットだ。


「ああ、見た。たしかにこの娘っ子だ。かなり目立っていたからなぁ……」


 え、目立つ……?


 二人の動きがピタリと止まる。連れ去られたのに何を目立つようなことをしていたのだ。


「娘っ子自身はそんなに目立ってなかったんだがな?連れの男が、そりゃあもう美しい顔をしていてなぁ、一瞬女かと思うほどべっぴんさんだったな」


 連れの男がいる?あ、それが犯人か!万樹を拐いやがって、絶対に捕まえて……。


「彼女の様子はどうでした?」


 と月の思考を遮るようにリヴァイアが口を開く。すると男はケロッとした顔で「別に普通だったなぁ」と呟くだけだった。特徴は藍色の髪とスカイブルーの瞳、スラッとした長身の誰が見ても美しいと思えるぐらいの容貌らしい。万樹は怯える様子もなく、ただ普通に接していたとのこと。連れ去られたはずの万樹が、この港町で男と二人でごく普通に歩いていたというのが理解できない。今度はその二人がどこへ行ったのか聞いたほうが良さそうだ。


「……。月、もしかしたら万樹は……」


 不意にリヴァイアが小さく呟く。リヴァイアのほうに視線を向けて月は首を傾げた。


「……ん?」

「あくまで推測だけど、万樹は拐われたんじゃなくて、自らいなくなったんじゃないかな?」

「なんで?そんなことする理由がどこにあるんだ?」

「だから推測だって言ってるじゃないか。ずっと気になっていたんだよ、どうして月と万樹が別々にこの世界に現れたのか」


 眉を寄せてリヴァイアは重い口を開く。月は自分のことで精一杯だからそんなことに気づくことはなかった。そうだ、考えてみればおかしい。「月がここでの幻光石だから八年前の時、月と一緒に隣にいた万樹もここに来ることができたんだ、たしかシンキの手を取って来たんだよね?」

「……ああ」


 記憶を辿りながら月はリヴァイアの質問を肯定する。


「前にシンキが言っていたんだけど、あの時とにかく幻光石の作用で歪んだ空間に手を伸ばしたら、君たちをここへ連れてくることになったんだって。昔からこの世界には言い伝えがあってね、“異界より呼ばれし者、その力をもちて世界を救う原石とならん”これが、たぶん幻光石の光を視る力を持つ月のような人のことなんだと思う、だからこそ月はここに来ることができた」


 そう言われると、さらに別々にここに来たことがおかしいと思えてくる。月が呼ばれる理由はリヴァイアの話で少しは理解できた。しかし、万樹は誰に呼ばれたというのだろう。では、リヴァイアの言うように万樹は自らいなくなったというのか。なぜだ。


「じゃあ仮に万樹が自らいなくなったとして、どうしてわざわざロースレントまで来たんだ?それともなにか理由があっていなくならないといけなかったのか?」

「……。どうだろ、それは本人に聞かないと分からないね。少なくとも自らいなくなったと考えなくては港町での万樹の態度は考えられないよ」


 数秒、間を置いた後、彼女は月の目を見つめて答えた。その間になにかを感じ取ったが、あえて口にしない。まだ彼女はなにかを隠している。それだけは分かった。隠し事をするなと言ったのはリヴァイアなのに、その本人が隠し事をしている。それが分かっているのに隠し事んするなと言い返せない。たぶん月とリヴァイアとの違いは、悩んでいるかそうでないか。あの時の月は、どうしたら万樹を助けられるか、本当に元の世界に帰るのか悩んで考え込んでいた。だからこそリヴァイアに気づかれ、口出されたのだと思う。けれど、リヴァイアは違うのだ。彼女は昔から隠し事に関して考え事などしない。隠しているものそのものを自分で完結させて、他人には打ち明けないのだと、八年前のあの時に知った。だから、何があろうと彼女は言わない。その隠していることがバレるまでは、けして種明かしをしない。「きっと万樹は幻光石とは全く別のものに呼ばれたのかもしれない。確信はないけどね。大丈夫、万樹はいい子だよ。そのことは月がよく知っているよね?」


 いつもの笑顔でリヴァイアは月の不安を取り除こうとした。まだひっかかりはある。でもこの場は頷くことでこれ以上そんなに暗くなるような話はしたくないと月は思う。まずは一つでも有力な情報を手に入れなくてはならない。二人は再び万樹の行方の情報を得るために動き出す。船の近くにいる人や作業している人に聞いたが、さすがに港で二人の姿を知る者は少ない。すでに空は暗く、そろそろ戻らないとシンキが心配する頃だ。最後に一回だけ聞いて大人しく戻ろうと決め、二人は人を探した。数分ぐらいして、船の上に人影があることに気づいた二人は人影に声をかける。


「すいません」


 月が声をかけ、リヴァイアが本題に入る。


「聞きたいことがあるんですけど、降りてきてもらえますか?」


 リヴァイアの姿を見た人影は2つ返事で船から降りてきた。二十代後半ぐらいの中肉中背の男だ。舐めるようにリヴァイアの体を上から下まで見つめている。なんとなく不愉快に思った月は、彼女を守るように前に出た。キョトンとするリヴァイアをよそに無言の男二人の火花。明らかに男よりは顔の良い月のほうが勝ち目がある。男はしぶしぶリヴァイアのことを諦め、聞く態度を見せた。そこでようやく月も胸を撫で下ろす。


「ちょっと見てほしいものがあるんですけど……。明かりがないな……」


 写真を見せようとしたが、すでに暗くなっていて見ることができない。困っている月の後ろからリヴァイアが顔を出し、パチンと指を鳴らす。すると小さな火が突然現れ、三人の周りを明るくした。普通の町娘だと思っていた男は、リヴァイアのしたことに少なからず驚いていた。


「やっぱり僕がいて良かったでしょ?」


 ニッコリと微笑んで困惑する月にリヴァイアが言う。


「……こんなこともできるんだな」

「僕をなんだと思ってたのさ……」


 月の呟きにリヴァイアが口を膨らませる。攻撃専門だと思い込んでいたから、日常的な術を持っていないと考えていた。どうやら違ったらしい。それはともかく写真だ。月は写真の中に写る万樹を指して見かけなかったか尋ねる。「ああ、この子か。見たよ。たしかロゼウス行きの船に乗っていた」

「ロゼウスって?」

「アーバレウス大陸にある巨大な港だよ」


 リヴァイアの答えに月は眉を寄せる。やはり別大陸に移動したのか。にしてもその理由や目的が分からなすぎる。


「万樹を追ったほうがいいかもしれない。……嫌な予感がする」

「リヴァ……?」


 目を細め不安そうに自分の両肩を抱いたリヴァイアを見て、月は首を傾げる。とりあえず有力情報は手に入った。男に礼を述べて別れ、二人はシンキの待つ宿へと足を向けることにした。




「ロゼウスですか!?」


 宿に戻ってシンキに万樹がそこへ行ったらしいことを伝えたら、そう言って驚いていた。リヴァイアといいシンキといい、ロゼウスに何があるというのか。


「今、ロゼウスは治安が悪いと有名でね、女は売られ、男は重労働。老人と子供は役に立たないからと辺境に送られる。そんなところで万樹が大丈夫かどうか」


 とリヴァイアが複雑な表情で説明する。万樹にリヴァイアのように自分を守る術を持っていない。捕まったらすぐに売られてしまうことが分かりきっている。心配だ。


「万樹と共にいた男。もし害がないのなら彼がなんとかしてくれると思うけど確率は低いね」


 女のように美しいと思われる美男子。あの万樹が普通だったと考えても、その男が万樹を助ける保証は低いのは確かだ。こっちは相手がどんな人物なのか知らない。だから知らない人間をどうのこうのと言えないのだが。万樹が心配でたまらない。側に彼女がいないと落ち着かないし、亡くなった彼女の兄にどう顔向けしていいのか分からなくなる。


「万樹は大丈夫さ。僕がこうして生きているかぎり、彼女は生きている」

「!!」


 リヴァイアに言われて月は思い出した。月と幻光石が魂を共有しているのと同じく、万樹とリヴァイアも魂を共有している。久しぶりに会った時に、月自身が聞いていたことをすっかり忘れてしまっていた。 どうして魂を共有しているはずのリヴァイアと万樹の年齢が五つも離れていて、昔からある幻光石と月が共有しているのかも謎のままだ。シンキに尋ねてみようとしたが、さすがに彼でも分からなさそうだったのでやめた。そういえばシンキやミリアの魂と共有している人物が月たちのいる世界にもいるはずなのだが、知る術など全く持っていないので分からない。それにこの世界のことを知っているねは月と万樹だけだ。他人に話したところで信じてもらえるとは思えない。


「そ、そっか。そうだよな!?はぁぁっ、おかげで少し楽になった」

「良かった」


 へたり込む月にリヴァイアは笑顔を浮かべる。


「では明朝、ロゼウス行きの船に乗ることにしましょう」


 まだ顔を引きつらせながらもシンキは目的を決める。目指す先は決定した。別大陸にあるロゼウスへ。もしかしたら違う町に行ったのかもしれないが、ロゼウスでも情報は手に入れられるはずだ。三人はそう決めると、早々にベッドの中へと入った。

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